表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第七章「光の精霊」
86/175

第八十話「終結」

 場を闇で覆い、幻覚を見せる技は、そもそも広範囲で試したことはほとんど無かった。

 この場面で二度も成功しているのは奇跡と言っても過言では無い。

 ただ当然のことだが、不慣れな大技のせいで、そう何度も使えるわけがない。

 おそらく残り一回、次が最後になるだろう。

 それを失敗すれば、俺には何の手も残されていない。


「殺す殺害する仕留める殺る斃す殪す殺める仆すぅっ!」


 サノンの持っている杖先に、魔力の高まりを感じる。

 彼女も大技を狙っているようだ。


 俺は三度目の幻覚を作る。

 自分の姿を消し、見られていない内に、サノンへと近づこうとする。


「イヒヒヒヒヒヒッ!」


 サノンの持っている杖の先から、冷気が広がった。

 すると、一帯が霧に覆われ、視界を奪われた。

 だが、サノンの居る位置は既にだいたい把握してある。

 俺はその方へとまっすぐ走っていく。

 

 その位置に近づくと、霧の奥から薄らと人影が見える。

 俺はその人影の捕らえるべく、後ろから腕で首を絞める。


 間違いなく、首をガッチリと絞めることができた。

 けれど、触れた感覚がおかしい。

 明らかに人では無い感触がする。


「キヒッ」


 俺の後ろから、サノンの声が聞こえてきた。

 俺が捕まえていた人だと思っていたものが、パラパラと崩れ落ちる。

 それは、サノンと同じ大きさで作られた土人形だった。


 急いで後ろの方を向くが、もう既に遅かった。

 サノンは俺の下半身へと杖を向ける。

 それからまもなく、俺の腰から下は凍らされてしまった。

 完全に身動きが取れず、その場から一切動けなくなってしまった。


「くそっ、最後の最後に騙しの技を使ってくるかっ!」


「イヒッ、イヒヒヒッ、アハハハハハハハ!」


 サノンは嬉しそうに大声で笑う。


 俺の頭上へと杖を向けて、どす黒い雲を生成した。

 その雲はごろごろと音を鳴らしている。

 違いない、雷雲だ。


「これでおしまいっ、オシマイっ、お終いっ、お仕舞いっ、お終了いっ、お終焉いっ、お終着いっ、お終結いっ。ヒヒッヒッヒヒヒッ!」


 サノンは興奮が絶頂に達し、過呼吸になっている。

 

「ディザ様っ!」


 アイリスが風の壁の外から、今にも泣き出しそうな顔で、俺の名前を呼ぶ。

 アイリスは、俺とサノンの戦いに一切干渉できないまま、ただ見ることしかできなかった。

 彼女自身、無力さを感じているのかもしれない。


 そして、それと同時に気づいた。

 サノンは、この風の壁を維持したまま戦い続けていたことに。

 それでもなお、俺は彼女に負けてしまった。


「死にますよ?殺しますね。終わっちゃいますよ!さようなら!」


 万事休すだ。

 観念するしかない。

 頭上から、強烈な雷鳴が聞こえる。

 俺は目を強く瞑った。

 ここで、終わりなのか。


「・・・・・・え?何?これ?」


 確かに、雷の音は鳴った。

 けれど、俺に命中することはなく、俺の身体は無事だった。


「どういうことだ・・・・・・?」


 目の前のサノンは呆然としている。

 彼女にも想定外のことが起きている。

 俺だって、何が起きているか分からない。


 ふと上を見てみると、土の屋根が出来ている。

 この屋根が、俺を雷から守ったのだろうか。


「あ、あ、あ・・・・・・」


 サノンはその場にへたりと座り込んだ。

 もう魔力も尽きてしまったのか、俺たちの周りを囲んでいた風の壁も消えた。


「ディザ様っ!大丈夫ですかっ!」


 アイリスが俺の元へと駆け寄ってくる。


「ああ、問題ない。けど、一体何が・・・・・・?」


「間一髪、危ないところだったな」


 突然、遠くから男の声が、ザッザッという足音と共に聞こえてくる。

 その声は以前聞き慣れた声で、しばらく聞いていない声だった。

 いや、もう聞くことはないと思う声だった。


「助けに来たぞ、レイス」


「ア、アル・・・・・・」


 声の正体、俺を助けてくれた正体は、俺が前に殺したはずのアルベルトだった。

 何故生きているのか、何故助けに来てくれたのか、アルは敵なのか味方なのかすら分からない。


 生きてて良かったと思わなくはないが、そもそも殺そうとしたのは俺だ。

 その矛盾の感情が、俺の中で蠢く。


「色々思うところはあるかもしれない。だけど、それは全部後回しだ。今この場を何とかしてからにしよう」


「わ、分かった」


 俺は一度アルのことについて考えるのをやめた。


 とは言っても、サノンはもう魔法を使えるほどの力は残っていない。

 それどころか、立ち上がることだってできない。

 あとはトドメを刺すだけで終わりだ。


「超上会の一人だな?殺す前に聞きたいことがある。話す気がないならすぐに殺す」


「あ、え、あ、う?うー?」


 サノンは完全に心が壊れて呆けている。

 アルが話しかけても、全く耳に入っていない様子だ。


「何を聞いても無駄みたいだな。なら遠慮なく殺すぞ」


 アルは腰に付けていた剣を出し、サノンの方へ歩いていく。

 サノンはその場に座り込んだままで、全く動かない。

 

「やらせないよ。残念ながらね」


 あと少しでアルがサノンの元へと着くタイミングで、二人の間に新しい人が現れた。


「イーニ・・・・・・だったか?」


「覚えていてくれてたんだね。ありがとう」


 アルは、目の前の黒ずくめの男のことを知っているようだ。

 サノンを庇うということは、こいつも超上会なのだろうか。


「ここは引いてくれないかい?ちょうど二対二だけど、お互い仲間が重傷だし、やめとかない?」


「超上会を一人でも始末できるチャンスだ。素直に聞くわけがないだろう」


「頑固だね。面倒くさいなぁ」

 

「その女はもう何もできない。もはや二対一の場面だ」


「・・・・・・そうだね。その通りだ」


 イーニは口では何を言っても通用しないと思ったのか、苦笑いをする。

 それから、近くに落ちてあるサノンの鞄を拾い、さらにはサノンも抱えた。


「素直にここは逃げるよ。決着はまたの機会にね。サノンも、次は万全の状態で戦ってね」


「う、うん・・・・・・?」


 抱えられたサノンは、イーニに生返事を返す。


「逃がすわけないだろう!何なら、お前ごとここで仕留める!」


「無理だよ。君には無理。それじゃ、バイバイ」


 アルは岩石を作り、それをイーニとサノンに向けて放つ。

 だが、イーニは足の裏で爆発を起こし、とてつもない速度で逃げて行く。

 アルの放った岩石は、誰も居ない地面に命中する。


 あまりの速さにアルは追いかけようともせず、その場に立ち尽くした。

 俺も疲労と怪我のせいで、もう動くことができない。

 この場には、俺とアルとアイリスの三人だけが取り残された。


 こうして、俺と超上会のサノンとの戦いは終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