第六十一話「シックとウェルフ」
「火の匂いがするんだよね?」
「ああ」
ウェルフに、鉛玉から火の匂いがすることを確認する。
火属性を利用し、爆発の勢いで鉛玉を飛ばしてきたのだろうか。
「周囲に人の匂いは?」
「しねぇ。お前も居ないと分かってるだろ?」
「うん・・・・・・」
私もさっきから探知を続けているが、何も引っかからない。
ウェルフの鼻でも、私の探知でも、人の気配を感じることができない相手。
身を隠すことに長けているのだろうか。
でも、私もウェルフも、ただ視覚情報のみに頼っているわけではない。
いったいどういうことなのだろう。
思索していると、次の鉛玉が飛んでくるのを感知した。
違いない、ウェルフだけじゃなく私も狙ってきている。
「くっ!」
私は右へと飛び、飛んでくる鉛玉を避けた。
今居る場所から、別の位置に飛べば、避けることは容易だ。
だが、そんなことができるのは私だけだし、闇属性を使い続けなければならない。
「ウェルフ!右に避けて!」
「くそったれ!」
ウェルフは右に飛んだ。
そして、ウェルフの居る位置と、その少し左側にも、鉛玉が合計三個飛んできた。
「埒があかねぇな!」
ウェルフは激昂する。
だが、実際その通りだ。
私たちはここに立ち尽くすばかりで、相手に何の干渉もできていない。
「ウェルフ!また右に飛んで!」
「ちっ!」
ウェルフは攻撃を避けるべき、右へ飛ぶ。
そして、私にも狙いが来ていたので、後ろへと飛んで攻撃を避けた。
だが、何度も攻撃をされ続けているし、さすがに情報も少し手に入る。
攻撃が飛んでくる方向は何とか分かった。
「ウェルフ、あっちの方に誰か居ない?!」
私は、攻撃が来た方を指差し、ウェルフに調べるよう促す。
「いや、何の匂いもしねぇ・・・・・・。お前は何か見つけたのか?!」
やはりウェルフの鼻では分からないようだ。
そして、私も敵の位置を把握することができていない。
「ごめん!私も何も分からない!」
「くそっ、どうしろってんだよ!」
ウェルフはイライラしているのか、地面を強く蹴りつけた。
確かに、このままでは防戦一方で、現状は逃げるのが一番安全かもしれない。
でも、今逃げたとしてどうする?
ウェルフが狙われていることには変わりがなく、またいつか襲われてしまうかもしれない。
私が居ないと、鉛玉が飛んでくることが分からないし、それじゃいつか死んでしまうかもしれない。
それに、もし逃げ切れたとしても、ウェルフは私に気を遣って、もう会ってくれなくなるかもしれない。
オレ様と関わったら危険だ、だからもう二度と近づくな、とか言って。
そんなの、嫌だ。
「ウェルフ、落ち着いて聞いて。提案がある」
「あぁん?!どうした?!」
ウェルフは声を荒げている。
この状態で、私が今思いついたことを言ったら、猛反対されるかもしれない。
でも、私の提案を聞いてほしい。
「襲ってきている奴、私たちで倒そう」
「はぁ?!」
ウェルフは、信じられないと言いたげな目で私を見る。
でも、私は本気だ。
「同じ敵がこうして襲ってきているなら、今逃げたとしても、また襲われるかもしれない。後回しにするぐらいなら、私と力を合わせて、今のうちに終わらせた方がいい」
「お前がオレ様の役に立てるってか?!自惚れてるんじゃねぇのか?!」
「自惚れじゃない。ウェルフは敵の攻撃を予測できないでしょ。私ならできる。私だからこそできるの」
「くっ・・・・・・」
ウェルフは歯をギリギリと噛みしめる。
分かってる、ウェルフが私を危険に晒したくないって思っていること。
「攻撃のパターンが一つしかないってことは、もしかしたら、敵も一人しか居ないかもしれない。なおさら、今が一番のチャンスだと思う。だから、お願い」
私は真剣な眼差しで、ウェルフを見つめる。
冗談とかじゃない、本当にウェルフの力になりたくて、私はこんなことを言っているんだと、伝わってほしい。
「いいのか、下手したら死ぬかもしれねぇぞ」
さっきまでの荒れた様子から一変、ウェルフは落ち着いた声色で語りかけてくる。
「死ぬ覚悟ができてるってわけじゃないかも。でも、私の力でウェルフを守れるなら、私は引かない」
「・・・・・・そうかよ」
ウェルフは、そう小さき呟き、私に背を向けた。
「オレ様の足の速さがあれば、敵が逃げようとしても追いつける。だから、お前はオレ様の背中に乗って、敵の攻撃からどう避ければいいか指示しろ」
ウェルフは、全く私の方を見ようとしない。
それでも、渋々かもしれないけども、私の提案を承諾したということは、ハッキリと分かっている。
「ウェルフ、頑張ろう。私がウェルフを守ってあげるから」
私はウェルフの背中に乗った。
もう何度目だろうか。
ずいぶんと慣れたもんだ。
「お前がオレ様を守る、ねぇ。やっぱ自惚れてんじゃねぇか」
ウェルフは少しふざけたように言う。
戦うと腹を括ったことで、逆に心に余裕が生まれたのだろうか。
「もう、うるさいな」
「守るとか守られるとか、そんなの考えるんじゃねぇ。オレ様とお前は、共に戦う相棒みたいなもんだ。オレ様を守るとか、そんなくだらねぇ考えは捨てろ」
「ウェルフ・・・・・・」
今まで私を馬鹿にしたり、からかったりしてきたウェルフが、今は私を対等に見てくれている。
私もウェルフを守るだなんて、上から目線みたいな考えは捨てよう。
私とウェルフは、共に同じ敵を倒すために戦う、相棒だ。
「行くぞ!一秒たりとも気を抜くんじゃねぇぞ、シック!」
「任せて!絶対に、絶対に敵を倒そう、ウェルフ!」
ウェルフは敵の方へと走り出す。
私は、より集中力を高め、闇での探知を精密にする。
準備も覚悟も、もう済んだ。
絶対に成し遂げると、決意がみなぎってきた。
私たちの平穏な時間を奪われてたまるものか。




