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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第六章「少女と人狼」
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第六十四話「シックは願う」

「くそったれが・・・・・・」


 深い傷を負ったウェルフと、無傷のイーニ。

 誰がどう見たって、どっちが優勢かだなんて、火を見るよりも明らかだ。


「私が、私が余計なことを言ったから・・・・・・」


 私は泣きそうになってしまった。

 ウェルフに、敵を倒そうだなんて提案しなければ、こんなことにはならなかっただろうに。

 私のせいで、ウェルフが死んでしまうかもしれない。


「聞こえるか、シック!」


 私が塞ぎ込んでいるところに、ウェルフは大声を出して、私の名前を呼んだ。


「お前は逃げろ!オレ様が時間を稼いでやる!」


 ウェルフはイーニから一切目を離そうとしない。

 私が逃げやすいように、イーニへの警戒を途切れないようにしている。


「で、でも、このままじゃウェルフが!」


「オレ様のことは気にすんな!こいつから逃げ切ることなんて、どうってことねぇ!」


 ウェルフが強がっていることは、私でも分かっている。

 ウェルフはまっすぐ立つこともできていないし、肩で息をしている。

 


「ここまで連れてきてくれただけで十分だ!もう帰れ!」


「でも!ウェルフが死んじゃうかもしれない!」


「お荷物なんだよ!」


「っ・・・・・・!」


 きっとウェルフは本心で言ってるわけでは無い。

 それでも、その言い方から、私はここに残っちゃダメなんだと分かった。


「ごめん、ごめんウェルフ!」


 私は森の中へと逃げ込んだ。

 イーニは私たちの方を、耳を塞ぎながらニヤニヤ見ている。

 今なら、逃げ切れるかもしれない。


「誰か、誰か助けを呼ばないと・・・・・・!」


 私は森の中を走り続ける。

 闇を使えるほどの気力は残ってなく、後ろからもし追われていたら全く気づかない。

 そんな恐怖感と、ウェルフを心配する気持ちに、私の心臓は押し潰されそうだった。


 息が荒れてきた。

 このままじゃ、ウェルフは死んでしまうかもしれない。

 誰か、誰か助けを呼ばないと。


 でも、一体誰に?

 誰があのイーニに対抗できるというのか。

 それに、ウェルフは魔族だ。

 誰が魔族を助けてくれるのだろうか。


「ううっ、うぐっ・・・・・・!」


 涙で顔がぐちゃぐちゃになる。

 綺麗に整えていた髪も、乱れまくっている。

 それでも、何かをしないといけないという気持ちで、私は走り続ける。

 でも、何をすればいいのだろう。

 私は、無力だ。


 突然、木がメキメキと音を鳴らすのが聞こえ、それからまもなく、私の横を何かが通り過ぎるのを感じた。


「綺麗な顔だったのに。ぐちゃぐちゃになっちゃってるね」


 私の後ろから、イーニが追ってきていた。

 イーニが鉛玉を飛ばしてきたのだ。


「そ、そんな・・・・・・ウェルフは?」


 イーニがここに居るということは、ウェルフはいったいどうなったのか。

 私は顔面蒼白になった。


「殺していないよ?彼は強い。だけど、僕には届かない。だから、火事場の馬鹿力ってやつ?それを見たくて、彼を置いて、君を追いかけてきたんだ。君が死んでいるのを見たら、復讐心で力が増したりするかもしれないしね」


 イーニは足のホルスターからナイフを取り出す。

 

 ウェルフは無事なようだ。

 それだけでも、私は良かった。


 死ぬんだったら、私だけでいい。

 死ぬことは怖いけど、ウェルフは私の馬鹿な提案に巻き込まれただけだ。

 どちらかが死ぬのなら、私が死ぬだけでいい。


 だから、お願い、ウェルフ。

 どうか私を置いて逃げていて欲しい。

 私たちは人族と魔族、見捨てるには理由は十分だよ。


「君もセンスはあったけど、所詮常識内。まあまだ子供みたいだけど、僕みたいに才能があるわけでは無かったね」


 イーニはナイフを私の方へと向けた。


「何か言い残すことはある?」


 イーニはずっと笑顔だった。


「何も無い。あなたに伝えることなんて何も無い。私の声は、もう誰にも届かない。だったら、何も言っても意味が無い」


「子供とは思えない考えだ。殺す前に君の気持ちを少し理解できて嬉しい」


 イーニは満足そうにしている。


 死の恐怖で、足の震えが止まらない。

 死ぬってどんな感覚なんだろう。

 その前に、痛い思いもしなきゃならない。

 それは嫌だなぁ。


 ああ、私は本当に何もしてこなかった。

 いじめてきたやつを見返すことなんてできなかった。

 ただ強くなろうとして、その志半ばに、ここで終わってしまうんだ。


 モンデは元気にしているだろうか。

 彼には、誰かを守れるぐらい強くなるという夢を叶えて欲しい。

 私みたいに、途中で夢を諦めることにならないでね。


 レイス先生にも、会いたかった。

 一緒に夢を叶えようって言ったのに。

 私は何の役に立つこともできなかったな。

 でも先生は強いんだ。

 その力が、人族みんなに認められる日はきっと来るよ。


 そして、ウェルフ。

 本当にごめん。

 あなたと過ごした時間は、私にとって新しいものばかりだった。

 つまらない毎日に彩りを与えてくれた。

 人族と魔族の壁なんて気にしないで、相棒と言ってくれた。

 結局最後まで、私は足を引っ張ってばかりだったけど。

 ウェルフには、私のことなんて忘れて、自由に生きて欲しい。


「死にたくない、こんなところで、死にたくなんて無いよ・・・・・・」


 流れていた涙は、より一層増してきた。

 私は本当にここで全て終わってしまうの?

 怖い、辛い、悲しい、苦しい、寂しい。


「死にたくない、か。それは残念だったね」


 イーニは足に力を込め、とてつもなく力強く踏み込む。


 もっともっと幸せに生きたかった。

 でも、その願いはもう叶わない。


 イーニの持っていたナイフは、私の腹へと深く刺さった。

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