第七十九話「技と力と小細工と暴力と」
「どうします?何します?殺されます?それとも殺します?私を?死んじゃいます?」
サノンはテンションが上がって、正常では居られなくなっている様子だ。
姉に対する態度からも察するに、サノンは加虐心が相当強そうだ。
まだ遊び心を持ったまま、戦いをしているように見える。
ここで一度大きな一撃を決めたい。
俺は剣を構え、サノンをじっと見つめる。
「やりますか?殺るんですか?私が殺ってもいいですよ。犯っちゃダメですよ!変態なこと考えてますか?」
「お前の遊びに、もうちょっと付き合ってやろうと思ってな」
「遊び?遊びですか?違いますよ、これはお仕事です。超上会ですからね。でも、超上会は関係ないですよ?勝手に仕事って決めつけないでください。これはお遊びみたいなものなんです。ふふっ、楽しいなぁ。お姉ちゃんは楽しい?」
サノンは恍惚な表情になり、鞄の上からミールを撫でる。
「楽しくないか。楽しくないよね。鞄の中だもんね。でも外は危険だから。お姉ちゃんみたいな雑魚が外に出たら、一瞬でグチャグチャになっちゃうもん。私、光属性は使えないから、壊れた顔面を直してあげられないよ」
正直に突っ込めば、また足を凍らされて、自由を奪われる。
かと言って、遠距離での戦闘になれば、魔法の技術で負けてしまう。
何か案が必要だ。
「ところで、何もしないんですか?ずっと待ってあげてるんですけど。それとも、もう降参ですか?まだ全然戦ってないんですけども」
サノンはつまらなさそうに杖をぶんぶん振り回す。
そろそろ時間切れのようだ。
一つ、思いついた手段がある。
まだまだ練習段階のだが、今がそれを使うべきタイミングであるだろう。
通用することを祈るしかない。
俺は深呼吸で、息を整える。
暴風の壁で覆われた壁の中全体を、うっすらと闇で覆う。
この場が、少し冷えたような感覚になる。
「・・・・・・?」
サノンは眉を少しだけクイッと動かした。
普通の人族であれば、気づかない程度の変化だが、サノンは手練れなだけあって、些細な変化にさえ気づいたようだ。
だが、雰囲気が変わった程度が察せられた程度では、対応はできない。
俺は、馬鹿正直にサノンのところに一直線へ向かわせる。
「ええ?結局やること同じですか?」
このままだと、さっきの二の舞になるだろうと言わんばかりに、呆れた顔でサノンは杖を向ける。
そして、さっきと同じように足を凍らせようとする。
だが、サノンの狙っている相手は、俺が見せている幻覚の俺であって、本体ではない。
サノンの氷魔法は、何も無いところに、正確には俺が居るように見えた場所に放たれた。
「え、嘘?」
さすがに自分の魔法が無効化されたことに驚いたようで、サノンは思考のために、わずかに動きが鈍る。
サノンが俺の姿をした幻覚に集中している間、俺は横を大きく回って、サノンの背後へと位置を取った。
俺は一撃で仕留めるために、力強く地面を蹴り、サノンの首を狙って剣を横に走らせようとする。
しかし、踏み込みの時にわずかに足音がした。
「くっ、後ろですか!」
それを聞き取ったサノンは、自身の足元で小爆発を起こし、その反動で俺と距離を取ろうとする。
けれど、反応が完全に間に合ったわけでは無い。
首を切り落とすことはできなかったが、サノンの背中に深く傷を入れることはできた。
「はぁ、はぁ、くぅっ・・・・・・!うざったい!」
サノンは初めて余裕そうな顔を崩した。
傷の深さだけでなく、完全に不意を取られたことによる、精神的ダメージも受けている。
サノンは肩を上下に呼吸をしている。
「お前の攻撃は全て当たらない。おとなしく投降しろ。そうすれば、お前の命のことは考えてやらなくもない」
「どうせ、考えるだけで結局殺すんでしょ。子供のくだらない言い訳みたいに」
サノンは持っていた鞄を、俺たちからは離れた位置へと、一度置いた。
サノンは投降する気が全く無いようだ。
むしろ、ようやく真剣になり始めたところだ。
俺も、今回は幻覚を見せる場を作ることに成功したが、これがずっと上手くいくとは限らない。
それに、攻略法を見つけられてしまったら、また次の策を考えないといけない羽目になる。
その時に、俺が何も策を思いつかなければ、おしまいだ。
ここで戦いが終わってしまえば良かったが、そう上手くいくわけではないらしい。
「来るなら来てくださいよ。どうせ来るしかないでしょ」
サノンの顔つきは、今までからは考えられないほどに、真剣な表情だった。
「そうだな。そうさせてもらおう!」
俺はさっきと同じように、自分の姿の幻覚をサノンへと向かわせる。
相手に無いものを見せることができるように、あるものを見せないこともできる。
俺の姿は見られていないはずだ。
俺はまた同じように、横を大きく回り、サノンの背後へと移動する。
サノンは、彼女の目の前にいる俺の幻覚に、もはや居るかどうか分からだけでいいのか、極小さい火球を飛ばす。
案の定、その火球は俺の幻覚をすり抜けた。
「どこに居るか把握するのは難しいか・・・・・・」
サノンは小さく呟く。
俺はその呟きを無視して、再び背後からサノンの首に向かって剣を向かわせる。
だが、サノンは自身の周り全方位に、柔らかい土の壁を作った。
俺の剣は、その土の壁にはまってしまった。
「そ・こ・かぁ」
突然、壁が破裂して、俺の全身に土が覆い被さる。
サノンは杖を俺に向けて、水球を飛ばしてきた。
距離が近すぎる上に、その魔法の発動が早すぎたため、俺はそれを避けることができず、もろに食らってしまう。
咄嗟に出た魔法だけに、威力は全くなかったが、全身の土が水を吸い、身体の動きが非常に重くなってしまった。
「行きます、よっ!」
サノンは杖を持って、俺のこめかみ目掛けて、殴りかかってくる。
俺はそれを剣で何とか受け止める。
単純な腕力では俺の方が上だったので、余裕で受けることができた。
しかし、サノンは攻撃を止められたすぐ後に、足払いをしかけてくる。
「ぐっ!」
上半身に意識が持っていかれているのと、身体が重くてすぐ反応ができないせいで、俺は足払いをもらい、身体のバランスを崩して、背中から地面に倒れそうになる。
「死ね」
地面に倒れてる途中の俺にも容赦なく、サノンは俺の眼球を狙って、杖の逆側の先で、俺の眼球を潰しにかかる。
俺は剣を一度捨て、その杖の先端を両手で掴んで、杖の勢いを止める。
杖は眼球の前すれすれで止まったまま、俺は地面に倒れた。
サノンはその俺の上に跨った。
サノンは全体重をかけて、杖に力を込める。
上から下に入れられる力の方が当然強く、元々の腕力差と合わせて、互角の競り合いだった。
「はや、く・・・死ね・・・・・・!」
「ぐぅっ・・・・・・!」
サノンはどんどん力を加えてくる。
このままでは、俺が不利なままだ。
俺は闇を作り、それをサノンの目を覆い、視界を奪う。
「っ!」
視界を奪われたサノンは一瞬怯み、力が弱まる。
その隙に、俺はサノンの腹へと膝蹴りを入れる。
「く、うぅ!」
姿勢が悪かったため、大きなダメージを与えることはできなかったが、サノンの体勢を崩すには十分だった。
俺に跨っていた状態から、身体が横へとずれ、今度はサノンが地面に倒れる。
今が最大の好機ではないだろうか。
俺は自身の体勢を整え、今度は俺がサノンに馬乗りしようとする。
だが、サノンは自身の周りを爆発させ、その爆風であれから距離をとった。
「ガ、ガハッ!ウゥッ!」
距離を大きく取るために、それなりの威力で爆発を起こしたため、サノンは倒れた状態のまま地面を転がる。
俺は少し吹き飛ばされたが、何とか受け身を取ることができた。
「はぁ、はぁ・・・・・・はぁっ!」
サノンはよろよろと立ち上がり、俺の方を強く睨みつける。
「・・・・・・っ!」
俺も同じく立ち上がり、サノンの方を向き、少し離れた位置で、向かい合う状態になった。
「うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい!うざいいいいいいいいいいいいい!」
サノンは大声で叫んだ。
怒りのあまり、顔には血管が浮き出ていて、感情がありったけ込められた眼光は、今まで見たことのないほどに鋭いものだった。
「おとなしく死ねばいいのに!死ねと言われて、どうして従えない?!死にたくなくても、死ぬべきじゃない?死こそが死だから死んだ方がすごく死な死の死でしょ?!」
サノンの思考は完全に壊れているようだ。
一方の俺は、自分の武器は二人の間の位置に落ちているが、精神面で言えば、まだ落ち着いている。
お互いかなりの消耗をしている状態、そろそろ確実に決めたい。
「すぅー・・・はぁー・・・・・・」
俺は深く呼吸をし、拳を強く握りしめた。




