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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第六章「少女と人狼」
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第六十話「いつまでと願いたくなるような」

 私はウェルフにおぶられて、湖のほとりまで連れられた。

 そこは、ウェルフと出会った山とは別の山にあって、私は一度も訪れたことのない場所だった。


「綺麗・・・・・・!」


 湖面は、空をそのまま映したかのように青く澄んでいる。

 陽の光に照らされ、眩しいほどに輝いている湖は、絶景と言わざるを得なかった。


「ここら辺を拠点にするぞ。場所は覚えてろよ」


 ウェルフが何か話しているが、私は目の前の景色に夢中で、目が離せなかった。

 街に住んでいては、こんな素晴らしいものを見ることはできない。

 いや、私は学校に入るまでは、ヒューゼ王国とは別の国の田舎に暮らしていたが、ここまでのものは知らない。


「おい、聞いてんのか?」


 ウェルフは私の肩に手を置いた。

 さすがに意識はハッと戻され、眼前の湖から、ウェルフの方へ向く。


「ご、ごめん。景色に見惚れてて」


 申し訳ない気持ちが湧いてくる。


「まあ気にすんな。良い場所だと思ったから連れてきたわけだしな」


 ウェルフは私に無視されてたことは気にしてないといった表情をしていた。

 

「それで、何するの?」


「何でも好きにすればいい。オレ様はこの辺りの安全を確保するために、適当に周囲を調べておく」


「分かった。私も好きに探検してくるね」


「おう。満足したら、またここに戻ってこい」


「うん」


 そう言って、荷物を全部持って、私は湖の近くの森の中を歩き回ることにした。


 森の中には、学校近くの山や森の中とは違って、全く見たことのない植物がたくさん生えている。

 多分、学校で習った植物とかもあるんだろうけど、いまいち覚えていない。

 図鑑でも持ってきていたら楽しめただろうか。


「あ、そうだ」


 せっかくだし、周囲の探知でもしてみよう。

 もしかしたら、私の知らない動物が居るかもしれないし、興味深い生き物を見つけられるかもしれない。


 私はドキドキしながら、周りに闇を漂わせる。

 周囲の状況をざっくりと把握する。

 しかし、感知できたのは、見慣れたような動物や、オークみたいな、珍しくもない魔族だった。


「って、オーク?居るの?」


 珍しくないから油断していたけど、オークだって襲ってきたなら、危険だ。

 変に刺激しないように、大人しく少し離れることにした。


 オークから離れるように歩いていたら、木々が無く、開けた場所がすぐそこにあることに気づいた。


「わぁっ・・・・・・!」


 そこは、綺麗な川が流れていた。

 濁り一つなく透明で、本当に水があるのかと疑うほどに、川の底までハッキリと見える。

 ちょうど荷物は全部持ってきているので、タオルや着替えも持っている。

 水浴びでもしてみようか。


 私は服を脱いで、下着姿になって、川へと入っていった。


「つめたっ!」


 足を入れてすぐ、川の水の冷たさが伝わってくる。

 ずっと入っていたら、風邪を引いてしまいそう。

 川の流れは穏やかとは言えなかったが、足場が不安定と言うわけでもなく、そこまで危険は無さそうだ。

 

 私は、手で水をすくって、頭のてっぺんから水をかぶった。


「気持ちいい・・・・・・」


 全身に水を浴び、気持ちまで洗われるような感覚だった。

 水の冷たさは心地良く、自然に囲まれている景色は、気持ちも穏やかにしてくれる。

 これだけで、もうここに来た甲斐があったと感じる。

 早く上がったほうが良いと思うけど、あまりにも気持ち良すぎるし、もうちょっと水浴びしよう。


「水浴びしてんのか」


「う、うわああああああ!」


 ウェルフが、川の近くの森の中から、おそらく偶然だと思うが、やってきた。


「あ、ああああ、あっち行って!あっち行って!」


 私は少しでも身を隠すために屈んで、追い出すように手を払う。


 今の私は下着姿だ。

 恥ずかしいったらありゃしない。

 とりあえず川に身体全部浸かって、全身を隠すことにした。


 ウェルフは状況を理解できていないのか、何が起きているのか分からないと言わんばかりに、困惑した表情をしている。

 それとも、ワーウルフにはデリカシーというものがないのだろうか?


