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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第八章「人魔和平委員会」
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第八十八話「恩師」

 イラトという奇妙な男に出会って、喫茶店で小休憩した後、俺たちはイル先生の居るという家に向かっていた。

 考えてみれば、イル先生がヒューゼ王国に居た頃は、どこに住んでいたのかも知らなかった。

 ただ、ここは育成学校からは遠い場所にあるので、おそらく近くに住んでいたのだろう。

 どっちが元々の家かは知らない。

 

 イル先生は無属性なのに、闇属性の知識が豊富にあった。

 多分闇属性以外にも、ありとあらゆることに精通している気がする。

 超上会のことや世界の真実のことだってそうだ。

 人魔和平委員会に入っているのなら、当然知っていることなのだろう。

 何でそんなに色々なことを知っているのだろう?

 今まで考えてなかったからこそ、あの人の謎がどんどん深まってくる。


「この家の中ですっ。ここにイルさんが居ますっ」


「ここか・・・・・・」


「はいっ」


 案内された家は、豪華でも質素でも無く、どこにでもあるような普通な家だった。

 大きくもなく、小さくもない。

 この家に、イル先生が居るのか。


 アイリスは家のドアをノックする。


「アイリスですっ。中入っていいですか?」


「はーい、どうぞ」


 アイリスがドアをノックすると、部屋の中から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 間違いない、これはイル先生の声だ。


「どうぞっ、入ってくださいっ」


 アイリスがドアの前を俺に譲る。


 突然緊張が強くなってきた。

 唾を飲み込む。

 俺はドアノブに手をかける。

 息を吸って吐く。

 手に力を込め、ドアノブを捻る。

 そしてドアを開け、家の中へと入った。


 家に入り、そこからすぐの部屋に入ると、部屋の中には回転する椅子に座って本を読んでいる男が居た。

 その男はくるりと回って、俺たちの方を見る。


「いらっしゃい。お、ずいぶん久しぶりな顔が居るな」


 猫を膝に乗せて、その男は俺の方を見て話しかけてきた。

 イル先生だ。

 俺をここまで強くしてくれた恩師の、イル先生の姿がそこにはあった。


「久しぶり、レイス」


「お久しぶり、です」


 久しぶりの再会だが、上手く言葉が出てこない。

 でも、何か言う必要もないかもしれない。

 変なことを言うよりは、この心の動きを、心だけに留めたほうが良いだろう。


「アイリス、君が連れてきたのか?」


 イル先生はアイリスの方へと向く。


「はいっ。レイスさんがイルさんに会いたいと言ってましたのでっ」


 アイリスのこの口調は珍しい。

 敬語は俺やヒカリンぐらいにしか使っているところを見ていなかったが、イル先生にも使っている。

 アイリスにとっても、イル先生は何かしらあるのだろう。


「じゃあ、結構知ってるんだな?」


 イル先生は含んだ言い方をした。


「はい。超上会のこととか、人族と魔族の関係とか、何故俺が命を狙われているか。そのあたりの話はアルから聞きました」


「うん。だいたいアルと知っていることは同じか。初めて聞いた時の感想はどうだった?」


 イル先生は膝の上の猫を撫でながら言葉を出す。


「いたっ!」


 本人は雰囲気を出しているつもりのように見えたが、それをぶち壊すように、猫がイル先生の指を噛み、膝から逃げていった。


「あの、先生。大丈夫ですか?」


「大丈夫だ。何故か俺は生き物に嫌われやすくて。あの猫も一応ペットなんだけど、俺がちょっと調子に乗ると、ああやってすぐ噛みついてくる」


 大丈夫とは言うものの、ものすごく痛そうにしている。

 凄い人だとは思うのだが、こういう抜けたところもあるのがイル先生だ。


「それで、感想なんですけど・・・・・・。正直言うと、怒りが沸々と湧いてきました。俺の理不尽な人生の原因がハッキリとしているなら、復讐というかなんというか、とにかく許せないという気持ちです」


 俺は強く拳を握りしめる。

 そうだ、全部超上会が悪い。

 でも、こんなことを言って、イル先生はどう思うだろうか?

 

「なるほどな。まあ、当然の感想だ。復讐心が人を強くするかどうかはさておき、心を強く持つことは大事だ。目的を達成したいなら、気持ちは強くあり続けるように。応援しているぞ」


 意外にも、イル先生は俺を受け入れてくれた。

 人魔和平委員会として活動しているから、俺と目的が同じなのは都合が良いのだろうか。

 ・・・・・・そんな打算的な考えじゃなかったらいいな。


「で、今日は何の用だ?」


 イル先生は突然話を切り替える。


「用・・・・・・。用は特に無いです。ただ、イル先生がここに居るって聞いて、ただ何となく会いたくなって・・・・・・」


 自分で言ってて、恥ずかしくなってきた。

 まるで恋人と長い間会っていなかった人みたいな言い方をしてしまった。


「なんか、恥ずかしいな。勘弁してくれよ」


 イル先生も困った様子になっている。

 

「まあ、いいか。会いたくなったからってだけで理由は十分だ。ただ、突然来ると流石にびっくりしてしまう」


 イル先生はアイリスの方を向いて、ニヤッと笑みを浮かべる。


「ごめんなさい・・・・・・」


 アイリスは申し訳なさそうに頭を下げる。


「次からは、レイスも家にくるかもしれないと思っておくよ。とりあえず今日はこれから用事あるから、帰ってもらっていいか?」


「あ、あの。最後に質問していいですか?」


「どうした?」


 俺は聞きそびれたことを思い出した。

 帰る前に、そのことだけは聞いておかないと。


「どうして、突然姿を消して、しばらく隠れていたんですか?」


 イル先生は俺が在学中に、魔王軍の勢力が強まると同時に姿を消した。

 何か関係があるような気がしてならない。

 その謎を解明したかった。


「それは、時が来たら教えよう。ハッキリ言って、俺はまだレイスに隠していることがある。だが、それら全部、その時が来たら話そう。だからそれまで、強くなり続けてくれ。先生からのお願いだ」


 イル先生は右の人差し指を俺に向けた。


 イル先生は答えを教えてくれなかった。

 煮え切らない気持ちのまま、俺はイル先生の家を出る。

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