第94話 デートクエスト(レダ視点)
「まさか、ここまで完全に隔離されるなんてね……」
わたしたちを取り巻く状況は、さらに厳しくなっている。
あれからというものアーカンソー様にまったく近づけないのだ。
今のわたしたちは『ごしゅなか』を先導するような形で目的地の森林地帯へ案内をさせられている。
距離もお互いの会話が届かず、呼びかけだけが聞こえる程度に離されていた。
「あのふたり、完全に組んでるね〜」
「さっき町で焚き付けて喧嘩させようとしてみたんだけど、さっぱり乗ってこないし!」
フワルルとアーシがブー垂れていた。
「……あのふたり、手強いわね」
間違いなく竜娘と小娘は手を組んでいる。
さっき落ち込んだときもアーカンソー様がフォローしてくれそうな場面だったのに、竜娘に潰された。
あれは完全に役割分担を決めてある動きだ。
わたしたちがいる間は互いに抜け駆けをしないと約束しているのだろう。
正直、ここまで完全にブロックされたのは初めてだ。
いつもならこんなことにならないよう標的パーティの女ともそこそこの友好関係を築いておく。
だけど同じ支部のパーティにデートクエストを仕掛けるつもりはなかったから、素で接していた。
こんなことなら竜娘ともっと仲良くしておくべきだったろうか?
いや、あいつだけは最初からあたしたちの正体を完全に見破っていた。どっちみち難しかっただろう。
「諦めるのは早いわ。モンスターとの戦闘になればチャンスは来る」
今回のデートクエストは王道も王道。
一緒にモンスター退治をして仲良くなる。
言ってしまえばそれだけだ。
デートクエストと普通のクエストの違いは、わたしたちがピンチになったフリをする点にある。
利敵行為にならないギリギリのラインを見極めながら標的にボディタッチしたり、胸を押し付けたり、下着をチラ見せしたり、お尻で下敷きにしたり。
とにかくセックスアピールをしまくる。
それだけ? と思われるかもしれないが、これがびっくりするくらい効くのだ。
男ってほんとに哀れな生き物よね。
それと自慢じゃないが、わたしたちの戦闘力は十三支部の中では群を抜いている。
さすがに第三相手には通用しなかったけど、真剣に戦えば第六支部でもやっていけると自負していた。
だから今回倒しに行くホブゴブリンの群れなんて、本来なら楽勝の相手なのだ。
でも、わたしたちは敢えて実力を隠して標的の男に助けを求める。
目的を果たすために。
「全員集まれ!」
突然アーカンソー様が叫んだ。
「どうかしましたー?」
わたしたちはここぞとばかりにアーカンソー様の方へ引き返す。
竜娘と小娘が渋い顔をするけど、アーカンソー様の発言の手前さすがに文句は言ってこない。
ようやく距離を詰められたことに内心ほくそ笑んでいると、アーカンソー様がわけのわからないことを言い出した。
「ホブゴブリンの生息地に入った」
「えっ、なんでわかったんですか? わたし、まだ痕跡見つけられてないですけど!」
「こちらの種族探知の網にかかった。間違いなくいる」
種族探知の魔法ぐらいはさすがに知っている。
特定の種族やモンスター種を指定して、その生き物のオーラの位置を把握する魔法だ。
でも、あれの効果範囲ってせいぜい半径五十メートルくらいだったような……?
「どっちですか? わたし、偵察に行きますよ」
「それには及ばない。今からここに魔法陣を描いてクエストの討伐指定区域全体に探知範囲を拡大する」
アーカンソー様がその場でステップを踏むと、地面に魔法陣が現れた。
何が起きているのか混乱してる間にも、アーカンソー様の言葉は続く。
「数は全部で百六十七体。そこそこの数だが縄張りはそこまで広がっていない。おそらくこのあたりにある未確認のダンジョンから洩れているんだろう。ああ、そうだ。念のため確認しておくが……この中に敢えてホブゴブリンと戦いたい者はいるか?」
「えっと……すいません。おっしゃっていることの意味がまったくわからないんですけど……」
私の質問にアーカンソー様は真顔で答えた。
「この程度の数なら俺ひとりで殲滅可能だ。だから、君たちが危険を冒してホブゴブリンと戦う必要はないと言っている」
えっと。
本当に何を言ってるんだろうこの人……。
「アーカンソー様、お言葉ですけどギルドカードに記録された区域内討伐数に応じた報酬をもらえるって依頼だから、別に全部倒さなくてもいいんじゃないですかね……」
「いいや、モンスターはすべて駆逐する。一体でも残せば人や動物に危害が及ぶからな」
それはそうだろうけど、百六十体ものホブゴブリンを殲滅するって個人の限界をはるかに超えた仕事量よね?
討伐区域だって結構広いし。
いったい、どうやってやるの?
そもそも、討伐区域のホブゴブリンを全部探知するって、そこからしてもうおかしくない!?
「戦う必要のないホブゴブリンと敢えて戦いたいか戦いたくないか。それだけ教えてくれ」
アーカンソー様が再度確認してくる。
竜娘と小娘は首を横に振った。
わたしたちはお互いに顔を見合わせた後に。
「それはまあ、戦わないでいいなら楽ですけど」
そう答えてしまう。
……後にして思えばこのとき、戦いたいと言っておくべきだった。
「了解した」
何故ならアーカンソー様がパチン、と指を打ち鳴らしたその瞬間。
「えっ、これ魔石っ!?」
突然周囲の地面にジャラジャラと無数の魔石が転がり出てきた。
「ホブゴブリンの独自ドロップの妖魔の耳もある〜!」
「レアドロップのゴブリンルビーもあるしっ!?」
フワルルとアーシも驚いている。
いや……驚きを通り越して、もう何がなんだかわからない。
アーカンソー様がひとつ咳払いをしてから、タネを披露し始めた。
「オリジナル魔法の即死転送を発動した。探知対象すべてを即死させた上でドロップ品を近くに自動転送する魔法だ。転送制限のあるダンジョンの中では使えないし、探知魔法にかかる相手しか対象にできないなど縛りも多いが、屋外ならばモンスターをこの目にせずとも一方的に殲滅できる。もちろん即死耐性のある相手にも通用しない、あくまで対雑魚モンスター用の魔法だな」
え、なんて?
オリジナル魔法?
ていうか、今の解説って詠唱呪文か何か?
言ってることがぜんぜんわかんなかったんだけど!
頭が理解を拒んでるんですけどー!
「ともあれ、これでクエスト完了だ」
アーカンソー様の宣言が耳から耳へ通り抜けていく。
その意味を理解したのは、ため息を混じりの小娘の台詞を聞いた後だった。
「知らなかった? アーカンソーがモンスターの討伐依頼をこなすっていうのはね。そこにいるモンスターが絶滅するって意味なのよ」
えっと、じゃあ何?
つまり百六十体近くいたホブゴブリンはみんな死んじゃって、ここに落ちたドロップ品は全部そいつらのってこと……?
「あはは……わたしたちのデートクエストが……始まる前から終わっちゃった……」
「レダ〜っ! あたしたちを置いて自分の世界に逃げないで〜っ!」
「気を確かに持つしー!」
フワルルとアーシの叫び声を遠くに感じながら、アーカンソー様の恥じ入るような呟きだけが鮮明に聞こえてきた。
そして思い知る。
「すまない。種族探知の射程向上と即死転送の改良が終わっていれば、現地に来る必要もなかった。王都にいながらにして遠隔でクエストを完了できたんだがな……」
幼馴染の忠告は、この上なく正しかったと。




