第20話 ボス戦
その後、俺たちは難なく第七階層まで到達していた。
「うーむ、いくらなんでも簡単すぎやしないか……?」
「そうなの? これが普通じゃないんだ?」
かわいらしく小首を傾げるウィスリー。
「俺が今まで潜ってきたダンジョンは全自動浮遊回転刃と罠探知だけで攻略できるほど生易しくなかったんだがな……」
もちろん二重三重の備えは用意してあるが、今のところ一度も使っていない。
一度だけ銀以外の物理攻撃に強いウェアウルフが一匹生き残ったが、それもウィスリーによって一刀両断にされた。
彼女の剣には事前に上位武器強化を付与してあり、大抵の耐性を貫通できる。
「おかしいな。ここの攻略にイッチーたちが手こずっているという話ではなかったのか? 難易度が高いどころか、これではダンジョンと呼べるかどうかすら怪しい」
「そこまで?」
「しかも、そのイッチーたちが一向に合流してこない」
「うーん、確かにね。いったいどうしたんだろ?」
「ここまでの目印は残してきている。少なくとも今日一日はモンスターや罠の再配置はないから、合流は難しくないはずなんだがな……」
一度戻ろうかとも思ったが、行き違いになる可能性もある。
ダンジョンの中で待っていては日が暮れてしまうし、そうしたらモンスターや罠がリスポーンしてしまう。
コアを破壊してダンジョンを消滅させれば自動的に全員が地上に戻れるのだから、このままクリアを目指すのが順当だろう。
「などと言っていたら、一際大きな反応が引っ掛かったぞ。しかも単体だ……まさかとは思うがボスか? おかしいぞ」
「何がおかしいの?」
「ここはまだ七階層だ。俺は今まで十階層より手前のフロアでボスと遭遇したことがない」
「ご主人さまでもわからないようなことが起きてるの? 大丈夫かなぁ……」
ウィスリーが不安げに通路の先を見つめた。
あの闇の奥に、このダンジョンのボスらしきものがいる。
「イレギュラーが起きているのかもしれないな。手を抜かずに全力でいこう。念のためにウィスリーにはあらゆる強化魔法をかけておく。全自動浮遊回転刃より一段階上の上位全自動浮遊回転刃を三十六枚ほど展開しよう。これで弱らせてから俺も大魔法を叩き込む。その後でウィスリーは弱ったボスに白兵戦を仕掛かけるんだ。いいな?」
「あい!」
ウィスリーの元気な返事に頷き返してから、俺は指を打ち鳴らした。
上位全能力増強を始め、足場が悪いときに備えて自由移動、魔法を使ってくる敵への対策として上位魔法抵抗などの強化魔法を十種類ほど同時発動でウィスリーに付与した。
ついでに上位全自動浮遊回転刃も同時発動しておく。
今までより大型の回転刃もきっちり三十六枚、俺の周囲に出現した。
これまでは脅威探知で引っかかったオーラと同数までに留めていたが、相手がボスなら出し惜しみはなしだ。
「よし、準備完了だ」
ボスのオーラに反応して回転刃が通路の先へと飛んでいく。
俺は気合を入れ直すべく手袋をキュッと締め直した。
「これが決戦だ! 行くぞウィスリー!」
「あいあい!」
俺たちは闇の奥に消えた回転刃を追う。
しかし走っている途中で予想外のことが起きた。
「脅威探知の反応が消えた? ボスがオーラを隠蔽したのか!?」
上位の悪魔モンスターには自分のオーラを隠して、こちらから姿を隠す奴がいる。
全自動浮遊回転刃はオーラを頼りに攻撃するので、探知できない相手には通用しない。
「クッ、そうか……このダンジョンはボスが強すぎて誰も攻略できなかったというわけか!」
「大丈夫! ご主人さまとあちしなら、絶対負けないよ!」
「ああ……そうだな!」
いつ以来だろう。
パーティの仲間とこんなに熱いやりとりをしたのは。
結成当時の『はじまりの旅団』では俺も……いや、今はボスに集中しなくては!
「このエリアだ!」
俺とウィスリーはだだっ広い空間に到達した。
案の定、回転刃はオーラを探知できず巡回モードに移行している。
すぐに周囲を確認するが、ボスの姿はどこにも見えない。
ウィスリーもグレートソードを構えたまま、キョロキョロとあたりを見渡している。
「気を付けろ! 敵は透明化している! しかも俺の真実眼でも見えない! どこから仕掛けてくるかわからないぞ!」
「わ、わかった!」
姿もオーラも見えないような強敵が相手だ。
はたしてウィスリーを守りながら戦えるか……いや、たとえ何があってもウィスリーだけは守らなくてはならない!
たとえ、俺の命と引き換えになってもだ!
「あっ!」
ウィスリーが何かに気づいたように駆け出した。
「ボスの位置がわかったのか!?」
いつ何が起きても反応できるよう気を張り巡らせながら、俺もウィスリーの後を追いかける。
ウィスリーが部屋の中央あたりで立ち止まった。
剣を構えるのをやめて、床のある一点を凝視している。
「ウィスリー! 戦いの最中に構えを解くのは危険――」
そう言いかけて、俺もウィスリーが見つめる床に視線を落とした。
そこにある拳大の物体の正体を察した俺は、驚愕のあまり目を見開く。
ウィスリーがそれを拾い上げながら、ぽつりと漏らした。
「魔石だね」
「魔石だな」
「大きいね」
「大きいな」
「ボスのかな?」
「ボスのだろうな……えっ?」




