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全能無垢の最強賢者 ~「人の心がない」と追放されたので竜のメイドを雇ってみたら運命の相手だった件~  作者: epina


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第58話 絶対零度

()めろ。()めろ。()()吐息(いき)客人(まろうど)よ――」


 隣のシエリが詠唱を開始する。

 最初の一節目の文言から氷結系の魔法であると確認。

 さらに詠唱が続きそうなことからアドバルを確実に無力化するための大魔法であると推定しつつ、彼女を守るため一歩前に出た。

 これみよがしに腰に()いた魔剣を抜き放ち、俺のクラスを錯覚させようと試みる。


「クィーッヒッヒ。()()()ということは【パリィ】狙いだな!」


 アドバルが狙い通りの読みをしてくれた。


 魔剣士は、その名のとおり魔力を帯びた剣の使用に特化したクラス。

 【パリィ】は物理攻撃を受け流す戦技だ。魔法攻撃を受け流すことはできない。


 しかし魔剣士が【パリィ】を使うと魔剣による魔法攻撃の受け流しが可能になる。

 さらに他人を庇う戦技である【カバーガード】でシエリを守っているかのように見せかけられれば……我々が狙われることは、まずない。


 もちろん戦士系クラスでない俺は【パリィ】も【カバーガード】も使えない。

 こざかしい牽制だが、火鞭への防御手段があると臭わせれば――


「ならば、まずはお前からだ小娘!」


 火鞭が振るわれる先にいるのはウィスリーだ。

 うねる炎の動きは鈍い。カルンであれば目を瞑っていても回避できるだろう。


 ここまでは作戦どおり。

 ベレイドーラの邪神官と戦うのだから火炎耐性は必須のはずなのだが、ウィスリー曰く「なくてもへーき!」とのことだった。

 はたしてどのように対応するつもりなのか……。


「どりゃー!」


 結論から言うとウィスリーは対応しなかった。

 自身を打ち据える火鞭を完全に無視して邪神官に突撃したのである。


「な、なんだとっ! 我が火鞭を受けて何故動ける……!?」


 仲間の俺ですら瞠目(どうもく)するのだから、アドバルの驚愕たるやないだろう。

 火鞭から受ける痛みと火傷は半端なものではないはず。

 ただ我慢して突っ込んでくるとは、予想だにしなかったはずだ。


 いや……あれは我慢ではない!

 火鞭を受けたメイド服の袖は確かに焼けてなくなっているが、その下の腕は銀色の鱗に覆われている!

 ウィスリーはノーダメージだ!


