第六十三話「攻撃の方法」
「やっぱ超上会か・・・・・・」
ウェルフは、イーニと名乗る人物を強く睨みつける。
「ウェルフ、超上会って?」
私はウェルフにだけ聞こえるように、小さな声で話した。
しかし、ウェルフが私の質問に答えるよりも先に、
イーニの方が口を開いた。
「そういう会があるんだよ。簡単に言うと、邪魔者を排除する組織かな。僕はその一員」
「なん、で・・・・・・聞こえてっ?!」
普通の人族なら、私の小声が聞こえない距離にイーニは居る。
それなのに、イーニは私の言ったことを完全に把握している。
「だからうるさいって、さっきぐらいの声量がちょうど良かったのに」
イーニは嫌そうな顔になった。
「もしかして、耳が異常なほどに良いの?」
「そうそう、正解。君、良い観察力と思考力を持っているね。僕のところに来るにも、君の力は不可欠だったろうし」
イーニはうすら笑いで拍手をする。
私たちは敵だというのに、警戒心など全く感じられない。
眼中に無いということなのだろうか。
「それで?何しに来たの?」
イーニは不気味な笑みのまま、純粋に問いをする。
「な、何しにって・・・・・・?」
何しに来たか。
散々攻撃した相手に追いかけられて、そんなの分かりきっているだろう。
でも、本当に分かっていないのか?
「どうしたの?」
イーニはポカンとした顔をする。
私は冷や汗が溢れてきた。
不気味だ、どんな人物なのか、ちょっとした会話から読み取ることができない。
唾が溜まってきたので、それをゴクりと飲み込んだ。
「唾飲み込んで、緊張してるの?僕はただ質問しているだけなんだけど」
「はぁっ、はぁっ」
酸素が足りない。
呼吸が荒くなる。
唾を飲んだことも、ちょっとしたことも、全て聞き取られる。
常に見られている。
圧迫感が凄まじい。
ただ立っているだけなのに。
「ん?」
イーニはニコりと笑う。
それから、すぐ腰のポーチに手を入れ、中から小さな鉛玉を取り出した。
「あっ・・・・・・」
「シック!」
私はウェルフに抱えられた。
ウェルフは私を抱いて、大きく横へと飛ぶ。
イーニは、人差し指の末節に鉛玉を乗せ、親指を添えて、鉛玉を飛ばす構えをしていた。
そして、親指を弾き、私たちが元いた場所へと鉛玉が飛んでくる。
ウェルフが助けてくれなかったら、私は死んでいたかもしれない。
なおさら足がすくんで、震えが止まらない。
「会話もまともにできないから、僕もまともじゃないことをしてみた。どう?」
「あっ・・・あっ・・・・・・」
いざ目の前にすると、とても怖い。
やっていることは今までと同じ。
鉛玉を飛ばしているだけだ。
でも、イーニの様子、話し方、全てが不気味なせいで、異常なほどに恐怖を感じる。
「シック、下がってろ・・・・・・」
ウェルフは、私とイーニの間に、私を守るように入る。
ここに来るまではまだしも、今の私は完全にお荷物だ。
素直に、イーニと離れるため、後ろへと下がった。
「次、鉛玉を飛ばそうとしたら、その隙にお前の全身を切り裂いてやる。ちょっとでもその構えをしようとしたら、覚悟しておけよ」
ウェルフは牙を剥き、イーニを睨みつけ、威嚇する。
だが、イーニはその威嚇は全く通用していないのか、笑顔が途絶えない。
「そうだね。さすがにこの至近距離では難しい。僕の自慢の特技だったんだけどな」
イーニは今度はポーチではなく、足につけているホルスターから、刃もグリップも真っ黒なナイフを出した。
「やるんだよね?」
「分かってるじゃねぇか。さっきはくだらねぇ質問してたから、頭悪くて察せないのかと思った」
「相手が何を考えてるか、それを本当に理解することはできない。だから、僕はわざわざ彼女から言葉を聞きたかったんだ」
「ふん・・・・・・」
ウェルフは強くイーニを睨み続ける。
イーニも顔つきが変わり、口角が上がっていることは変わらないが、目の奥はハッキリとウェルフを捉えていて、いつでも殺す準備はできていると言わんばかりだ。
「近接戦は久しぶりだ、感覚が鈍っていないと良いんだけどな」
