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全能無垢の最強賢者 ~「人の心がない」と追放されたので竜のメイドを雇ってみたら運命の相手だった件~  作者: epina


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第97話 巣作りしないと出られない部屋(レダ視点あり)

「クッ……!」


 フワルルが下着姿となって迫り来る。


 天然っぽい感じの女の子だと思っていたが、その肢体は極めて魅惑的だ。

 胸部戦闘力もあのシエリに匹敵する。

 かしまし三人娘の中で最大級だろう。


「よせ、フワルル! 君は理性を失っている!」

「そんなことないですよぉ〜!」


 フワルルが神官とは思えない速度で飛びかかってくる。

 とはいえ、チェルムと比べれば蝿が止まっているも同然。

 冷静に回避してから指を鳴らすと、紫色の雲がフワルルを包み込んだ。 


 が、雲の中からフワルルの手が伸びてくるので避ける!


睡眠雲(スリープクラウド)が効かない。既に一種のトランス状態か!」

「アーカンソー様好き好き好き好き好き好き好き好き好き〜〜っ!!」


 フワルルの目が完全にグルグルとしている。

 これは……精神系の魔法は効きが悪そうだな。


 ならば、神経系で攻める!


「許せフワルル! 終焉麻痺(エンド・パラリシス)!!」

「あびゃびゃびゃびゃびゃ……」


 フワルルが壊れた人形みたく体をビクンビクンと震わせながら倒れ込んでくる。

 なんとか抱き止められたが、大きな胸に埋もれそうになってしまった。


 セクハラを謝罪しながらベッドに寝かせ、下着が見えないように毛布を被せる。


「あああああかんんんんそおおおおおさあああああまああああ」


 それでもフワルルがずっと痙攣(けいれん)しているので罪悪感がすごい。

 早くなんとかしてあげなくては。


「それにしても加護による空間封鎖か。外に声は……届きそうもないな。通話のピアスも駄目と。瞬間転移(テレポート)はここがダンジョンでなくても発動しない」


 試しに指を鳴らして扉とは逆方向に向かって超級爆砲(ギガントフレア)を発動してみるが、壁には傷一つつかない。


「さて、どうしたものか」


 俺は神の加護についてそれほど詳しくない。

 こんなことならセイエレムの説法をもっと真面目に聞いておくんだったな。


「この空間封鎖を解くには特定の条件を満たす必要がある。フワルル曰く、想い人との関係成就とのことだったが……」


 カタカタと振動しているフワルルを見る。


「これは詰んだか?」



 ◇ ◇ ◇



「ご主人さまーっ!」


 竜娘(メスガキ)がドンドンと部屋の扉を叩き続けている。


 無駄だ。

 勝負はついた。

 わたしたちの、勝ちだ。


「アンタたち……いったい何をしたのよ!」

「いたた! したのはアーシらじゃなくてフワルルだし!」

「落ち着いて。説明するから」


 アーシの髪を引っ張っていた小娘(シエリ)を引きはがす。

 決着した以上はノーサイドだ。


「これはフワルルが信仰するヤッターレの加護よ。女神官が想い人とふたりっきりのときだけに発動可能で、外からの干渉が不能になるよう空間を封鎖するの。そうなったら、あることをするまで絶対に出られない」

「……あること?」


 小娘(シエリ)が眉をひそめる。


「言わなくってもわかるでしょ? 若い男女が同じ部屋にふたりっきり。何も起きないはずないわよね?」

「くっそー、巣作りなんてさせないぞ!」


 竜娘(メスガキ)が扉を殴ったり蹴ったりするが、傷ひとつつかない。


「たとえアーカンソー様といえど、神の加護を覆すことはできないし……」


 アーシの言うとおり、ヤッターレの加護は絶対だ。誤魔化しは効かない。

 フワルルがアーカンソー様と結ばれるまで、あの部屋からは絶対に出られない。


「アンタたち……これで本当に満足なの?」


 小娘(シエリ)がわたしたちをギロリと睨んでくる。


「こうまでしてあたしやウィスリーからアーカンソーを奪って、ホントに満足?」

「……それは」


 満足できる。

 そう思っていた。


 気に食わない小娘たちをやり込めて、アーカンソー様の寵愛(ちょうあい)をゲットできれば……この上なく幸せな気分になれると思っていたのに。


 この後味の悪さは何なのっ!?


「アーシらは!」


 アーシが叫ぶ。

 そのあとに続くのは小娘(シエリ)と目を合わせることもできない、あまりに弱々しい訴え。


「アーカンソー様に幸せにしてもらいたいだけ! アーシらにだって、その権利があるはずだし!」

「ふざけたことを言わないで」


 軽蔑と嫌悪、そして深い悲しみがないまぜになったような声だった。

 年下の小娘(シエリ)に睨まれて、わたしもアーシも微動だにできなくなる。


「権利があるですって? 自分を幸福にする責任から逃げてるやつが他人に幸せにしてもらおうだなんてムシのいい考え、あたしは絶対に認めない」


 そうまで言われて。

 勝ったはずなのに、どうしようもなく負けた気がした。


「ちっくしょーが! ご主人さまを返せ! 返せよー!」


 あの竜娘(メスガキ)……まだ諦めてないの?


 諦めちゃいなさいよ。

 イライラさせないでよ。

 無駄だって言ってんのにさぁ……。


 世の中にはどうしようもないこと、あるでしょう。

 才能とか環境とか、自分じゃどうしようもないものが邪魔してくるでしょう。


 そういう壁相手に、どれだけ頑張っても無駄なのよ。


 わたしたちはわたしたち以上の何かにはなれやしないの……!

 

「こんにゃろーっ! 開けよ、ばかーっ!!」


 竜娘(メスガキ)が飛び蹴りを放った。


 扉が、()()()()()()()


「えっ……?」


 開かないはずの扉が開いた?


 いや、違う。

 扉はもう開いてたんだ。

 開いていたはずだ!


「みんな無事か?」


 アーカンソー様が部屋から出てくるなり、わたしたちの身を案じた。


「ご主人さま!」

「アーカンソー!」


 竜娘(メスガキ)小娘(シエリ)がすぐさまアーカンソー様に詰め寄る。


「巣作りした!?」

「やったのね!?」


 したはず!

 やったはず!


「いいや、してないしやってない」


 そんなはずない!


「レダ。アーシ」


 アーカンソー様に呼びかけられてびくりとする。


「フワルルを介抱してやってくれ。麻痺魔法は解いておいたが、しばらく痺れが残るかもしれない」

「わ、わかりました」


 わたしはアーシと顔を見合わせてから部屋に入った。

 フワルルがベッドの中でスヤスヤ寝ている。


「どう?」


 フワルルの状態を確認したアーシに(たず)ねる。


「マジでしてないし」

「そっか……」


 どうやって空間封鎖を突破したかはわからない。

 アーカンソー様が何かしたのか。

 もしかして竜娘(メスガキ)が本当に蹴り開けたのか。


 どちらにせよ間違いなく――


「わたしたちの、負けね」


 そう。

 負けたのに。


 胸の中に湧き上がってきたのは、この上ない安心感だった。

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