「鎧をいらないと言ったのは、そういうことか!」


 服の下の鱗がドラゴンと同じものなら魔法攻撃すら弾く。

 攻撃力と速度に特化した剣闘士でありながら、ウィスリーは重戦士並の防御力を誇るということか。


 しかし、安心したのも束の間……アドバルの左手から伸びていた火鞭がひとりでに動いてウィスリーの(すね)()()えた。


「どっこんじょー!!」


 それでもウィスリーの進撃は止まらない。

 見れば、ウィスリーのすらりとした足にも鱗が生成されている。

 攻撃される瞬間に部分的な竜化を行なったようだ。

 考えての行動ではあるまい。直感か、本能によるものだろう。


「やはり竜人族()脳筋なんだな……」


 確かに、これができるなら鎧はいらない。

 しかも一見するとむき出しの肌に見えるので、意外性も期待できる。

 現にアドバルは予想外の出来事が起こり過ぎて適切な回避行動が取れていない。


「【バッシュ】! くたばれオラーッ!」

「グワーッ!」


 攻撃力を上昇させる基本的な戦技で肩口を斬りつけられたアドバルが悲鳴をあげる。

 防御術式が発動したため傷は浅いが、わずかに出血した。

 これで逃走されたとしても生命探査(ロケート・ライフ)次元門(ゲート)で即座の追撃が可能になる。第一条件はクリアだ。


 ちなみに、いざというときのための防御術式を事前に組んでおくのは、魔法の使い手(マジックキャスター)であれば基本中の基本だ。

 今回のアドバルのように『攻撃されたとき』に発動するよう設定していた防壁(プロテクション)であれば、二回か三回が限度。

 『近接攻撃のみ』『背後からの攻撃のみ』といった具合に条件を絞ることで術式の回数や種類を増やせるが、それ以外への対策がおろそかになる。


 ともあれウィスリーの猛攻は続いた。

 立て続けに大剣を振るってアドバルの防御術式(リソース)を削っていく。


「ヒィィッ!!」


 アドバルが火鞭をでたらめに振り回しながら、たまらず距離を取ろうとする。

 しかし鞭はリーチが長い代わりに近すぎる相手には不利だ。

 ウィスリーも相手の武器の特性をわかっているのか離されまいと踏み込む。


 その瞬間、俺はアドバルの口端が吊り上がるのを見逃さなかった。


「下がれ、ウィスリー!」

「……っ!」


 俺の指示でウィスリーが飛び退いた刹那、激しい炎熱が少女の眼前を擦過(さっか)した。


「クィーヒヒ!! よく避けたな、小娘! 見てのとおり、我が火鞭は自在に性質を変えられるのだぁ!」


 アドバルの両手に握られていた火鞭の形状は炎剣に変化していた。

 “火鞭”という通り名で自分の武器が鞭だけだと錯覚させる戦略か。


 通り名で先入観を植え付ける。

 なるほど、当然の詐術(さじゅつ)だ。


 だが、お前の敵はウィスリーだけではないんだぞ?


「むっ、この冷気は!?」


 アドバルが足元から漂ってくる白い(もや)に狼狽する。

 発生源は俺の背後に控えるシエリ。

 彼女の呪文詠唱は最終節に差し掛かっていた。


「――()まれ。()まれ。静謐(せいひつ)結晶(けっしょう)(あるじ)よ。(われ)(なんじ)(こいねが)う。万象(ばんしょう)停滞(ていたい)を。生命(せいめい)絶焉(ぜつえん)を。(とき)三針(さんしん)永久(とこしえ)凝固(ぎょうこ)をもたらせ!」

「ま、まさかその詠唱はぁ! 有り得ない! 十三支部の()()が操れる大魔法では――」

絶対零度(アブソリュート・ゼロ)!」


 呪文の完成とともに、シエリを中心として世界が白く染め上げられた。

 邪神殿と化していた区画全体に極寒の冷気が充満し、我々の視界を覆い尽くす。


「ぐぅおおああああああぁぁぁっ!!」


 白霜の奥からアドバルの断末魔の悲鳴が聞こえる。

 それも一瞬のこと。白霜がすぅっと晴れた後には氷像と化したアドバルがいた。


「自動術式による復帰はなし、か。戦闘終了だな」


 この空間にアドバルの状態変化に連動する魔法がないこともしっかり確認する。

 どうやら大丈夫そうだ。


「ふたりとも、平気?」


 シエリが俺たちを気遣ってくる。


「大丈夫だ。問題はない」

「へ、へっちゃらー!」


 俺に続いてウィスリーも健在をアピールした。


「いくら耐性つけてあるからといって、アドリブで巻き込んじゃって悪かったわね」


 シエリが申し訳なさそうに頭を掻く。


「かまわんとも」


 絶対零度(アブソリュート・ゼロ)は術者を中心として効果範囲内のものを無差別に瞬間凍結する大魔法だ。

 巻き込まれた生命体は術者を除き無条件で仮死状態となる。

 しかしシルバードラゴンであるウィスリーには生来の、俺には強化魔法(バフ)による冷気の完全耐性があったため効果を受けなかった、というわけだ。


「それにしてもウィスリー、アンタやるじゃない!」

「お前こそ! ご主人さまほどじゃないけど、すごい魔法だったな!」


 ふたりが「イェーイ」とハイタッチをしている。

 普段は仲が悪い少女たちの笑顔に、なんだか俺まで嬉しくなってしまった。


絶対零度(アブソリュート・ゼロ)はいい選択だったな。仮死状態なら呪われることも自棄(やけ)をおこされて邪神を喚ばれることもない。やはり敵には何もさせず封殺するに限る」

「まーたそういう誤解されそうなこと言うんだから。それに、アンタならもっと早く同じ結果を出せたでしょう?」


 シエリは何故か苦笑しながら肩をすくめていた。

 確かに、あれだけ隙だらけなら俺が指を鳴らして絶対零度(アブソリュート・ゼロ)を使えば瞬殺できたような気もする。


 つまり、俺が戦えば一瞬で勝負が決まるというシエリの予想は正しかったわけだ。

 正直アドバルはもっと強敵だと警戒していたんだが……やはり俺の読みは、まだまだだな。


「あちしはあちしは!?」

「もちろんウィスリーも立派に戦っていたとも」

「そうかな。ちょっと、袖が焼けちゃったよ」

「それくらい、すぐ直してやる」

「にへへー!」


 よしよし、と撫でてやるとウィスリーの表情がとろけた。


「むぅ……」


 そんな我々をシエリが不満そうに眺めている。


「……まさかと思うが、シエリも撫でて欲しいのか?」

「なっ、バカ! そんなワケないじゃないっ!!」


 まあ、そうだろう。

 シエリはウィスリーと違って成人なんだしな。


「で、でもアンタがそんなに撫でたいって言うなら……撫でられてあげてもいいわよ?」

「別段そこまで撫でたいわけではないが……」

「そこは嘘でも撫でたいって言う場面なのよ! このアンポンタン!」


 どうして怒られたのか。

 これがわからない。

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