「お願いだから、どっか行って〜〜〜〜!」


「あ、ああ。悪かったな」


 今まで出したことないぐらいに大きな声を出し、ようやくウェルフは森の中へと帰っていった。

 何故追い出されたかは、あまり理解しているように見えない。

 やっぱりウェルフはデリカシーが無いってのが正解みたいだ。


「くしゅん!」


 私は、湖のほとりに戻り、焚き火の前に手をかざす。


 やっぱり風邪を引いてしまった。

 火属性が使えたなら、もっとしっかり温まることもできたかもしれないが、私には無理な話だ。

 身体をきちんと拭いて、着替えもちゃんとしたが、身体の芯まで冷えてしまってはどうしようもない。


「悪かったな、デリカシーが無くて」


「・・・・・・馬鹿」


 ウェルフも、さすがに反省をしているようだった。

 でも、少しの間は許さない。

 少しの間だけね。


 その日は、移動にも時間を使ったせいか、もう暗くなってきた。

 さすがに、暗闇の中で動くのは危険だし、今日はもう寝ることにした。


「だ、大丈夫かな。寝ているときに急に襲われたりしないかな」


 寝ている間は、完全に無防備だ。

 もし、獣や魔族に襲われたりしたら大変だ。


「心配すんな。そのために周囲の危険は確認したし、オレ様は寝てても異変には気づけるから問題ない」


 ウェルフはやけに早口で喋った。


「寝てても?本当?」


「嘘だ」


 ウェルフは全く誤魔化す気もなく、ネタバラシをした。


「もう、まあ大丈夫って言うならいいんだけど」


 ウェルフは、ちゃんと周りのことを調べてくれているはずだ。

 信頼しよう。


 ウェルフと私は、焚き火を挟んで、地面に座って、食事をしながら雑談をした。

 ご飯は、ウェルフが全部準備してくれていた。

 焼いたお肉と山菜だ。

 何のお肉か聞いてみると、オークの肉らしく、食べるのには本当に勇気が必要だった。

 そして、肉はめちゃくちゃ硬くて、味もいまいちだった。


 雑談も、結構弾んだ。

 レイス先生の話やモンデの話、実は私は結構頭が良い話とかも。

 どの話も、ウェルフはしっかりと聞いてくれた。

 私もすごく話しやすく、楽しい時間が過ごせた。


「ふわぁ〜あ」


 大きな欠伸とともに、私は背伸びをした。

 少し眠くなってきた。

 もうすっかり暗くなったし、


「もう寝るか?」


「うん、そうしようかな。ウェルフは?」


「オレ様はまだ起きておく」


 ウェルフは全く眠たくなさそうだ。


「了解。おやすみなさい」


「おう」


 私は持ってきた寝袋に入って、火とは反対の方に向いて目を閉じた。




「ん・・・んぅ・・・・・・」


 小鳥のさえずりと、朝の日差しで目が覚めた。

 寝袋で野宿なんてしたことなかったし、地面もゴツゴツしていたから、しっかり寝れた気があんまりしない。


「んーー、んぅ!」


 とりあえず、かたくなった身体を、背伸びしてほぐした。

 

「起きたか」


 私が起きた時には、ウェルフはもう既に起きていた。


「おはよう!ウェルフちゃんと寝たの?」


「ああ、気にすんな。ちゃんと寝てる」


 ウェルフは私よりも寝るのが遅く、起きるのが早かった。

 睡眠は足りてるのだろうか。

 野宿に慣れてるから、あまり長く寝なくても平気だったりするのかな。


「顔、洗ってこい。飯も用意してあるから、顔洗い終わったら食っておけ」


「またオークの肉とかじゃないよね?」


「朝は山菜だけだ」


 山菜だけなら良かった。

 ウェルフはお肉の良し悪しが分からないっぽいのが、私の推測だ。

 昼ご飯は、私も一緒に準備しよう。


 湖の水で顔を洗い、さっぱりした後に、朝ごはんを食べた。

 山菜は別に美味しいわけではないが、不味いわけではない。

 野菜がそれなりに好きな私でこの感想だから、多分そんなに良いものではないのだろう。


「それじゃ、今日はどこに行く?」


「そうだな、近くに滝があるから、そこにでも行ってみるか?綺麗な景色が好きなんだろ。滝も悪くねぇぞ」


「いいね、行きたい」


 そうして、ウェルフに連れられて、昨日と同じく森の中に入った。


「木漏れ日が気持ち良いね」


「オレ様にはよくわかんねぇな」


 くだらない会話をしながら、森の中を歩き続ける。

 この時間がずっと続けばいいのに。

 でも、レイス先生とは、闇属性が過ごしやすい世界を作るって約束してるし、頑張らないといけないけどね。


 滝へと向かってる途中も、周りの探知は欠かさない。

 何か新しい発見が無いかと、私は渇望していた。


 でも、特に目新しいものは見当たらない。

 珍しい生き物とかは、ここら辺には居ないのかな?

 いつまでも闇を作り続けて、探知を続けるのも疲れるし、そろそろ探知もやめようか。


 そう思った矢先、明らかに不自然なものが、とてつもない勢いで近づいてくるのを感じた。


「ウェルフ!横に避けて!」


 ウェルフは私の言葉を聞いて、咄嗟に右へと飛んだ。

 それから間も無く、ウェルフの元居た位置へと、衝撃が訪れる。

 探知できていなかったら、間違いなくウェルフの身体を貫いていた。

 私もウェルフも、冷や汗をかかざるを得ない。


 衝撃が起きた位置からは、煙が立っていて、極めて小さな穴が空いているようだった。


「この穴から、火の匂いがすんな・・・・・・」


 ウェルフは周囲を見渡す。

 鼻を使って、周りの警戒をしているようだ。

 私は、穴を調べてみることにした。


 小さな穴の周りを掘って、衝撃の正体を確かめることにした。

 少し掘ってみると、鈍く光るものが見える。

 さっそくそれを取り出してみた。

 

 その正体は、見過ごすことのできないものだった。


「ウェルフ、見てこれ」


 私は、それをウェルフへと見せた。


「この形、このサイズ。ウェルフの体内に入っていた物と一致する」


 その正体とは、ウェルフが以前攻撃された時に、体内に入り込んでいた球体と、全く同じ形の鉛玉だった。


「何・・・・・・?!」


 ウェルフは驚いた表情をした。

 それからすぐ、いちいち驚いている必要などと思ったのか、深刻な顔へと変わる。


 私も、さっきまで浮かれていた気持ちは忘れて、気を引き締める。

 今はきっと、気の抜ける状況では無いだろう。


「間違いない。誰かに狙われている・・・・・・!」

 

 以前、ウェルフを襲った存在。

 今、再び、ウェルフへと立ちはだかった。

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