イーニはナイフをくるりと回し、逆手に持ち替えた。
「行くよ」
言葉を発すると同時に、イーニは足に力を込め、地面を強く踏み、ウェルフの方へと走り出そうとする。
「っ?!」
一瞬で、イーニはウェルフと零距離の位置まで接近してきた。
明らかに人族が生み出せるような瞬発力じゃない。
たった一歩で、ウェルフとイーニの間にある十メートルの距離を詰めてきた。
ウェルフは驚きはしたが、何とか後ろに引くことで、対応はできた。
そして、イーニは二歩目を踏む。
小さく、爆発の音が聞こえてきた。
おそらく、爆発の衝撃を活かして、瞬発力を生み出しているのだろう。
イーニの二歩目は、空高くジャンプするものだった。
イーニは上に前に飛び、ウェルフの頭上を少し過ぎたところまで飛んだ。
「どこ飛んでんだよ!」
ウェルフは歯を見せ、挑発をする。
「うるさいな・・・・・・」
イーニは苛立った顔になった。
そして、イーニは身体をよじらせ、ウェルフの方へと向く。
そして、足の裏で爆発が起こり、その勢いで一気にウェルフの方まで飛んできた。
イーニは、火属性の工夫によって、空へ飛ぶこともできるし、方向転換もできるというのか。
「何だとっ?!」
イーニはウェルフを飛び越えるように飛んだので、完全にウェルフは背中を取られた形になった。
油断をしていたわけではないと思うけど、警戒は足りていなかったかもしれない。
ウェルフはそれでも、必死に避けようと伏せる。
しかし、完全に避け切ることはできず、右肩をナイフが深く切り込んだ。
イーニは受け身を取って着地し、ウェルフの方を不敵な笑みで見る。
ウェルフは、イーニが受け身を取ら間に、一旦後ろへと引いた。
再び、ウェルフとイーニの間に十メートル程の距離ができ、互いに向かい合っていた。
「悪くない。やっぱり僕は強い。客観的に見て、そうだ」
「はぁ・・・はぁ・・・・・・」
イーニは腰に左手を当て、右手でナイフをクルクルと回し、余裕そうにしている。
対するウェルフは、たった一撃とはいえ、不意打ちで重い攻撃を食らったからか、肩で呼吸をしていた。
ほんのわずかな時間の戦いで、すでに格の差が生まれている。
「遠くでイモってるだけの引きこもり野郎だったら良かったのにな・・・・・・」
「聞こえてるよ」
ウェルフはほとんど聞こえないような小さな声で呟いたが、イーニはそれすら聞き逃さない。
そんな細かいことでさえ、ウェルフの精神力を削るには十分だった。
「君は、攻撃の方法って知ってる?」
「あぁ?」
イーニはナイフを回すのをやめた。
「自分の攻撃を予測されたら、何の意味も無い。相手に対応されたら不利だし、対応の対応を考えるのも、非効率だ。一番大事なのは、相手に予測されない攻撃をすることだ」
イーニはナイフの刃を持って、グリップの方を前に、ウェルフの頭の横を通り過ぎるように投げた。
ウェルフも、グリップ部分が当たっても大したダメージは受けないと思いながらも、ナイフを避ける。
そして、それを見たイーニはニヤりと笑った。
「こんな風にね」
すると突然、ナイフのグリップ部分で爆発が起きた。
ナイフの勢いは全く別方向へと変わり、その方向はウェルフの居る方向だった。
完全に死角外からの攻撃がウェルフを襲いかかる。
「ウェルフ!右に避けて!」
私が咄嗟に出した大声に、ウェルフは何とか反応しようとする。
ウェルフは何とか身体を動かして避けようとしたが、ナイフの勢いは凄まじく、ウェルフの耳を貫通した。
「ぐぁっっ!」
さっきから致命傷は避けているが、決して傷は浅くない。
ウェルフは相当なスピードの持ち主のはずだ。
だが、ウェルフは賢いので、敵を警戒して無闇に突っ込むことはしない。
今はそれが裏目に出ている。
まずは敵の攻撃を見て、それに対応しようとしているので、イーニの予測外の攻撃の連続に、ウェルフは追いつくことができていない。
「さて、この状況、君はどうする?」
イーニは今まで一番嬉しそうな表情を見せた。




