第41話 時間の無駄
俺の中で憎悪にも似た黒い炎がくすぶり始める。
同時に、私怨で裁くのではなく、法に委ねるべきではないかという理性も働いていた。
「ブロッケンに命じて高利貸しをさせていたな?」
「い、いや違う! あいつが勝手にやっただけだ! ワシは何も知らん!」
「あくまで奴が暴走したと言い張るのだな」
マニーズが必死に頷いているが、そんなはずはない。
ブロッケンが嘘を吐いていないのは魔法で確認済みだ。
虚構を真実と思い込んでいる可能性は捨てきれなかったが、先程の反応からして裏で手を引いていたのはマニーズだろう。
「『本当のことを言え』」
これ以上、無駄な問答に時間をかけたくない。
魔法で手っ取り早く聞き出してしまおう。
「ワ……ワシが命じた。ワシの金を預けて転がさせていた」
「何故、あんな依頼を出してまで俺を呼び戻そうとした?」
「そんなの決まっとるだろう。金だ、金! お前がおらんと超高難易度クエストがなかなか片付かんからな。はじまりの旅団がいた頃は毎日のようにクリア報告が上がってきてホクホクだったというのに! あれらの仕事には王国からの支援金だって出てるのだぞ! 短期間で数をこなしてもらわねばワシへのリベートが減ってしまう!!」
意外には思わない。
マニーズが金の亡者だという話は元仲間から聞いたことがあるからだ。
さて、超高難易度クエストに支障が出るという言い分だが……第一支部には強力な冒険者たちが揃っている。俺がいないと成り立たないなんてことはないはずだ。
だから、マニーズの金儲けに都合が悪いだけだろう。
「投資先がブロッケンだけのはずはないな? 他に何をやってる」
「手広くやっとるよ。奴隷売買に賭博、麻薬栽培となぁ。もちろんワシは投資をするだけだが」
……ああ、これはもう法で裁いてもらう他ないな。
とてもじゃないが俺個人の恨みを晴らして終わりにしていい話じゃない。
「かつての俺のように金がなくなる恐怖に囚われてしまったんだな。哀れな……」
もう聞きたいことはない。
マニーズに物証を持たせて当局に突き出せば、それで終わりだ。
ついでに依頼を棄却するよう示唆をかけておけば確実だろう。
「ワシが哀れだと? お前だってそうだろうが!」
今後の算段をしていると、突然マニーズが叫んだ。
「……俺が?」
「稼ぎ頭だったのに、はじまりの旅団を理不尽に追放されただろう! 連中に利用されるだけされて捨てられて! これ以上ないほど哀れだろうがっ!」
「ふむ……?」
そういうふうに見られていたのか。
まあ、何も知らない第三者からすればパーティから追放された冒険者に対する認識なんて、そんなものだろう。
少し前の俺であれば、マニーズの言葉に冷静さを失っていただろうが……。
「しかも十三支部で仲間の登録をしたらしいではないか! あんな底辺に流れ着くとは、天下のアーカンソーも落ちたものだ!」
……不思議だな。
大事な友人たちを侮辱されているはずなのに、まったく心に響かない。
きっと、他人を貶めることで少しでも自分の立場を浮上させたいマニーズの心理が透けて見えるからだろう。
先程まで胸を焼いていた黒い炎も綺麗さっぱり消えている。
「そう思いたいなら思っているといい。お前を取り巻く世界は何一つ変わらない」
この男は何も知らない。
単にヤケクソになっているだけだ。
ほんの少し前の、俺と同じで。
「いいや、変わるとも! 何故ならワシは金を持っとるからだ!」
「金ですべて解決できると?」
「いや、すべては無理かもしれんが、ほとんどのことは金で解決できる! ああ、そうだ! 取引をしよう! ワシのことを黙っててくれたら、望みの額をやろう! バカな連中と違ってワシはお前のことを評価しとる! 手を組んだほうが互いにとって利益になるはず! どうだ、悪い話ではあるまい?」
「なるほど、本気か。嘘偽りなく、本当にそう思っているんだな」
他人の考えを馬鹿にしたくはないが……くだらないし、浅ましい。
いったいどうやって冒険者ギルドの支部長になれたのやら。
ああ、それも金か? どうだっていいが。
「さらばだ、マニーズ。関わるだけで時間の無駄と思わされた男は、お前が初めてだ」
未だに何やら喚き散らしているマニーズに向かって、俺は無造作に指を打ち鳴らした。




