表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全能無垢の最強賢者 ~「人の心がない」と追放されたので竜のメイドを雇ってみたら運命の相手だった件~  作者: epina


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/117

第31話 打ち砕かれた平穏

 楽しい休暇を終えた俺とウィスリーは、数日ぶりに王都の街中を歩いていた。


「いやあ、いろいろあったが……終わってみるとなかなか楽しかったな」

「うん! またみんなで行こうねー!」


 ピクニックは、なんやかんやあって泊まりがけのキャンプになってしまった。

 ドラゴンに変身できたメルルが喜んでいたのも束の間、近くを見回っていたエルメシア王国騎士団が出撃する事態に発展してしまって……。

 まあ、これについては割愛する。

 機会があれば改めて語ることもあるだろう。


「まあ、個人的には昨晩が一番大変だった気もするが……」


 昨晩に至っては『夜のご奉仕騒動』があった。

 ウィスリーが事あるごとに言っていた『夜のご奉仕』の正体がマッサージだと判明したのだが……。

 残念ながら、ウィスリーの名誉に関わるため詳しく語ることができない。

 俺の複雑骨折を治すのに上位治療(グレーター・ヒール)が必要だったとだけ言っておこう。


「ごめんね。あちし、今度はちゃんと優しくやれるようにするから……」

「ああ、頼むよ」


 ウィスリーも反省していることだし、もう追及する気はない。

 メルルからもたっぷり説教を食らって、正しい『夜のご奉仕』について指導されるそうだしな。

 おかげで少し先の話になりそうだが、実に楽しみだ。


 そういうわけで。

 さまざまな試練を乗り超えた俺は、数日ぶりに十三支部へ向かっている、というわけだ。


 ちなみにメルルは酒場の設備を弁償するためにウェイトレスをする約束があるそうで、一足先に十三支部の酒場に出勤している。

 後で顔を出してみるとしよう。


「あっ、アーカンソー様! 今までどこに行ってたんですか!?」


 ギルドの入り口をくぐるなり、以前ウィスリーの冒険者登録で世話になった受付嬢が声をあげた。

 自然とこちらに注目が集まり、職員や冒険者がヒソヒソと小声で(ささや)き合っている。


「ちょっと休んでいたんだ」


 ただならぬ予感を覚えつつもカウンターに向かい、受付嬢に会釈(えしゃく)した。


「そうでしたか。それはそれでよかったかもしれません」

「というと?」

「実は、しばらく前から第一支部の支部長がアーカンソー様を呼び戻そうとしてるって噂が伝わってきてたんですが……」

「支部長が俺を?」


 第一支部の支部長……名前はなんと言ったっけな。

 あまり好感の持てる人物じゃなかったことは覚えているんだが。


「その噂を裏付けるように別支部の冒険者がひっきりなしに押しかけて来るようになったんです! それでアーカンソー様に取り次ぐように言ってきて、これがもうしつこいのなんのって……!」

「そんなことになっていたのか。迷惑をかけてしまってすまなかったな……」


 俺が謝罪すると受付嬢は慌てて首と手をぶんぶん振った。


「いえいえ! アーカンソー様には何の落ち度もないですから! あの常識知らずな奴が全部悪いんです!」


 ぷんすかぷんと怒りながら腰に手を当てる受付嬢。


「うーむ。別に冒険者はギルドに所属しているわけじゃないから、呼び戻すというのも変な話なんだがな。しかも俺はまだ十三支部で仕事を受けていない。ウィスリーを冒険者登録しただけだ」


 俺の横で話を聞いていたウィスリーが、こちらの視線に気づいてにぱっと笑った。

 うむ、かわいい。


「そういうわけですので、しばらくこちらに顔を出すのは控えたほうがよろしいかと……」

「わかった。忠告に感謝する」


 ふむ。ウィスリーのために依頼(クエスト)でも見繕(みつくろ)おうと思っていたのだが。

 またダンジョンにでも行くか?

 あるいは、別の支部を利用するか。


「とりあえず酒場に行くか。メルルもいるはずだし、イッチーたちも真昼間から飲んでるかもしれんしな」

「あーい!」


 こうして俺たちはギルドに併設された酒場へと向かった。



 ◇ ◇ ◇



「あーはっはっは! (よえ)ェ! 弱すぎる! 十三支部の冒険者ってのは、この程度なのか!?」


 酒場に入った途端、酷い惨状が目に飛び込んできた。

 十三支部で顔見知りとなった冒険者のほとんどが倒れていて、テーブルや椅子もひっくり返っている。

 店のド真ん中でふんぞり返って笑っているのは、見覚えのない戦士風の冒険者。

 見上げるような巨躯(きょく)の男だ。


「ち、畜生ぉ……!」

「こうも簡単に負けるとは歯がゆいの……」

「悔しいけど手も足も出ないんだぜ……」


 イッチー、ニーレン、サンゲルが地に伏しながら悔しそうに顔を歪めていた。


「テメェらマジで情けないと思わねェのかよ? そのザマで冒険者でございってか? どう考えても生きる価値なしだろ! さっさとダンジョンで野垂れ死んどくのがいいんじゃね? オラ!」

「ぐっ!」


 巨躯の男はみんなのことを散々に嘲笑(あざわら)いながら、イッチーの顔を踏みつけにした。


「どうだ、そろそろ言う気になってきたんじゃねェのか?」

「ケッ……知らねぇっつってんだろ、ターコ」


 悪態を吐いたイッチーが思い切り腹を蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられてからピクリとも動かなくなる。


「チッ、ゴミどもが。雑魚の分際で粋がりやがって」


 巨躯の男が忌々しそうに毒づく。


「……なんだ、これは。どういう状況だ」


 理解が追いつかない。

 怒りより先に疑問ばかりが()いてくる。

 どうしてこの男は俺の友人たちに暴力をふるっている――?


「ご()()()! ウィスリー!」 

 

 酒場で手伝いをしていたメルルは無事のようだ。

 しかし、普段の彼女は俺のことを『アーカンソー様』と呼ぶはずだ。

 俺の名前を出せない理由があるのだと、すぐに察した。


「あーん? なんだ、テメェも十三支部の冒険者か?」


 巨躯の男もこちらに気づいた。

 ずんずんとこちらに近づいてくる。

 

「そうだと言ったら?」

「ハッハァ! 一度しか言わねえからよく聞け! さっさとアーカンソーを出しな!」

「……なるほど?」


 頭の回転の遅い俺にも、ほんの少しだけ見えてきた。

 この男は俺が目的で、何故か十三支部の冒険者たちと喧嘩になって、たったひとりで全員に勝利した。

 そして、なんらかの事情を察したメルルは俺のことを隠そうとしてくれている……というわけか。

 まだ全容(ぜんよう)は見えないが……。


「フーッ! フーッ!!」


 隣のウィスリーが興奮のあまり歯をむき出しにしていた。

 男に襲い掛かりたいのを必死に(こら)えているように見える。

 戦闘の許可を出していないことに加え、男の敵対が確定したときに俺をすぐ守るためだろう。

 これがいつものような喧嘩祭りではないと、俺より先に本能で理解したのだ。


「……ウィスリー。よく耐えてくれた」


 男から目を離さないまま、つぶやいた。

 メルルにも目配せをしてから、唇で「ありがとう」と伝える。

 彼女は少し驚いていたが、こちらの意図を察して(うなず)いた。


「探し人ならここにいる」

「……何?」


 俺の言葉に巨躯の男が眉をひそめる。

 構うことなく告げた。


「俺がアーカンソーだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