第六十七話「城への来訪者」
俺は、しばらく魔王城を留守にする旨を、マモンへと伝えるべく、執務室を訪れた。
「マモンには迷惑かけてしまうな。城のことは、またしばらく頼んだ」
「いえ、任されることこそが信頼の証。それだけで光栄です」
マモンは深々とお辞儀をした。
マモンは魔王城の中でも、三番目に地位が高い。
魔王の俺、魔王補佐のアイリス、その次がマモンだ。
だから、俺とアイリスが城から離れている間は、魔王城ではマモンが一番偉いことになる。
「普通の仕事も忙しいだろ?あまり無理をしないようにしろ」
「ディザ様とアイリス様は日常の業務はほとんどございませんし、問題ありません。城でのんびりしていようと、外に出ていようと、私の仕事はほとんど変わりませんよ」
「・・・・・・言うようになったな、マモン」
「ふふっ、何のことでしょう?」
マモンは不敵に笑う。
ウェルフの一件が終わってから、マモンは少し砕けた接し方をするようになった。
それは別に良いのだが、違和感というか、気になってしまう。
「でも、本当に俺は何もできていないな。頼りっきりですまない」
俺はマモンに頭を下げた。
「い、いえ!そんなことは!ディザ様、頭を上げてください!私はディザ様に助けられたことがあります。それに、いざという時、ディザ様が私たちを守ってくれるということは分かっています。ですから、頭を下げるのをおやめください!」
「冗談だ。ちょっと茶化したかっただけだ。けれど、俺があまり役に立てていないのも事実だ。いつでも頼りにしてくれ」
「かしこまりました」
マモンは再び深々とお辞儀をする。
マモンとも随分打ち解けてきた。
やはり、魔王城を離れることが、少し寂しいと感じるほどには、この場所も好きになってきている。
「そろそろ出発する。あとは任せたぞ」
「いってらっしゃいませ」
マモンに別れを告げ、俺は執務室を出ようと、扉を開けた。
するとすぐに、アイリスが息を切らして走ってきた。
「どうしたアイリス?今から迎えに行こうと思ってたとこだが、そんなに急いで」
「はぁっ、はぁっ、ディザ様!すぐに城門まで来てくださいっ!」
それだけ伝えて、アイリスは再び走って行ってしまった。
「いったい何だ・・・・・・?」
あそこまで慌てた様子のアイリスは見たことがない。
何が起きたというのだろう。
「私も行きましょうか?」
マモンは不安そうな顔つきになっていた。
マモンも、アイリスの様子のおかしさが気になるようだ。
「ああ。一応ついてきてくれ」
そうして、俺とマモンは走って城門へと向かった。
城門の近くまで行くと、誰かが叫んでいるのが聞こえてきた。
「さっさと入れろって言ってんだ!こっちは急いでんだぞ!」
「そう言われても、てめェの素性が分かんねェンだよ」
「お前らのとこのお偉いさんの知り合いだ!さっさと入れろ!」
どうやら、門番をしているリザと、来訪者が揉めているらしい。
急いだ方が良さそうだ。
「どうしたんだ?」
「ディザ様!なンか知らねェ奴が、勝手に城に入ろうとしてンですよ」
リザは来訪者の方を指す。
リザの指の先を見てみると、見知った顔があった。
「ウェルフ!それに・・・・・・!」
来訪者はウェルフだった。
そして、そのウェルフが背負っているのは間違いなくシックだった。
どうして、一緒に居るのだろう。
それに、シックの顔色がすごく悪く見える。
「魔王さんじゃねぇか!頼む!こいつ死にかけなんだ!早く助けてくれよ!」
ウェルフは大量に汗を流しながら、必死に訴える。
どうしてウェルフとシックが一緒に居るのか、シックは何故具合が悪そうなのか。
そのことは一旦置いて、シックを何とか助けないといけない。
「ディザ様、部屋の準備ができましたっ!ディザ様の寝室の二つ隣の部屋を使用できるようにしてますっ!」
後ろから、アイリスが突然やってきた。
どうやら、シックを休ませる部屋を用意しに行ってたらしい。
「ありがとう!アイリスはこの女をそのまま部屋に連れて行ってくれ!マモンは治療の用意をして、その部屋に行ってくれ。
「了解ですっ!」
「承知しました!」
マモンはその場を離れ、アイリスも移動を始めた。
「後で話を聞かせてもらうぞ、ウェルフ」
「ああ。・・・・・・すまないな、恩に着る」
ウェルフはシックを背負い、アイリスへとついていく。
俺も、アイリスの用意した部屋へと向かった。
シックは腹部を刺されて、大量に出血している。
一応、シック自身の服で、応急処置として止血はしてあるが、根本的な傷の解決にはなっていない。
「一応、傷の治療薬を使って、出血で失った鉄分の点滴を行ってます。けれど、目が覚めるかどうかは・・・・・・」
「・・・そうか」
魔王城は、思った以上に治療の設備は揃っていた。
けれど、シックは相当な重傷だ。
並の治療で復活することができるかどうか分からない。
「誰かが、回復魔法を使えるならば・・・・・・」
俺の小さな呟きに、誰も反応しなかった。
回復魔法は光属性の応用で使うことができる。
だが、光属性を扱える者はほとんどいない。
魔王城の中で回復魔法が使える者も、聞いたことがない。
「くそっ・・・・・・」
ウェルフは拳を握りしめ、震えていた。
何か打つ手はないのだろうか。
俺の知り合いに、回復魔法を使える者は居ない。
いや、本当は一人居た。
今はもう居ない、以前一緒に旅をしていた人が。
「ディザ様、少しいいですかっ?」
アイリスは深刻な顔で俺に話しかけてきた。
「どうした?アイリス」
アイリスは言葉を発するのを渋っていたが、少しして、結局話すことにした。
「一つ、心当たりがありますっ。この子を回復することができるかもしれませんっ」
俺は、それに縋ることにした。




