第八十二話「世界の真実」
「そもそもだ。お前はどうして魔族と意思疎通できている?犬や猫みたいな獣と会話することはできないだろう。ところがどうだ、この魔王城にいる魔族たちはお前と普通に会話することができるだろう」
「え?それは考えたことはない、な・・・・・・」
「そうだろう。考えたことないだろう」
わざわざ考えるほどでもないと思っていることだった。
当たり前のことを、いちいち理由について考えることは無い。
そういうものだと、受け入れている。
「それに人族は似たような姿ばかりなのに、魔族は多種多様で、全く外見が違っていても、魔族と一括りにされている。人族と魔族は二つのカテゴリに分かれているように扱われているが、それも違和感があるはずだ」
「それも、その通りだが・・・・・・」
アルはいったい何が言いたいのだろうか。
今まで当たり前と思っていたことの、その理由を知っているのだろうか?
それが、人族と魔族の関係良好に繋がる話なのか?
「そして、精霊たちは人族と魔族のことを、生族と呼ぶ。精霊たちは人族だったり魔族みたいな分け方をしない。同じように扱うんだ」
「え、それって・・・・・・」
一つの考えが頭をよぎる。
けれど、本当のことなのだろうか?
もしそれが本当なら、人族や魔族は、何故戦っている?
アルは静かに頷いて、言葉を続けた。
「ああ。人族や魔族はそもそも別の存在じゃない。同じ言語を共有できる、生族という括りが存在している。人族と魔族は争いを続けていたが、同族で争っていると同じことだ」
「そ、そんな馬鹿な・・・・・・」
俺が思ったことと、アルの言ったことが同じだった。
人族と魔族はそもそも一つの括りだった。
じゃあ、何故魔族は人族を襲うようになったのか、理由が分からない。
「同族だって?なら、何で魔族は人族を襲っているんだ?人族はどうして魔族をここまで嫌うようになった?超上会は関係があるのか?」
「質問が多いな。大丈夫、全部答えるから」
アルは興奮する俺の肩を押さえる。
俺はそれで一旦落ち着いた。
「魔族が人族を襲う理由と、超上会は関係している。だからこそ、俺たち和平委員会は超上会と対抗している」
「超上会がか・・・・・・」
「ああ。人族と魔族を分けたのは超上会だ。超上会は人族と魔族を分けた。理由は、一部の人族が、魔族を醜いと感じたからだ。自分たちが好きだったのだろう。そんな理由だけで、魔族を迫害したんだ」
アルは重たい口調で語る。
「知性のある魔族は欲望を糧に動いていることは知っているか?」
「ああ、アイリスから聞いたことがある」
「あの子は本当に何でも知ってるんだな」
アルはもはや呆れた顔になっていた。
俺だって、あいつの知識量はいつもビックリさせられる。
「魔族と人族が同じということは、俺たち知性のある人族も、欲望を持っているのと同じなんだ。俺たちは潜在意識として、魔族や闇属性を忌み嫌うように植え付けられている。そういった環境だったり、学校での教育がそうだからだ。俺たちが魔族を嫌う理由はそこにある」
「待て、闇属性も何故魔族と同列にされるんだ?」
「単純に、闇属性がマイナスなイメージが強いからだ。元々魔族に闇属性が多かったしな。前の魔王だってそうだ。暗いイメージと結びつけやすいし、分かりやすい対象として勝手に選ばれただけだ」
「結局、自分勝手な人族の都合ってわけか・・・・・・」
「ああ」
俺は勝手な都合でこんな思いをしているのか。
くだらない。
こんなくだらない理由で、俺は・・・・・・。
「そして、その迫害された怒りが、魔族が人族を襲う理由だ。本当は同じだったはずなのに、勝手な理由で虐殺をされたり、住みづらい場所へと追いやられたりしている。その怒りの感情は、様々な魔族が無意識に持っているんだ。もはやこの事実を知らなくても、遺伝レベルで本能的に感じてる」
「でも、魔王城の魔族はそんな奴らじゃない。それはどういうわけなんだ?」
「あいつらは支配者の言うことは何でも聞く奴らなんだ。今のお前は人族を支配する意欲がないから、大人しい。お前が人族を滅ぼせと言うなら、多分それに従うだろうな」
「確かに、拠り所を探しているという話を聞いたことがあるような気はする・・・・・・」
一気に様々な情報が入ってきて、頭の中がパンクしそうだ。
「話をまとめよう。超上会は、エゴで生族を人族と魔族に分けた。そして、その怒りが潜在意識として魔族に残っているから、彼らは人族を襲う。人族は潜在意識として魔族を嫌っているから、知性のある生き物で居られる。超上会の目的は、魔族とイメージを結びつけている闇属性を人族から排除していくことで、人族と魔族の状態を、キープし続けること。そして、俺たち人魔和平委員会は、その間違った関係を修復するために活動しているんだ」
アルが今までの話をまとめてくれた。
頭では理解できる。
けど、納得は行ってなかった。
俺が今まで苦しい思いをしてきたのは、人の勝手な都合によるものだ。
「アル。お前はどうして人魔和平委員会に入っているんだ?」
「俺はお前の生きやすい世界を作るって言ったからな。それだけだ」
「そうか、良い奴だな。アルは・・・・・・」
本心でこれを言っているのがアルだ。
いったいどこまでお人好しなのだろう。
「ありがとう。それと、殺そうとしたことは、悪かった」
「生きてるから気にするな」
アルは俺に殺されかけたことを全く気にしようとしていない。
その優しさは俺にとって嬉しいものだ。
けれど・・・・・・
「アル。もう帰ってくれ。それと、俺の前にはあまり出てきてほしくない」
「急にどうしたんだ、レイス?」
アルは不安な様子になっている。
当たり前だろう、友人のために動いているというのに、その友人から突き放されているんだ。
「何だか、今は人の優しさに触れたくないんだ」
「・・・・・・そうか。じゃあまたどっか行くよ。モンデの世話でも見ておく」
「ああ」
アルは魔王室から出て行った。
アルは本当に優しい友人だ。
そういう奴が居るから、俺は人族を愛してしまっている。
今の俺は超上会への怒りを少しでも薄めたくなかった。
この怒りの感情を、俺の欲望を弱めたくはなかった。




