第六十二話「追駆」
「私が言った方向に避けて。私を信じて、ただそっちに避けるだけでいい」
「分かった。お前もしっかり掴まってろよ」
ウェルフと、その背に乗った私は、敵の方へと走っていく。
ウェルフの走るスピードは、人族ではとても出せるようなものではない。
このスピードの中、情報をきちんと把握できないようにしないと・・・・・・。
「ウェルフ、右!」
「おう!」
ウェルフは右へと飛ぶ。
そして、その位置へと鉛玉が飛んできた。
私とウェルフは同じ位置にいるし、攻撃の対象も絞られる。
これはある意味、やりやすいかもしれない。
「次は左!」
「分かった!」
ウェルフは左へと避け、次の攻撃も避けることができた。
うん、平気だ。
このままなら問題ない。
「気、抜けてねぇよな?」
「う、うん。大丈夫!」
ちょうど気が抜けていたタイミングで、ウェルフから声をかけられた。
そうだ、このままなら大丈夫だと思っていても、一度の判断ミスで、死に繋がる可能性がある。
そして、その判断は、完全に私に委ねられている。
もちろん、ウェルフも、私の言葉を聞いて、瞬時に反応しないといけない。
ウェルフも、一切の気も抜けない。
一蓮托生、共に死ぬ運命は避けたいな。
距離にして二キロほどは走っただろうか。
それでも、まだ私たちが確認できる位置には、敵は感じられない。
「相手も逃げながら戦ってんだろうな、厄介な奴だ・・・・・・」
「ウェルフ、しゃがんで!」
「おおっと!」
ウェルフは思いっきりしゃがむ。
私の頭上に、鉛玉がかすったのを感じた。
玉のスピードが上がってるように思う。
「ウェルフ、玉の勢いがさっきよりも強い!多分、距離は縮まっている。このまま行こう!」
「おうよ!スピード上げるぞ!」
「うん!」
ウェルフは、より一層スピードを増して走る。
少しずつ、距離は近づいてきている。
無限に続く訳じゃない、必ずいつか追いつくんだ。
しばらく走り続けていると、突然今までとは格の違う弾幕が襲いかかろうとしてきた。
「ウェルフ!右に三回飛んで!」
「何っ?!」
今までは一度しか飛んでいなかったが、ウェルフは一気に三回右へと飛んだ。
するとまもなく、森の木々を貫通して、私たちのすぐ横に、一直線の鉛の弾幕が襲いかかってきた。
「無茶苦茶やりやがんな!」
鉛玉によって、木はメキメキと折れ始め、どんどん倒れ始める。
ウェルフは倒れてくる木を避けながら、敵の方向へと走り出す。
攻撃の勢いが増し、鉛玉だけでなく、倒れてくる木までもが、私たちに襲いかかる。
「倒れてくる木のことは気にせず、オレ様に任せろ!お前は飛んでくる鉛玉だけに集中しろ!」
「うん!」
私は一度深呼吸をした。
さらに攻撃は過酷になってくる。
より集中しておかないと。
私は目を閉じ、視覚情報を遮断する。
闇で察知することに、全ての力を注ぐ。
「右に二回飛んで!その後二秒しゃがんで、次は左に一回飛んで!」
ウェルフは私の指示通りに動く。
右に二回飛び、左の方で衝撃が襲ってくる。
二秒しゃがみ、頭頂部の髪に鉛玉がかする。
それから、左に飛び、私の右頬を鉛玉がかする。
血がたらりと流れてくるのを、肌ではっきりと感じる。
「つっ・・・・・・!」
「わりぃ!もしかして当たったか?」
「気にしないで!かすり傷だから!」
ウェルフは、倒れてくる木を次々と避けながら、進み続ける。
私は服で軽く血を拭った。
もう少し、きっともう少しだ。
「あっ!」
「どうした、シック!」
とうとう、見つけた。
「ウェルフ、このまま真っ直ぐ走り続けて!」
「よくわかんねぇが、分かった!」
ウェルフはさらにスピードを増し、走る。
私が背に乗っているのもお構いなしのスピードだ。
ようやく見つけることができた、ここまでどれほどの距離を進んできたのだろうか。
こちらから逃げるように、人の気配が動いている。
間違いなく、その方向からしても、今まで散々攻撃してきた相手だ。
その人物は、逃げることに集中しているのか、鉛玉での攻撃は止まっていた。
ウェルフが追いつくのも時間の問題、やっと攻撃してきた相手の顔を拝むことができる。
「あと少し、頑張って!この先に居る!こっちの方が足が速い!このままなら追いつけるよ!」
「任せろ!」
徐々に距離は縮まっていく。
あと百メートル、九十、八十・・・・・・。
森の出口へと近づき、開けた場所へと出ようとしている。
そして、逃げている気配が、森の外で立ち止まった。
「ウェルフ!森の外に居る!待ち構えているよ!」
あと三十、二十、十・・・・・・。
私たちは、森の外へと出た。
「ようやく会えたなぁ。鬼ごっこは楽しめたか?」
「うるさい・・・・・・あまり大声を出さないでくれるかな」
森の外は広い平原だった。
その平原のど真ん中で、全身黒ずくめの人が立っている。
「でも、まさか僕に追いつくことができるなんてね。距離もあるし、足の速さも結構自信あったけど、やっぱり魔族には敵わないか」
その人物は、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で話す。
この人が、私たちの命を狙って、あれほどの猛攻をしてきた人物・・・・・・。
私はウェルフの背中から降りた。
「どうして私たちを狙ってきてるの?あなたはいったい誰?」
「そんな大声で、しかも質問を一度にしてくるなんて、非常識じゃないかな」
私は普通の声で話したつもりだが、その人はうるさいと言わんばかりに、両手で耳を塞いだ。
私とウェルフがしばらく静かに見つめていると、ようやく耳から手を離した。
そして、わずかに口を開いた。
「僕はイーニ。超上会のイーニ。・・・・・・君たちの敵だ」




