第八十六話「闇属性の魔族」
アルもシックも魔王城から居なくなり、城の中に居る人族は俺だけになった。
憎むべきは超上会だけ。
超上会が全ての元凶であり、超上会のせいで、人族全体がそうなってしまった。
それは分かっているけど・・・・・・。
「ディザ様・・・、顔が怖いです・・・・・・」
「ああ、悪い」
アイリスが少し怯えた様子でこっちを見てくる。
そうか、怖い顔になっていたか。
別にそんなつもりはなかったが、意識が顔に出ていたらしい。
「まあ、あんまり気にしないでくれ」
俺は怯えるアイリスの頭を撫でた。
「はい・・・・・・」
いつもだったら大喜びだろうに、アイリスは不安そうな顔が解けなかった。
そういえば、アイリスは人魔和平委員会に所属しているらしかった。
そのことについて聞いておくか。
「アイリスは人魔和平委員会に入ってるんだったな?」
「・・・・・・聞きましたか」
「ああ。アルからだいたいのことは聞いた。人族と魔族の関係とかな」
アイリスはとにかく言葉を出しづらそうに、口をむずむずさせている。
その口調は、いつもの明るい雰囲気に比べて、重たいものだった。
「そうです、私もその会に入っています」
「どういう経緯で入った?」
「その、レイスさんも知ってると思うんですけど、イルさんに誘われて・・・・・・。私は人族と魔族の関係はすでに知っていたので、急に声をかけられて、それで協力しないかと言われて・・・・・・」
ここでも、イル先生の名前は出てくるか。
それに、あの人も元々人族と魔族の関係のことを知っている。
アイリスも知識が多いが、イル先生だって色々なことを知っている。
俺に闇属性の扱いを教えてくれたのもイル先生だ。
あの人はいったいどこから情報を集めているのだろう。
「すみませんでした、ディザ様」
「ん?何がだ?」
アイリスは申し訳なさそうな様子だ。
だが、心当たりはない。
「私はディザ様に隠していることばかりです。私はディザ様の手下なのに、秘密を抱えてばかりなのは、下の者としてどうかと思って・・・・・・」
「ああ、そんなことか。それはどうでもいい」
「え?」
「どうでもいいんだ」
そう、どうでもいい。
別に何かを隠していたって、俺に何か不利益を与えるようなことじゃなければ問題ない。
どうでもいいと言われても、アイリスは安心した様子にはまるでならなかった。
それは俺が本当に興味無さそうに言葉を吐き出したせいだろう。
けど、本当にどうでもいいんだ。
一度、イル先生と話してみたいと、ふと思った。
イル先生が生きているなら、会うことだってできるはずだ。
アイリスも和平委員会に入ってるなら、イル先生の居場所も知っているかもしれない。
「アイリス。教えてもらいたいことがある」
「は、はい。何ですかっ?」
アイリスは何故か緊張しているのか、身体がガタガタになっている。
「イル先生に会いたい。場所を教えてくれるか?」
「え?で、でも、和平委員会の活動にディザ様を巻き込むわけには・・・・・・」
「そういうのはいらない。そもそもアルも俺に世界の真実を教えてくれたんだ。だったら俺が勝手に首突っ込んでもいいだろう」
「わ、分かりました。なら、イルさんのところまで連れて行きます・・・・・・」
「ああ。今から行けるか?」
「大丈夫です。今から、行けます」
俺が指示すると、アイリスは空間移動をするための闇のゲートを作った。
「あの、ディザ様。一つだけ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
アイリスはゲートの前に立ち尽くして、俺の目をしっかりと見つめる。
「アルベルトさんから、色々嫌なことを聞いたと思います。ディザ様は何も悪くないのに、勝手なエゴで命を狙われる羽目になってしまって・・・・・・。それも、人族なのに闇属性のせいじゃないかって。だから、闇属性のこともしかしたら嫌いになっちゃったんじゃないかなって・・・・・・」
アイリスはいつもこの話をする。
闇属性のことが嫌いになってないか、やたらと気にしているようだ。
自分も闇属性を扱う魔族だからだろうか。
「何度も言うが、俺は闇属性自体が悪いとは思わない。悪いのは超上会だと言うのもハッキリとした。俺が憎むべき対象が明確になったから、逆に良い。俺は闇属性を憎むんじゃなくて、今の人族になった原因を憎むだけだ」
「ディザ様・・・・・・」
「アイリスはどうなんだ?闇属性のことは好きなのか、嫌いなのか?」
「え、私ですかっ?」
「ああ、お前だ」
アイリスは虚をつかれたような顔になる。
自分がその話をされるとは思わなかったのだろう。
でも、そこまで他人にその話をするんだから、アイリス自身はどう思うかも気になる。
「私は・・・・・・、好きじゃないです。嫌いってわけじゃないけど、辛い思いをすることだってあるし、それなら別の属性の方が良かったと思うことは少なくないです」
アイリスはひどく沈んだ表情だった。
「人魔和平委員会に居る理由も、それに近い理由なのか?」
「間違いではないです。自分の使ってる力が拒絶されてる現状は、やっぱり嫌なので・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
間違いではない、という言い方には少し引っかかるが、アイリスも今の世界を気に食わなく思っているらしい。
だったら、その部分はこいつも俺と同じなのかしれないな。
「なら尚更、人族と魔族の関係を修復して、闇属性の立場も向上させないとな。志が近いなら、俺の力を貸すし、お前の力も借りる」
「ディザ様、いいんですか?」
「良いも悪いもないだろう。敵も目標も同じなんだ。早く全てを話して欲しかったぐらいだ」
「すみません、黙っていて・・・・・・」
「それはどうでもいいと言っている。結局知ることができたからな。とにかく、これからは立場の上下とか関係なく、協力し合う関係としてやっていくぞ」
「じゃ、じゃあ、これからもよろしくお願いします・・・・・・」
アイリスはちょっと照れ臭そうに右手を差し出してくる。
「ああ」
俺はその右手を、同じく右手で握って、強く握手を交わした。
「・・・・・・えへへっ」
アイリスはクスッと笑った。




