幕間2
これは、アルベルトがレイスのところに行く前の話。
「あの、旅人さん。出かけるってどこに行くんですか?」
「秘密だ秘密。どこに行ったっていいだろ」
今、俺と旅人さんは山の中で野宿をしていた。
旅の途中で、次にどの街に行くか決めていないが、見かけた街に行こうということになっている。
俺が一緒に旅をしている旅人さんは、急に一人で出かけると言い始めた。
いつも好き勝手してはいるが、旅の途中にいきなりこんなこと言われたら、俺はどうしたらいいんだ。
「俺一人でどうするんですか?勝手に旅続けていいのか、それとも学校に戻ればいいんですか?」
「おいおい、そんなに俺が居なくて寂しいのか?」
旅人さんはニヤニヤとして答える。
こういう時のこの人に付き合っても無駄だ。
無視しよう。
「はぁ、今日もつれないな、モンデは」
逆に旅人さんが寂しそうにしている。
うん、やっぱりこの対応でいい。
「まあ、とにかく俺はちょっと行くところがあるから。その間にお前を守ってくれる奴呼ぶから。そいつに世話になっとけ」
「ええ?旅人さん知り合い居たんですか?」
「いや、当たり前だろ。俺を何だと思っているんだ」
旅人さんは俺のこめかみに、ぐりぐりと拳を押し付けてきた。
「痛い痛い!」
旅人さんは俺の痛がる姿を見て、満足そうにして、拳を押し付けるのをやめた。
「逆に、俺が友達少なそうに見えるか?」
「べ、別にそういうわけじゃないですけど」
そういうわけじゃないけど、何だか一人が似合いそうなイメージを勝手に持っている。
だから、誰か知り合いを呼ぶということが珍しく感じてしまったのだ。
「ということで、今来てもらう。頼みました、チーダ姉貴」
「あいあいよ」
旅人さんに呼ばれて、茶と金色が混ざったような短髪の女性が現れた。
年齢は旅人さんと同じぐらいだろうか?
俺より年上なのは間違いない。
「あたしはこいつの面倒見ればいいんだね?」
「お願いします。姉貴に任せるのも申し訳ないですけど、姉貴ほど頼れる人は居ないんでね」
「分かってるじゃんか、アル。あたしのこと評価してくれてんだね」
「評価も何も、当たり前ですよ」
旅人さんはやけにチーダという女性に、丁寧な話し方をしている。
それほどまでに、この人は凄い人なのだろうか?
あと、旅人さんの名前がアルということも今初めて知った。
「あんた、名前はなんて言うんだ?あたしはチーダ。よろしくな。姉貴って呼んでくれ」
チーダさんは俺に握手を求めてきた。
「俺、モンデって言います。よろしくお願いします、チーダさん」
「おい!」
俺がチーダさんに自己紹介をし、握手を交わすと、焦った顔で旅人さんが叫んだ。
「あたし、言ったよね。姉貴って呼んでね、って」
チーダさんは俺の手を握り潰すぐらいの勢いで力を込めてきた。
「痛いです!わ、分かりました!姉貴!」
「分かればいいんだ」
チーダさん、いや姉貴はにっこりとして、手を離してくれた。
「言うことは素直に聞いておけよ」
旅人さんは俺に耳打ちをしてきた。
俺も、すぐに旅人さんの態度を理解することができた。
この人に逆らっちゃダメだ。
「あの、ところでチーダさ・・・姉貴ってどんな人なんですか?人の素性を聞くのは失礼かもしれないけど、さすがに全く知らないのもアレなので」
チーダさんと呼びかけて、ギロりと睨まれた時は焦ったが、姉貴のことはある程度は知っておきたいと思った。
旅人さんもほとんど見ず知らずの人だったけど、だからと言って、知らない人ばかりついていくのも、流石に危険だと思う。
「あたしか?あたしは土の精霊だよ。どんな人って言われても、人じゃないから、質問には実質答えられないな。はっはっはっ!」
「せ、精霊?」
姉貴の屁理屈はともかく、精霊という単語を俺は聞いたことがない。
それともなんだ、もしかしてそういうタイプの人なのか?
それなら、一緒に行動するの不安なんだけど。
「え、言っちゃっていいんですか?」
「いいのいいの。アルの知り合いなんだろ?他言無用って言ったけば、心配は無いさ」
「俺を信用してくれてるのは嬉しいんですけど・・・・・・」
旅人さんは困った表情だった。
というかこの態度、精霊ってのは本当のことなのか?
「あ、あの。精霊ってなんですか?」
「ああ、そのことから知らないのか。説明してあげるよ」
それから、精霊についての話を姉貴から聞いた。
何となく使えてた属性の力は、精霊によるものだったのか。
土属性が得意な旅人さんが、土の精霊に気に入られてるのも、なんとなく納得が行った。
「闇の精霊も居るんですか?」
「居るよ。どこに居るかは知らないけどね」
やっぱり、闇の精霊も居るのか。
まあ、闇属性もこの世に存在するなら、それもそうか。
「会いたかった?」
俺が考えてる素振りをしていると、姉貴が声をかけてきた。
「うーん・・・・・・」
正直、会いたいとは思わない。
闇属性は人族に嫌われている。
言ってみれば、闇の精霊はその元凶みたいなものだ。
でも、この偏見も良くないってことは、もう分かってる。
もし会うことがあったら、その時は偏見なしにありのままの姿を見よう。
「とりあえず、俺はもう行ってくるから。死ぬなよー」
「し、死ぬことあるんですか?」
「いや、旅は何があるかわからないだろ。死ぬかもしれないし」
「そういうことですか・・・・・・」
真顔で答える旅人さんに何も言うことができない。
もう面倒だから、これ以上はいいや。
「気をつけて行ってこいよ、アル」
「ありがとうございます。あいつに会うのは久しぶりだし、ちょっと緊張しますけどね」
旅人さんは誰かに会いに行くみたいだ。
しばらく会ってない人に会いに行くってことなら、特に止める気も起きないな。
「必ず帰ってきてください。俺、まだ一緒に旅したいですから」
本心だ。
俺にとって、この人は大きい存在になっている。
ここで今生の別れにはなってほしくない。
普通はこんなこと言わないけど、自由奔放な人だけに、ちょっと心配してしまう。
「ああ、ちゃんと帰ってくるって。お前も、俺の大切な人の一人だからな。また帰ったら、旅に連れて行ってやるよ」
旅人さんは拳を突き出してきた。
俺はそれに合わせて、拳をぶつける。
旅人さんも、俺のことをそう思ってくれていることが、少し嬉しい。
そうして、旅人さんは俺とは別にどこかに行った。
一緒に旅をした時間は、ほんの少しだったけど、良い時間だったと思う。
それに、また一緒に旅をする約束をしたんだ。
その時を楽しみに待っていよう。




