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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第八章「人魔和平委員会」
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第八十七話「温かい冷たい男」

 俺はアイリスの空間移動によって、見知らぬ地へと訪れていた。

 場所は港町で、ほとんど栄えてなさそうに見えるほどに、活気のない街だった。


 海に面する港町は、普通はその海で取れる資源を交易品にしたり、船を使った交易のおかげで盛んであったりする。

 けれど、この街の住人は皆死んだ顔をしていて、不気味な街だった。


「なんか、寂しい街だな・・・・・・」


「この街に来ると、いつもそうなんですっ」


 俺の呟きに、アイリスが寂しそうに反応する。

 何度も訪れているらしいアイリスによると、街の様子は今がそうなだけでなく、ずっとこんな感じらしい。

 

「イル先生はここに居るのか?」


「はいっ。基本的にこの街に滞在しているらしいですっ」


「わざわざこの街で?この街には何かあるのか?」


「いえっ、分かりませんっ。ただ、こういう場所が落ち着くらしいですっ」


「そうなのか」


 わざわざこんな街を拠点にしている理由はよく分からない。

 情報を集めるなら、もっと人の居るところでいい。

 本当にこの寂しさが落ち着くからという理由だけで、ここに居るのだろうか?

 アイリスが知らないのだったら、いくら考えても憶測の域を超えないだろう。

 イル先生に会えるのだったら、その時に聞けばいいだけだ。


 活気のない街を歩いてると、突然誰かとぶつかった。


「ああ、すみません。ぶつかってしまいまして」


「こっちもよく見て歩いてなかった。申し訳ない」


 俺とぶつかった男は、申し訳なさそうに頭を下げた。

 俺もそれと同じく頭を下げる。


 男は金の長髪で、細身の男だった。

 その病弱そうな身体は、風が吹けば吹き飛んでしまいそうだった。


「あなた、この辺りでは見かけない人ですね?」


 男は俺のことを物珍しそうな顔で見る。


「ああ。今日は用事があったから訪れただけで、普段ここに来ることはない」


「そうですかそうですか!なら、僕たちのこの出会いは奇跡なのですね!この一期一会を大切に、僕たち友達になりませんか?」


「友達?」


「ええ、そうです!僕は友達って素敵だと思うんです。だって、心を許せる相手が居るって素晴らしい。辛い時も悲しい時も、友情の力があるならそれを全て乗り越えることだってできる!」


 男は少し興奮した様子だった。

 正直こんな奴に付き合うなんて面倒だ。

 

「ああ、じゃあなってやるよ。友達に」


 断っていちいち変なことになるのも嫌だし、とりあえずこの場だけ適当に乗ることにした。

 この街に頻繁に訪れることもないし、この男のこともすぐ忘れてしまうだろう。


「嬉しい!とっても嬉しい!それじゃ、友情の証に握手でもしよう!だって、僕たちは友達だからね」


 友達になると言った途端、男は砕けた口調になり、右手を俺に差し出した。

 

「僕はイラトって言うんだ。よろしくね」


「俺はレイスだ。よろしく」


 お互いに自己紹介をして、俺も右手を出し、握手を交わす。


「・・・・・・っ!」.


 イラトの手を握った途端、急にゾクっと寒気がした。

 思わず全身が震えてしまう。

 だが、寒気はするけれど、握った手はとても温かかった。

 それが尚更、不気味さを増してくる。


「どうしたんだい?」


「いや、何でもない」


 イラトは無垢な表情で俺を見つめる。

 正直、この男に少し恐怖さえ感じる。


「ああ、せっかく出会えたのに、僕はもう行かなきゃならない。悲しい悲しい・・・・・・いや、悲しくないな。また会えるって思えば、悲しいことなんてないんだ。むしろ次に会う日を心待ちにして、毎日を過ごせるんだから。そう、僕は前向きな男だからね。前向きで友達思いの優しい人間だ」


 イラトはまた興奮した様子だった。

 この男の狂気の片鱗が垣間見える。


「あ、ああ」

 

 俺はその狂気の圧に気圧されて、雑な返答しかできなかった。


「それじゃ、僕はそろそろ行くよ。寂しい寂しい・・・・・・いや、寂しくない。ここは落ち着く場所だ。そんな落ち着く場所をどうか堪能してくれ」


 それだけを言い残して、イラトは街の外に行ってしまった。

 前言撤回、あの男のことはずっと忘れないだろう。


「あの男、誰・・・・・・?」


 アイリスも神妙な面持ちだった。


「アイリスも何度かこの街に訪れているだろ?あの男を見たことはないのか?」


「ない、です・・・・・・。本当に、何者・・・?」


 アイリスはひどく恐怖した様子だった。

 確かにあの不気味な男は、そのオーラから恐怖を与えてくる。

 

 温かい男だった。

 もしかしたら、心優しい人間なのかもしれない。

 でも、その中身は正反対に、冷えたように感じた。

 氷を熱々の生地で包んだような感じだ。


「二度と会いたくないな、あいつには」


「私もです・・・・・・」


 不愉快だからという理由でも無く、不利益だからという理由でも無い。

 ただ恐怖の感情だけで会いたくない。

 俺にとっては、そんなことはほとんどない経験だった。

 気づけば、背中に汗が溜まっている。


「イル先生のところに行く前に、一度喫茶店にでも行かないか?心を落ち着かせたい」


「はいっ、了解ですっ」


 俺とアイリスは喫茶店に入って、一旦心を落ち着かせることにした。

 そして、さっきの男を忘れられるように、茶をゴクりと流し込んだ。

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