第八十四話「調査」
「ディザ様、あの女の子、ディザ様に会いたいらしいニャ。お礼が言いたいとか」
「そうか・・・・・・」
シックの面倒を見ていたケイシーが、魔王室へとやってきて。
とうとう、危惧していた場面に遭遇してしまった。
シックを魔王城で世話をし始めた時から、このことは恐れていた。
人族なのに魔族の長をやっているなんて、そんなの知られるわけにはいかない。
そもそも俺が魔王になったのは、人族での俺の地位を上げるため、魔族をコントロールして、好きなように行動しようと思っていたからだ。
それなのに、魔王だなんてバレてしまっては、俺が人族に受け入れられるようなことなんてわけがない。
「その女はもう体調は大丈夫なのか?」
「うーん、もうちょっと休んだ方が良いとは思いますニャ」
「そうか」
もう大丈夫そうなら、城にいつまでも居させないで、早く帰らせようと思っていたが、それは難しいらしい。
「俺はその女と会う気はない。部屋で大人しく休ませておけ」
城に居たとしても、俺と会わなければ問題ない。
あの部屋でずっと休ませておけば、心配無いだろう。
「あ、あの、それが・・・・・・」
「どうした?」
ケイシーがちょっと焦った顔になっている。
嫌な予感がする。
「あの女の子、勝手に部屋を出て行っちゃって、どこに居るか分からないですニャ・・・・・・」
「はぁ・・・・・・」
思わずため息が出た。
怪我も完治してないだろうに。
「俺はしばらく、この部屋に籠る。部屋の入り口も幻覚で見えないようにする。俺に用がある時は、アイリスを通すようにしてくれ」
「了解ですニャ」
それだけを言って、ケイシーを部屋から退室させた。
少しの間、窮屈な日が続きそうだ。
「よし、探索するぞ」
私は、休んでいた部屋の中から許可も無く勝手に出ていた。
多少腹の痛みは残っているが、まあ動くことはできる。
魔王の情報を少しでも集めよう。
とりあえず、部屋の直ぐ近くに掃除をしているスライムが居たので、この子に聞いてみよう。
「こんにちは。ちょっと話してもいい?」
「こんにちはデス!お話、いいデス!」
スライムは元気そうに返事をする。
年齢とかは見た目じゃ分からないけど、結構若そう。
「私を助けてくれた魔王のこと、教えてほしいんだけど」
「ディザ様のことデスか?いいデス!僕が知ってることなら、何でも教えるデス!」
「ディザ様?魔王の名前は、ディザって言うの?」
「はいデス!」
レイス先生のフルネームは、確かレイス・ディーンだ。
ディザなんて名前じゃない。
じゃあ、魔王がレイス先生だってのは、私の勘違いなのかな?
「その、ディザって人。どんな人なの?」
「すごく優しい人デス!僕たちのことにも気を配ってくれてて、この前は幻覚?みたいなので、僕に綺麗な景色見せてくれたんデス!」
スライムは、自身の主を誇らしげに語る。
魔王が部下に慕われているということが、しっかりと伝わってくる。
「そうなんだ。その幻覚って、やり方とかって分かる?」
「僕は闇属性を使えないから、詳しくは分からないけど、なんか闇に覆われたってのだけは、分かるデス」
「闇に覆われる・・・・・・」
私もよく周囲の情報を得るために、闇を周りに漂わせることはするが、それに似たような感じだろうか。
それにしても、その範囲に全くの別の景色を見せるなんて、私には想像ができない。
それに、そんなことができるなんて、私はレイス先生から教えられていない。
やっぱり違うのだろうか・・・・・・。
「教えてくれてありがとう。助かった」
「ワーーーイ!」
スライムの頭を撫でると、嬉しそうに喜んだ。
ちょっと可愛いかも。
次に、私は近くに倉庫っぽいのがあったので、そこの倉庫番に話を聞いてみることにした。
「こんにちは、今時間ある?」
「ン?人族か。どうせ暇だし、話ぐれェなら付き合うぜ」
倉庫番をしているのは、リザードマンだった。
ここには、色々な魔族が居るっぽいな。
「ねぇ、魔王の話を聞きたいんだけど」
「お、ディザ様か?あの方ァ、すげェ人だ。俺が初めてその力を目にした時、とんでもねェ奴と出会ッたと、俺は感じたな」
リザードマンは目を輝かせて、魔王について語る。
この人にも、魔王は慕われているみたいだ。
「その時、どんなことしてたの?」
「聞いて驚くなよ。人形を闇で覆ったと思ったら、次の瞬間には、それが消えてンだ。初めからそこにはねェんじゃねェかッてぐれェにな。跡形も残ってねェんだよ」
リザードマンはやけに興奮したように語る。
確かに、それは初見の感動はすごいだろう。
でも、私は一度それを見たことがある。
レイス先生がやってくれていた。
けれど、確かにすごいことだけど、闇を飲み込んで対象を消すことは、基本的なことだ。
これでは、判断はできない・・・・・・。
「なンだ?あンまりすごくねェってか?」
リザードマンは不愉快そうな顔で、私のことを睨んでくる。
「い、いやそうじゃなくて!凄すぎて、ついボーッとしちゃった感じ!」
「そうかそうか!だよなァ!すげェよなァ!」
リザードマンは嬉しそうにしている。
よかった、変に機嫌を損ねなくて。
「色々教えてくれてありがとう。じゃあね」
「おう!」
私はリザードマンと別れを告げた。
次はどこに行こうか。
魔王の情報はそれなりに集まりはするけど、断定できるような要素はない。
どんな魔族にどんな話を聞けばいいのだろう。
色々考えながら歩いていると、見慣れた顔の人が居た。
いや、前は人だと思っていたけど、今見ると、羽やら角が生えている。
明らかに魔族だった。
「アイリス・・・さん・・・・・・?」
「あっ、やばっ」
魔王城で出会ったのは、私が以前に助けてもらった、アイリスさんだった。




