第96話 恋する爆弾(フワルル視点とアーシ視点)
どどどどどうしよう〜っ!
アーカンソー様が隣にいるよぉ。
まさか、こんなことになるなんて……!
実を言うと、レダちゃんとアーシちゃんのふたりに隠していたことがある。
あたしはアーカンソー様にガチ恋しているのだ!
レダちゃんたちはあくまで玉の輿狙いであって、アーカンソー様に恋してるわけじゃない。
だから、ふたりともあたしの好き好きアピールをポーズだと思ってるみたいだけど、違うの!
言ってるうちにほんとに好きになっちゃったの〜っ!
ノリと流れでこんなことになっちゃったけど、あたしはアーカンソー様を遠くで見てるだけで充分だったの……!
嫌われてるけどウィスリーちゃんはいい子だと思うし、ふたりのやりとりを見てると癒やされるし。
それにシエリちゃんはアーカンソー様とすっごくお似合いだと思う。正直幸せになってほしい。
だからあたしの出る幕なんてないし、今回もふたりに任せて支援役に徹するつもりだった。
なのにどうして最前線なの〜っ!?
「どうしたフワルル。顔色が悪いぞ」
「あっ、あっ、あっ」
アーカンソー様に名前を呼ばれるたびに心臓が跳ねちゃう!
止めてほしいのにウィスリーちゃんとシエリちゃんは睨んでくるだけ!
あたしの方から迫ってないからってこと!?
「熱があるんじゃないか?」
アーカンソー様があたしのおでこにタッチしてるぅ〜!
そんなのエッすぎるよぉぉぉ〜!!
「凄まじい高熱じゃないか! 病気除去……は、効かないようだな。ならばおそらく疲労だ。ゆっくり休んだほうがいい」
「は、はいぃ〜っ!」
らめらめ!
ここにいたら、あたしの癖が出ちゃう!
『他人の男を狩りたい』ってサイテーでどうしようもない欲望が疼いちゃうよぉ〜!
◇ ◇ ◇
「あー、フワっち完全にキマッてんし」
フワっちがアーカンソー様におでこを触られてフレッシュトマトみたくなってる。
「まさかわたしたちの最終兵器がここに来て爆発寸前まで漕ぎつけるなんてね」
隣のレダっちと頷き合う。
正直言ってフワっちの惚れっぽさは尋常じゃない。
あの子は自分に暗示をかけて相手のことを好きだと本気で思い込んでしまう。
そのせいで結婚詐欺に遭ってしまい、大変な借金を背負うことになった。
だけど、フワッちが『蠱惑蝶』で男を搾り取る動機は金じゃない。
運命の相手を見つけるためだ……と本人は言っている。
その割にショタ系の男の子ばっかり狙うのはどうなんだと思うけど。
とにかく『蠱惑蝶』の最終兵器の名は伊達じゃない。
相手に本気で恋して堕として、すべてが済んだらケロッと忘れてしまう。
まさに恋する爆弾だ。
そして、フワっちにはわたしたちに絶対真似できない切り札がある。
あとは条件を整えるだけ。
まあ、すべてが終わった後はいつもどおりに忘れてしまうんだろうけど。
「ほーんと不憫。アーカンソー様にさっさと嫁いで幸せになるといいし」
◇ ◇ ◇
「いい部屋があって助かった」
「すみません〜」
アーカンソー様がダンジョンの中でベッドのある部屋を見つけて運んでくれた。
ほんとに優しい〜。
涙出ちゃうよぉ〜。
「他のみんなには部屋の外で見張ってもらっている。ここなら安全だ」
「あっ、あのっ!」
「どうした。何か必要か?」
「クエストが終わったら、恋愛に関する相談があるっておっしゃってましたけど! アレってなんなんですか〜?」
最初はみんなでお持ち帰りしてもらえるんだってはしゃいでたけど、よくよく冷静に考えたらそれはないんじゃないかな? って思う。
だから意を決して聞いてみることにした。
「ああ。ウィスリーとシエリについて相談しようと思ってたんだ」
アーカンソー様がそうおっしゃった瞬間、心がどんより曇ってしまった。
なんでかなぁ……みんなお幸せにって思ってたのに……。
「あのとおり、俺を巡って争っていてな。なんとか仲良くしてもらう方法がないものかと……」
一言一言が胸に刺さって、頭もグチャグチャにされる。
「それは無理だと思います」
だから意地悪したくなっちゃった。
「無理か」
「はい。ふたりがアーカンソー様に恋してる以上、どうしようもないです」
「そうか……」
これっぽっちも表情が変わってないけど、アーカンソー様は落ち込んでいるように見えた。
「いっそアーカンソー様がはっきりすればいいんじゃないですか?」
「はっきりか。それはどちらかを受け入れ、どちらかを捨てろという意味か?」
あたしは首を横に振る。
「アーカンソー様はどうしてひとりしか幸せにできないって思ってるんですか?」
「何……?」
アーカンソー様の目が初めて驚きに見開かれた。
あたしはここぞとばかりにまくし立てる。
「ハーレムの何がいけないんですか? そういう冒険者パーティってたくさんありますよ。別に重婚だってこの国では禁止されてないですし。みんな仲良くってわけにはいかないんですか?」
「……俺には荷が重い」
「でも今のままじゃ残酷過ぎます。みんな不幸になっちゃいます……」
もうどうしようもなく悲しくなって、泣いてしまった。
「すまなかった。それと、とても……とても勉強になった。礼を言う」
アーカンソー様がごく自然な仕草で涙を拭ってくれた。
すっごいイケメンムーブだよぉ〜……。
ああ、もう。
我慢が限界。
「ヤッターレ様ぁ〜♡」
あたしが祈りを捧げると同時に部屋の扉がバタンと閉まり、さらに壁が降りてきて出口を塞いだ。
「なっ、馬鹿な。罠はなかったはずだ。何が起きている!?」
「何って加護ですよぉ」
頭を熱に浮かされたままベッドから起き上がる。
「あたし、愛の神ヤッターレの神官なんです。ヤッターレ様の加護は『想い人と成就するまで空間を封鎖』できるんですよ〜」
「なんだと? ならば君も俺に――」
「ちょっとだけ甘えさせてください〜。あの子達を裏切っただなんて、思わなくていいですからね〜」
アーカンソー様に迫りながら、あたしは神官服を脱ぎ捨てた。




