表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全能無垢の最強賢者 ~「人の心がない」と追放されたので竜のメイドを雇ってみたら運命の相手だった件~  作者: epina


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/117

第75話 バトルジャンキー

 チェルムは本気だ。

 気を抜けば、死ぬ。

 その確信だけがあった。


「クッ……!」


 即座に頭を切り替えた俺は、チェルムをひとまず敵であると仮定し、防御及び迎撃術式の発動条件を整える。

 さらに彼女の挨拶が終わるか終わらないかのタイミングで立て続けに指を打ち鳴らした。

 睡眠、麻痺、石化といったあらゆる状態異常(バッドステータス)でチェルムを無力化せんと試みる。


 だが――


「なんだとッ!?」


 耐性アイテムによる抵抗(レジスト)ぐらいは覚悟していた。

 だが、俺の魔法は()()()()()()()()()


「まあ。傷が残る魔法をひとつも使わないだなんて、ずいぶんとお優しい攻撃」


 俺の無作法な先手攻撃に、チェルムは悠然と笑みをたたえるのみ。

 しかも音声要素を完全省略した魔法効果をすべて見破ったというのか……?


「では、こちらの番ですね」


 (はや)い!

 こちらは瞬き一つしなかったというのに、チェルムは一瞬で間合いに踏み込んできた!

 そして何故か永続化(パーマネンシィ)してある各種感知魔法にまったく反応がない!


「シュッ」


 チェルムが鋭い呼気とともに繰り出してきたのは神速の突き。 

 予備動作の少ない最小限の抜き手が、こちらの頸部(けいぶ)に伸びる。

 爪の先で首にかすり傷さえつけばそれで事足りるといわんばかりの攻撃、つまりは毒!


「ぬぅッ……!」


 それでもあわよくば頸動脈を断とうという致命の一撃を、首を傾けてなんとか回避。

 だが、動きが最小限ということは連続して放てるということであり。


「シュシュシュッ」

「何故だ、クソッ……!」


 絶え間ない猛攻を避け続けながら、俺はイラだちに(うめ)いた。

 敵の攻撃に条件付けした防御術式や迎撃術式が、すべて発動しないからだ。


「魔法を抑止する罠かッ!?」

「残念。不正解です」


 微笑みを浮かべたままチェルムが追撃をかけてくる。


 やや大振りの攻撃!

 大きく跳べば、足にかすりはするが仕切り直せる……!


「まあっ」


 こちらが後ろに大きく跳ぶと、チェルムが感嘆の声をあげた。

 俺が毒を読んでいたにもかかわらず、こんな無茶な動きをするとは思わなかったのだろう。

 大腿部から多少の出血はあったが、チェルムとの距離を大きく離すことができた。

 ここが広い部屋で助かったな……。


「よく耐えましたね。かすれば並の人間は即死のはずなんですが」


 チェルムが爪についた俺の血を舐めながら、不思議そうに(つぶや)く。


「魔法に()らない毒対策ぐらいはしてある」

「ですよね。そうでなくてはいけません」


 チェルムが(たの)しそうに微笑んだ。


「どういうつもりなんだ……?」


 戦闘を仕掛けてくる理由はひとまず置いておくとしても、俺の頭は疑問に埋め尽くされていた。

 魔法が発動しないのもそうだが、もうひとつ。


 暗殺者とは、不意打ちや死角からの攻撃で対象の命を奪うことに特化した冒険者クラスだ。

 相手に全力を出させる前に仕留めるという意味では俺の主義に通ずるが、暗殺者の場合は相手の命を奪うのが前提だ。

 相手がたとえ人間であっても、である。


 そんな暗殺者であるチェルムが、何故か真正面から挑んできている。

 俺を殺すことが目的なら、背後に立ったときにできたはず。


「あら、何か考え事ですか? もしかして、暗殺者のチェルムがどうして正面から挑んでくるのかと、思い巡らせていらっしゃいます?」


 ここはチェルムの問いかけに無言を貫く。

 考えていることをピタリと当てられたからといって動揺してみせたら、大きな隙が生まれるからだ。


「答えは簡単です。暗殺は仕事。戦いは趣味。公私混同はしません。それだけです」


 予想外の答えが返ってきた。

 なるほど、これは重症だな。


「つまり、この無意味に思える戦いは、あなたがやりたいからやっているだけなのか?」

「はい。そう考えていただいて差し支えありません」


 まったく。

 メルルのときといい、どうして本調子でないときに限って厄介な相手と戦わなくてはならなくなるのか。

 いや、世の中はそういう試練の連続だったな……。


「それにしてもアーカンソー様」


 チェルムはこちらの隙をうかがいながら、首を(かし)げた。


「魔法が封じられただけで、こうも戦えなくなるものなのですか? 確か報告では、手刀でミノタウロスを両断したと聞きました。どうして応戦ならさないのです?」


 報告……シエリからか?

 いや、今そこは考えるな。

 敵との問答には常に罠があると思わねばならない。


「そのような攻撃をすれば、あなたに怪我をさせてしまう」

「まあ、本当にお優しいこと。ですが、チェルムを甘く見ていると死んでしまいますよ」

「そうはさせない。あなたに殺されたら、シエリが泣く」


 そう答えた瞬間。

 ざわりと、チェルムを取り巻く気配が変わった。


「ああ、どうしましょう。妬けますね。本当に殺したくなってきます」


 チェルムが腕をこちらに向けたかと思うと、何かを高速で飛ばしてきた。


 短剣(ダガー)か?

 いや、今のは投擲の動作ではなかった。


「これは、鱗か……?」


 眼前で咄嗟(とっさ)につかみ取ったのは漆黒の、先端が尖った鱗だった。

 よく磨かれた黒曜石のような輝きを放っている。


「まあ」


 チェルムが恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべる。


「チェルムの黒鱗弾(こくりんだん)を素手でつかみ取った殿方は、アーカンソー様が初めてです。本当に素晴らしい動体視力ですね」

「それはどうも」


 戦闘狂(バトルジャンキー)に褒められても、まったく嬉しくない。

 

「じゃあ、次はたくさん撃ちますね」

「……勘弁してくれ」


 さらにノリノリになるチェルムを見て辟易(へきえき)しつつも、考えを巡らせる。


 いや、どうもこうもない。

 魔法が発動しない以上、肉弾戦で凌ぐしかない。


「戦士なら……カルンなら、どうする?」


 腰の魔剣を抜きながら、俺はかつての仲間に想いを()せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