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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー2021『かくれんぼ』

また会えたね

作者: 小畠由起子

※本作品にはいじめの描写が含まれます。苦手な方はご遠慮ください。

「お願い……やだよぉ……」


 ガチガチと歯を鳴らしながら、まゆが奈美恵を見あげましたが、そんなことはおかまいなしに、奈美恵はまゆの口にガムテープをはりつけました。


「むーっ! むーっ!」

「じゃあね、ま・ゆ・ちゃん♪」


 必死で抵抗しようとするまゆでしたが、後ろ手に手をなわとびでしばられているので、どうすることもできません。イヤイヤするまゆのほおを、奈美恵が張り手で引っぱたきます。ショックで動きが止まるまゆを、奈美恵はドンッとそうじ道具入れのロッカーへと押しこみました。


「それじゃドア閉めてっと。カギないから、ガムテープはっつけとこうか」

「むーっ! むぅーっ!」


 まゆがどんどんとドアに体当たりします。取り巻きの女の子たちがドアを押さえ、そのすきに奈美恵が何枚もガムテープをはりつけ、開かないようにします。


「むぅぅーっ!」

「あーもう、うるさいわねぇ! かくれんぼなんだから、我慢しなさいよ! 暴れなくたって、明日には見つけてあげるわよ」


 奈美恵がうっとおしそうにいいますが、それでもまゆはバンバンと中で暴れています。チッと舌打ちすると、奈美恵はガンッとドアをけとばしました。


「むぅっ?」

「うるさくすんじゃないよ! 先生にいわれたでしょ、いじめないで仲良く遊びなさいって。だから仲良く遊んであげてんじゃないの! ……あんたが先生にチクるから、こういう目にあうの。わかった?」


 ガチガチと、ドアが音を立てましたが、どうやらまゆは暴れているのではないようです。怖がりなまゆの性格を思い出し、奈美恵はにぃっとくちびるをゆがめました。


「そうやって暴れてもいいけど、もう誰も来ないわよ。警備員さんが見回りに来るかもしれないけど、どうせそれも夜中だし。……そんなに暴れてると、警備員さんより先に、おばけに見つかっちゃうかもしれないわよ」


 ピタッと、ドアの音が止まりました。奈美恵の顔が、ますますいびつにゆがんでいきます。


「うふふ、知ってる? この学校ね、出るらしいのよ。夜中まで残ってる子供を探して、そして……呪っちゃうんだって」

「むーっ! むぅぅーっ!」


 またしてもドアのバタバタが激しくなります。奈美恵はにやっと笑って、それから取り巻きの女の子たちと目配せしました。


「えっ、なにあれ? きゃあっ! ゆうれいだわ! 助けてぇっ!」


 わざとらしい大声をあげて、奈美恵と取り巻きの女の子たちは急いで教室を出ます。ドアを乱暴にバンッと閉めて、そのあとそーっと開けてから、中の様子をうかがいます。


「むぅぅーっ! むぅぅーっ!」


 必死にわめき散らしてるまゆを見て、奈美恵と取り巻きの女の子たちはくくくと笑いをこらえます。奈美恵がニタニタしながら、軽く口笛を吹きます。そのとたん、あれほどバンバン暴れていたまゆが、ぴたりと動きを止めたのです。わずかにカチカチと、まゆがふるえてドアが鳴る音が聞こえてくるだけです。奈美恵たちはふきだしそうになるのを必死にこらえて、忍び足で教室をあとにするのでした。




「どっちだと思う? パパかしら、ママかしら?」


 月日は流れ、奈美恵は少女から大人へと、そしてママへと成長していました。素敵な旦那様との満ち足りた生活は、誰からもうらやまれるほどに幸せなものでした。


「きっとママだと思うよ。……本当にありがとう、奈美恵。ぼくも家事ぐらいしか手伝えないけど、できる限りサポートするからさ」

「あなた……わたしこそ、ありがとう」


 娘の優美恵をあやしながら、奈美恵はそっと目じりをぬぐいました。高身長、高収入、高学歴の、非の打ち所がない素晴らしい旦那様に、かわいい娘、二階建ての戸建て、休日は旦那様が優美恵を見てくれるので、エステやランチも楽しめます。きっとこの幸せはいつまでも続いていくのでしょう。と、優美恵がわずかにぐずり始めました。奈美恵はゆっくりとからだをゆすって子守歌を歌います。すると、旦那様が申し訳なさそうに立ち上がったのです。


「そうか、テレビの音がちょっと大きかったんだろう。ごめんな、優美恵。ちょっと待っててね」

「あ、あなた、待って!」


 突然奈美恵に呼び止められて、旦那様は首をかしげました。


「どうしたんだい、奈美恵?」

「今、優美恵が言葉を……」

「えっ、本当かい?」


 急いで旦那様が戻ってきて、優美恵のすぐそばに顔を近づけます。奈美恵も目頭が熱くなるのをこらえて、優美恵にほおずりします。


「……マ……」

「やっぱり、ママだな」

「あなた……優美恵、さ、いってちょうだい。ママのほうを見て、ね」

「……マ……マ……」


 幸せをつむぐ、初めての言葉を待つ奈美恵と旦那さまでしたが、突然優美恵の目が、ぎょろりと奈美恵を捕らえたのです。目をむく奈美恵に、優美恵(まゆ)の初めての言葉(セリフ)が聞こえてきました。


「また会えたね。ようやく出られたわ」




「次のニュースです。取り壊しが予定されていた○○小学校の校舎内から、白骨化した遺体が発見されました。警察によりますと、遺体の年齢、性別共に不明ですが、同校の生徒の可能性があるということで、現在調査を行っているとのことでした。それでは次のニュースですが……」

お読みくださいましてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰かを不幸にした上で、幸せにはなれないという教訓を語っていると思いました。因果応報です。 奈美恵は自分の過ちをなかったことに、幸せを満喫しようなんてムシ良すぎます。子は親を選べないとい…
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