第七十二話「測られる」
俺は役所の方へと向かって歩いていた。
通行人に場所を質問すれば、すぐに教えてもらえた。
サノンは、俺の後ろをちょこちょことついてきた。
「今はどこに向かっているんですか?」
「役所に行ってみようと思う。情報が一番集まりやすいと思ってな」
「なるほど!さすがですね、レイスさん」
「そうか?」
サノンはやたらと俺をおだててきた。
別に大したことをしたつもりはないのだが。
「ところで、いったい何の情報を集めているんですか?」
「ここらにドラゴンが居るって話を聞いたんだ。詳しい情報を集めようと思ってな」
「へぇ、ドラゴンって空想上の生き物じゃないんですか?」
「俺も見たことは無いんだ」
「見たことないのに探しているんですか?!何で?!」
サノンは驚愕している。
俺だって、ドラゴンを探す機会が来るなんて思ってなかった。
「ドラゴンはこの周辺を荒らしているとも聞いている。危険生物なら、討伐をする必要があるしな」
「みんなのために、頑張ってるんですね」
「まあ、そういうことになるか」
光の精霊のことは秘密にするように言われているので、真の目的について話すわけにはいかない。
何にせよ、俺は勇者だし、人助けのためと言っても疑われることは無いだろう。
「勇者って、やっぱり世界中の人が幸せになってほしいって思うんですか?」
サノンは人差し指を口に当て、小首を傾げて尋ねる。
「そうできればいいんだけどな。俺一人では限界があるだろう。ただ、助けたいと思える人は助けたいとは思っている」
「へぇ」
サノンの返事は乾いていた。
俺の返答が気に入らなかったのだろうか。
次に続ける言葉に困ってしまう。
「とりあえず、そんなことより早く役所に行きましょう!」
気まずい空気になりかけたのを切り替えるように、サノンは手をパンと叩いた。
「そうだな。俺も時間の制約があるし、さっさと行こう」
「そうなんですね。なら尚更急がないと」
サノンは小走りで役所の方向へと行く。
俺も置いていかれないように、走って行った。
役所は、この街で一番大きい建物だった。
待ち合わせ場所にしていたところでもあるし、ちょうど良い場所だ。
「あんまりデカくない建物ですね。でも、これでもこの街で一番大きいんだよなー」
サノンは日差しを遮るために、額に手を添えて、役所を見上げた。
役所を見上げても首が疲れないぐらいの高さだ。
「そもそも、大きく作る必要が無いのかもしれないしな。大きい建物って見栄を張るために建ててるのもあると思うし」
「へぇ、レイスさんってそんな風に考えるんですね。私もそう思います」
サノンは姿勢を変えて、俺を下から見上げる。
「でも、見栄を張ることは大事だと思うけどな。建物だけでなく、人だって。見栄は、自分の弱い部分を隠せるからな。中身が強いかどうかも大事だが、外面も必要だと思う」
「それは、本心ですか?勇者としての回答ですか?」
サノンは急に真剣な表情になった。
彼女はやけに俺の心を探ってきているような気がする。
「本心だ。人はそういうものだと思うからな」
「私も、そう思います」
サノンは不敵な笑みを浮かべた。
そう思います、と彼女は答えた。
それは俺の考え自体のことなのか、俺が本心で語ったこと自体なのか。
どちらに対する言葉なのかは、俺には分からない。
ただ、今までの雰囲気と明らかに違ったことだけは分かる。
「しょうもない話はこれぐらいにして、とりあえず役所に入りましょう!」
サノンはさっきまでとは打って変わって、陽気な雰囲気になって、役所へと入っていった。
俺もそれに続いて、役所に入った。
役所には、入ってすぐのところに受付があった。
そこで用件を伝えて、それに合わせた対応をしてくれる仕組みらしい。
「すみません!聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「え、ええ?いきなり何なんだ君は」
役人はすごい困っている様子だった。
「俺の連れが迷惑かけて悪い。集めたい情報があるんだ」
「レ、レイスさん!あなたのお知り合いだったんですね」
どうやら、この役人も俺のことを知っているようだ。
顔が広いと、こういう時にスムーズに行きやすくて助かる。
「この近辺でドラゴンが居るという情報を聞いた。人族に害があるとも聞いたし、その解決の手助けをしたく、詳細な情報を求めてきた」
「ありがとうございます、こんな場所のことまで気を遣っていただいて。すぐに要人を呼びますので、少々お待ちください」
それだけ伝えて、受付の人は奥の方へと行った。
「私、もしかして必要無かったですか?」
サノンはしょんぼりとしているようだった。
申し訳なさそうに俺の方を見てくる。
「こういう場所では、必要無かったかもな。コミュニケーション能力が必要とされるわけでは無いし」
「あーあ。勇者の名声が羨ましいなー」
サノンは口を尖らせて拗ねる。
「サノンは育成学校に入っていないのか?それぐらいの年齢だろ?」
「一応入ってますよ。お友達も居ますし、楽しい学生生活満喫してます」
「だったら、良い成績残せたら、勇者になることだってできるんじゃないか?」
俺は純粋な気持ちで言った。
俺も、育成学校で努力して、人に認められる成績を残し、勇者になることができた。
同じく育成学校に通うサノンなら、チャンスはあると思った。
「勇者になんてならないですよ。私は」
けれど、サノンは酷く冷めた声色だった。
「それってどういう」
「お待たせしました!部屋を用意してますので、そちらに案内します!」
サノンの言葉の真意を聞こうとしたが、先程の受付の人が戻ってきた。
ドラゴンの情報を提供してくれる人が、奥の部屋で待っているようだ。
「準備できたらしいですよ。行きましょう!」
サノンは明るい雰囲気へと戻っていた。
「あ、ああ」
結局それ以上追求することはできなかった。
はぐらかされたようにも思える。
サノンは、いったいどういう人間なんだ?




