第50話 緊急クエスト
「えええぇぇぇっ!! どうしてシエリ様まで十三支部にいるんですかーっ!?」
ギルドに顔を出した途端、いつもの受付嬢が絶叫した。
さすがシエリ。俺と違って顔が売れている。
「『はじまりの旅団』を抜けてアーカンソーとまた組んだのよ。これからよろしくね」
「本当ですか、アーカンソー様!?」
「うむ。パーティ名は『ご主人さまとゆかいな仲間たち』……略して『ごしゅなか』。ウィスリーが考えてくれたんだ。えらいぞウィスリー」
「にへへー」
ウィスリーが頭を撫でられてご満悦だ。
何故かシエリが羨ましそうに見ている。
「いろいろ伺いたいことはありますが、本日のご用件はなんでしょうか?」
受付嬢が半ば理解を諦めたような顔で問いかけてくる。
「クエストを受けに来た」
「と、申されましても……皆さんに紹介するに相応しいクエストなんてウチには入ってきませんよ?」
なんとなく予想していたが、第七支部と同じ対応だな。
あのときと違うのは支部長が出てこないことくらいか。
「他のみんなが受けているものでいいのだが……」
「ウィスリーさんのブロンズカードはともかく、おふたりのプラチナカードに『猫探し』とか『下水道掃除』の実績を刻むのはちょっと……」
「うっ、改めて言われると尻込みしそうになるわね」
シエリが渋い顔をすると受付嬢も当然とばかりに頷いた。
「もっと別の支部で相応しいクエストを受けるのがいいと思います」
俺はカードのことなんて気にしないんだが。
だがまあ、いろんな支部でクエストを受けるのはありかもしれんな。
『賢者アーカンソー』の活動の噂を振りまく意味でも、ありよりのありかもしれん。
「でも拠点のクエストをひとつも受けないっていうのもねぇ」
「えっ。ウチを拠点にするなんて、正気なんですか!?」
シエリが漏らした一言に受付嬢がびっくり仰天した。
「フフッ、アーカンソーには何か考えがあるのよ。ね?」
「ん? ああ、もちろんだ」
十三支部の奴らはみんな良い奴だからな。
誰がなんと言おうと俺はここを拠点にすると決めたのだ。
俺の返事を聞いたシエリは満足げに笑う。
「そういうわけだから、いい感じのを見繕ってちょうだい」
「そこまでおっしゃるのでしたら……」
そのとき支部の入口がバターン! と開かれた。
「お願いです! 助けてくださいっ!」
飛び込んできたのはボロボロの服を着た身なりの良くない少年だった。
よっぽど必死に走ってきたのか息も絶え絶えになっている。
受付嬢が「失礼します」と我々に断ってから、少年のもとに向かった。
「落ち着いて。何があったの?」
「姉さんが! 姉さんが、さらわれたんだ!」
ふむ。
誘拐とは穏やかではないな。
「番兵たちはどうせ家出だろうって、ぜんぜん取り合ってくれなくて! お願いです、姉さんを助けてください!」
「詳しく聞かせてくれないか?」
俺の黒衣に驚いたのか、少年が「ヒッ」と小さな悲鳴をあげた。
何故か受付嬢まで意外そうな顔をしている。
「……お、おじさんは?」
まだおじさんと呼ばれるような年齢ではないはずだが。
まあ、子供からすれば歳の離れた男はおじさんか。
「たまたまクエストを受けたいと思っていた冒険者だ。君の姉がいなくなった状況を教えてくれ」
「その……花を売りに行ったまま家に帰ってこないんだ。いつもなら夕飯には間に合うのに、もう二日も!」
「ふむ」
話だけ聞けば確かに家出のようにも思えるが……。
「それに姉さんは出かけるとき言ってたんだ。今晩は俺の好物を用意するから楽しみにしててって……だから家出なんてするわけないんだ!」
……そういうことか。
「金なんてほとんどないけど、出せるだけ出すよ! だから、姉さんを助けて!」
土下座する少年の見て受付嬢がいつになく真剣な表情を浮かべた。
「私の支部長権限で緊急クエストを発行します。依頼内容はこの子のお姉さんの捜索及び保護。詳しい報酬などはこれから決めますが、動けそうな冒険者には先に動いてもらいます」
この受付嬢、十三支部の支部長だったのか!
意外……でもないか。小さい支部だしな。
「アーカンソー様、いかがでしょう? こちらの緊急クエストを『ごしゅなか』の皆さんに紹介したいのですが」
無論、答えるまでもない。
俺は後ろのふたりに振り返った。
「いいな?」
「もちろんやるっ!!」
「反対すると思う? それにリーダーはアンタでしょ」
そうか、俺がリーダーということになるのか。
言われてみれば当然だが、責任重大だな。
「では、リーダーとして決定しよう。支部長の要請に応え、緊急クエストを受領する!」
「ありがとうございます」
受付嬢改め支部長がこちらに一礼した後、パンパンと手を叩いて冒険者たちの注目を集める。
「みなさ~ん! 緊急クエストですので参加上限は設けません! 手が空いてる方は奮っての参加をお願いします!」
「やるぜやるぜぇ!」
「今日だけは心を入れ替えて仕事するって決めたんでの!」
「酒場で飲んでる連中にも声かけてくるんだぜ!」
イッチーたちを始め、冒険者たちが一斉に声をあげ始めた。
「へぇ。思ってたよりいいじゃない、この支部!」
テキパキと動き出す冒険者たちを見てシエリがクスッ笑う。
「フッ、そうだろう?」
確かに普段はどうしようもないロクデナシばがりかもしれない。
しかしその日の酒代さえもらえれば、他に頼るあてのない子供の依頼だって受ける。
それが、十三支部の冒険者というものだ。




