第91話 試練(シエリ視点)
「アーカンソー、いったい何を考えてるのっ!?」
女パーティ三人組が受付にクエストを受けに行っている間、あたしはアーカンソーに詰め寄った。
「何をとは……?」
「アンタなりの考えがあるのはわかる。あたしたちなんかじゃ理解が及ばないってことも。だけど……今回ばっかりは納得できないわ!」
何を思ったのかアーカンソーの目がすっと細められる。
「あちしも、わかんない。わかんないことはご主人さまに任せるって決めてる。でも……」
ウィスリーも辛そうな顔でエプロンの端をきゅっと握りながら俯いている。
主人の意図がわからない……従僕の立場としては不甲斐なさを恥じるしかないのだろう。
アーカンソーが目を伏せた。
「すまないが詳細は言えない。ただ、必要なことだ」
アーカンソーのこういう物言いを『はじまりの旅団』にいた頃に何度も聞いた。
いつだってそうだった。
アーカンソーは多くを語らない。
結果だけだ。
アーカンソーは仲間たちに意図を伝えず、最終的な結果だけを残す。
『はじまりの旅団』の中では生粋の頭脳派だったセイエレムがアーカンソーの見る先を読もうとしては挫折して、頭を抱えていたのを思い出す。
今回も昔のように何も語ってはくれないのだろうか?
だけど、今回のアーカンソーの言葉には続きがあった。
「だが、ふたりが納得できないというのは理解した。だからひとつだけ伝えておこう。これは試練だ」
「試練……」
アーカンソーは事あるごとに試練という言葉を口にする。
その内容は理解できないものばかりだが、常に大いなる意味が隠されているとあたしは睨んでいる。
「そうだ。ただし、俺のではない。ふたりにとっての試練だ」
「……つまり、あたしとウィスリーには何かクリアすべき課題があるのね?」
あたしの確認にアーカンソーが鷹揚に頷く。
「そっか。ご主人さまが詳しく話せないって言ったのは、あちしたちが自分で気づかなきゃダメな課題だからってことなんだね」
ウィスリーの言葉にハッとした。
課題が何なのか。
自分たちで考えなければ意味がない……?
ああ、そうか。
納得できないからといって家庭教師に何でも質問していては、子供と同じ。
つまりアーカンソーはあたしたちに子供を卒業しろと言っているのだ。
考えろ。考えるのよメールシア。
おそらくアーカンソーは既にヒントを出している。
あの三人組に「恋愛が得意か」と聞いていた。
だったら、この試練には恋愛が関わっていると考えるのが自然だ。
さらにアーカンソーはあたしとウィスリーを置いていこうとした。
あんなふうに言われたら、絶対に着いてくるとわかっていながら。
恋愛絡みで、あたしとウィスリーが挑まねばならない試練。
答えは一つしか思い浮かばない。
これはきっと『アーカンソー争奪戦』なんだ。
そのためにわざわざ『恋愛が得意な女たち』をパーティに加入させ、ライバルを増やしたに違いない。
なるほどね。
まさしく試練だわ。
「フフッ……あなたの狙いがわかったわ、アーカンソー」
「あちしもわかったよ、ご主人さま。完全に理解した」
ウィスリーにさっきまでの失意はない。
完全に狩猟者の目をしている。
フフッ、どうやら同じ答えに行き着いたようね。
「ククク、そうか。ならば励めよ? 俺はお前たちを信じているからな」
必ず勝ちあがると信じてくれているってことね。
それはそう。あんなぽっと出の三人組なんかに負けるわけにはいかない。
「それにしても今日の十三支部も盛況だな。まだレダたちがクエストを受領するまで時間がかかるだろうから、この間に俺は用を足してくる」
アーカンソーがわざとらしく席を外した。
おそらく、あたしとウィスリーがこの後に何をするのか……すべて読み切った上での行動だろう。
「ウィスリー。ちょっと提案があるんだけど」
「いいぞ。たぶん、同じことを考えてるからな」
ウィスリーがニヤリと笑う。
主人のいるところでは決して見せない狡猾な笑みだ。
正直言って嫌いではない。
「シエリ、お前はいいやつだと思う。だけど、お前はご主人さまを狙ってるから敵だ」
ウィスリーがジロリと睨んでくる。
「ウィスリーはとってもいい子だと思う。だけど、アーカンソーを手に入れたいあたしにとって、アンタは障害以外の何物でもないわ」
こちらも傲然と言い返しながら笑みを浮かべてみせた。
「それでも、あの女どもがいる間――」
「それでも、あたしとアンタとで――」
ウィスリーとあたしは、さっきみたいにがっちりと握手を交わした。
「手を組むぞ」「手を組みましょ」




