第六十九話「光の精霊のヒカリン」
「お前が光の精霊なのか?」
「さっきそう言ったんですけど!もっと敬って欲しいんですけど!」
光の精霊は、腕を組んで前のめりになりながら、ふわふわと浮いている。
立っているのと飛んでいるのと、どっちが楽なんだろう。
アイリスも体格が似ているし、羽も持っているので、今度聞いてみようか。
「ええと、光の精霊って名前とかあるのか?」
「名前?そんなの考えたことないんですけど。光の精霊だし、ヒカリンって呼べば良いと思うんですけど」
「ずいぶん適当だな・・・・・・」
光の精霊ことヒカリンは、彼女にとって細かいことには執着しないようだ。
精霊クラスにもなると、図太くなるのだろうか。
比較対象が居ないから、全く分からないが。
「んん?んん?」
腕を組んだ状態のまま、ヒカリンはアイリスの方を見つめる。
「こいつがここに連れてきたんです?」
ヒカリンはアイリスの方を指差して、俺の方へ向き直した。
「ああ。アイリスのことを知っているのか?」
散々俺を驚かせたり、俺の知らないことを知っているアイリスだ。
光の精霊がアイリスのことを知っていても、今更俺はもう驚かない。
「ふーん。ま、私はアイリスとかいうのは知らないんですけど。こんな芋そうな男が、私のこと知ってるわけないと思ったからなんですけど」
「ちょっと!ディザ様に失礼ですよっ!」
だが、アイリスのことは知らなかったようだ。
そして、俺は芋っぽい男らしい。
人生で一度も言われたことがないし、自分で言うのも何だが、どちらかというとかっこいい寄りだと思っただけに、ちょっとショックを受けた。
「ほうほう、随分デレデレなんですけど。アイリスちゃん?」
「もうっ!」
ヒカリンはアイリスをからかうのが楽しいのか、ニヤニヤと笑っている。
アイリスはそのからかいを真面目に受けて、ぷんぷん可愛らしく怒っている。
「アイリスはヒカリンのことを知っていたのか?」
「ここらに居るということだけは、噂で聞いていましたっ」
「なるほど」
知り合った仲ではないのに、こんなにも仲が良さそうにしている。
確かに、アイリスはコミュニケーション能力は高いだろうし、それがここでも活かされているのだろう。
それとも、ヒカリンがやけにフランクだからなのか?
「大好きな人に役に立てて良かったんですけど、アイリスちゃん?」
「う、うるさいっ!」
後者な気がしてきた。
「それで、何の用か聞きたいんですけど」
ヒカリンはアイリスイジリをほどほどにして、今度は腕だけでなく足も一緒に組んで、飛んでいた。
「ああ、そうだ。光属性の応用で回復魔法が使えると聞いている。だから、光の精霊の力を借りたいんだ。大怪我を負って、目覚めない知り合いが居るんだ」
「まあ、確かに光属性は回復に長けているんですけど・・・・・・、原理は知ってるんです?」
「一応は。正確には癒しの力というよりも、消滅の力と聞いている。怪我の部分を無かったことにするイメージ、だったはずだ」
俺は光属性を扱えないから、合っているかは自信がないが、多分こういう原理だ。
光属性の中でも、結構イメージが重要な部類で、難易度が高いらしい。
「結構詳しいんですけど。まあだいたいはそうなんですけど」
どうやら合っていたようだ。
「ちょっとその腰の剣貸して欲しいんですけど」
ヒカリンに言われたので、俺は腰に携えている剣を、ヒカリンに渡した。
「これでいいか?」
「うんうん、何でもいいんですけど」
そう言いながら、ヒカリンは右手で剣を持ち、左手を剣にかざした。
「つまり、光属性ってのはこういうことなんですけど」
かざした手が急に光りだし、それからすぐにヒカリンの持っていた剣は消えてしまった。
「まあ、これでも手加減はしてるんですけど。生き物でもデカイ建物でも、そしてこの世界だって、私には全部消すことができるんですけど」
ヒカリンはさらっと言い放つ。
その口調は無邪気ではあるが、嘘をついているようには思えない。
「そんな偉大な光の精霊様のお力、本当に借りれると思うんです?」
ヒカリンは口角を思いっきり上げながら笑う。
俺は手汗が酷くなり、ごくりと唾を飲み込む。
「それでも、どうしても助けたい人が居る。力を貸して欲しい」
俺は力強く答えた。
シックを助けられる可能性があるなら、彼女は助けたい。
「ふーん?」
ヒカリンはニヤニヤとした表情のまま、俺を見つめる。
「まあいいですけどね。私、今ちょっと困ったことあるんですけど。それを解決してくれるなら、協力してやらんこともないですけど」
ヒカリンは飛ぶのをやめて床に着地し、遺跡の外を指差して、アイリスの方へ向く。
「アイリスちゃん、とりあえず先に外に出て欲しいんですけど」
「わ、私だけっ?」
「うん。私は、このディザって人に話したいことがあるんですけど」
「もうっ、分かりましたっ」
アイリスはヒカリンの言うことに従って、遺跡の出口へと向かって行った。
「それで、話って何だ?」
ヒカリンは俺だけをこの場に残した。
いったい何の用があるというのか。
「君、回復魔法使える子を殺したことあるよね?」
「っ!」
ヒカリンは、俺を脅した時と同じ顔で見てきた。
「私は知ってるんですけど。生族を殺すような奴が、生族を助けるために、回復に長けてる光の精霊に頼むなんて、面白いったらありゃしないんですけど」
「せ、生族?」
色々と疑問はあるが、聞き慣れない言葉を真っ先に質問した。
「ああ、申し訳ないんですけど。精霊は人族と魔族のことを生族と呼ぶんですけど」
「そうなのか・・・・・・」
「まあ、君らには関係ない話なんですけど。ほら、アイリスちゃん待ってるし、外に行くんですけど」
ヒカリンはテクテクと遺跡の外に歩いて行った。
ヒカリンは何故俺が人殺しだということを知っている?
それに、回復魔法を使えた俺の元仲間のメリーは、紛れもなく光属性の使い手だ。
光の精霊は、俺のことをいったいどう思っているのだろうか。
人族と魔族に属性を与えるような存在の精霊。
俺の想像では計り知れないような存在の可能性だってある。
俺は、こいつを信用できるのだろうか?




