第115話 夜のご奉仕その4
その夜。
いつもどおりに宿の部屋でメルルから夜のご奉仕を受ける。
目隠しをされているので見えないが、メルルはいつもどおりあられもない姿をしているのだろう。
「そうですか。王選に挑まれるのですね」
「ああ。メルルはまだ反対か?」
「いいえ。ご主人様が決めた以上は全力でご奉仕するのみです。何より未来のご主人様がおっしゃったようにシエリ様が亡くなるなら、お助けすべきです」
メルルにだけは未来から来た俺のことを明かした。
一歩引いた立場から意見をもらいたかったからだ。
自分の理解の及ばない話だと恥じながらも、メルルは俺の言葉だからと信じてくれた。
もちろんウィスリーとシエリにはまだ話していない。
未来の自分のことでウィスリーが悲しむのは俺の……というより彼の本意ではないだろう。
そしてシエリは当事者だ。
余計な情報を与えて混乱させたくない。
真実を打ち明けるとしたら、すべてが終わった後だ。
「ご主人様は、これからどうされるのですか?」
「シエリを守る。そのためにひとまず表の王選について調べてみた」
「表の……ですか?」
メルルが俺の背中をさすりながら呟く。
「表向きの王選はお祭りだ。国王の宣言とともに、それまで市井に身をやつしていた王女や王子が初めて民の前に姿をあらわすお披露目式が催される。シエリはそこで初めて王選が開始されると言っていた」
「王選は秘密裏に行われるというわけではないのですね」
「ああ。これは暗殺を避けるために候補者の正体を隠すという俺の仮説を覆すものだ。ただしお披露目するのは十三人全員ではなく、何人かの王妃との間にできた正統な王族だけらしい」
「王族以外の候補者だけは正体がわからないまま、ということですね」
本当に奇妙な話だ。
正統な王族だけでなく、王のお手つきで生まれた庶子まで王位継承の候補者になるなど……。
そもそも王選について知った後だと普通に王妃がいることにすら違和感を覚える。
「それで王族と庶子の条件がイーブンになる、とは思えんがな。まあ、王族にとっては狙われる立場になるのも試練のうちなんだろう。だが、シエリが暗殺される理由はよくわかった」
「そうなのですか?」
どうもメルルにはピンと来なかったらしく、マッサージの手が止まった。
「シエリがお披露目で王族だとバレたら、真っ先に狙われるのは当然だ。彼女が『はじまりの旅団』で打ち立てた功績は計り知れない。他の候補者からすれば真っ先に消すべき対象となる」
「しかし、王選が始まるのはお披露目の後という話だったのでは?」
「だから、そこまでが表の王選なんだ」
メルルがハッと息を吐くのが聞こえた。
「未来の俺もシエリが現状トップだと断言していた。つまり、王選そのものは……貢献度の蓄積は既に始まっていると考えられる。少なくともそう考えた候補者がシエリを狙うはずなんだ」
ここから先は想像だからメルルに言えないが、おそらく候補者に与えられている情報は平等ではない。
もしかすると王選の勝利条件ですら、異なる内容が伝えられているかもしれないのだ。
「俺の目的は必ずしもシエリの勝利ではない。敗北した候補者が、その後も王国内で地位を得た例もある。勝者以外が死なねばならないわけではない。だから、俺の目標は王選が終わるまでとにかくシエリを守りきることだ」
「でしたら、シエリ様もお迎えできる場所が良さそうですね……」
「ん、何の話だ?」
「あっ、そういえばまだご主人様にはちゃんと伝えてなかったですね!」
パチンと音がする。
メルルが手を叩いたようだ。
どこか弾んだ声で告げてくる。
「実はここ一週間ほど、物件を探していたんです」
「物件だと?」
「宿だと……その。やっぱり声が漏れるでしょう?」
「魔法で遮音はしているが、うっかり忘れるかもな」
「ええ。ですから、ご主人様にもっといろいろなご奉仕をするためにも広い邸宅を探していたのです」
「なるほど。それは確かにあったほうが良さそうだな」
そういえばシエリが合流した頃に王都で探し物があるとかメルルは言っていたな。
今後の我々にとって大事なものという話だったが、物件のことだったのか。
ウィスリーが期待していたような美味しい食べ物ではなかったんだな。
「それにその……ベッドがもっと柔らかくて大きければ夜のご奉仕でもっと大胆なことができるようになりますし……」
メルルが甘えるように俺の背中に胸を押し当ててくる。
「……だいぶ発情してるぞ。まさかとは思うが、物件探しは巣作りが目的ではないだろうな?」
「ええー、そんなことないですよー」
棒読みになっているぞ?
しかし、ウィスリーも言っていたようにメルルには相当な我慢を強いてしまっているようだしな。
「まあ、そこもおいおい考えていかねばならないのは確かか……」
「えっ。ご主人様、その気になってくれたんですか!?」
「違う、そうではない。誤解だ。だからメルル、俺を強引に仰向けにしようとするのをやめるんだ。話を聞いているのかメルル? メルルー!」




