第五十九話「長期休暇突入」
全ての試験が終わって、長期休暇に入った。
試験結果も出たし、しばらく学校での授業や行事といったことはなく、学校に残る理由も少ない。
私は、さっそくウェルフの居る山へと向かった。
ついつい軽く小走りしてしまう。
長期休暇には遊ぶ約束をしたし、早くウェルフに会いたい。
早く試験の結果を伝えたい。
そんな気持ちが、私の足を動かせる。
「はぁはぁ、ウェルフー!」
山の頂上に辿り着き、大声でウェルフを呼ぶ。
ここまで走り続けたため、息も絶え絶えで、肩で呼吸をしている。
「おう、よく来たな」
ウェルフはいつものように、木にもたれかかっていた。
「はぁ、疲れたー!」
私も、その隣に行って、一緒に木にもたれかかった。
「なんでそんなに疲れてるんだよ」
「だって、ずっと走ってきたんだもん」
「別にオレ様はここからどっか行くわけでもねぇし、走る必要ねぇだろ」
「いいじゃん」
「そうかよ」
私は息を整えるために、目を閉じて、しばらく休憩することにした。
ウェルフも、それ以上会話をしようとはせず、私が休んでる横で、ただ静かに座っていた。
「よし、回復!」
疲れもある程度取れたので、私は立ち上がった。
「で、試験はどうだったんだ?」
ウェルフも私につれて、立ち上がった。
「そう、その話がしたかったの!」
私は右手をギュッと握る。
「今までで一番良かった!学年内でも上位十五%ぐらい!」
ピースサインを作って、ビシッとウェルフにそれを見せつけた。
「良かったな」
ウェルフは私の頭を撫でた。
「ふふっ」
思わず、笑みがこぼれた。
「それで、もう休みなんだろ。どこ行くんだ?」
ウェルフは私の頭から手を離し、私に質問をした。
「とりあえず今日はご褒美ってことで、ウェルフが適当に走ってる背中にずっと乗っていたいな」
「あれ、好きなのか?」
「うん、風が気持ち良いし」
「まあ、オレ様がちょうど良いぐらいに、風属性使って調整してるからな」
「そうだったんだ」
それは知らなかった。
確かに、ウェルフの速すぎるスピードは、とても風が心地良いと感じられるレベルでは無い。
気を遣ってくれていだんだ。
「ありがとう」
「おう」
私は、ウェルフの背中に乗って、どこかへと連れて行ってもらうことにした。
「ねぇ、ちょっと風の調整やめてみてよ」
ウェルフの背中に乗ったまま、私はウェルフに話しかけた。
今は気持ち良い風を肌で感じているが、容赦なく風を浴びたらどうなるんだろう。
「いや、やめとけ。興味本位で済むレベルじゃねぇぞ」
ウェルフは、私を見下すというわけではなく、純粋に心配そうに言う。
「でも、気になるもん」
「間違いなく全身切り傷だらけ、顔面もズタボロになって、一生残るような傷もつくし、そのできた傷にも、絶え間なく風が襲いかかってくるぞ」
「ひっ」
ウェルフの迫真な口調に、思わず身の毛がよだつ。
さすがにそんな目には会いたくない。
「まあ、そこまではならない。冗談だ。だが、あまりオススメはしないから、大人しく我慢しろ」
「はぁい」
それ以上、ウェルフには風属性をやめるよう要求することはなく、大人しくこの風を堪能することにした。
しばらくウェルフが走った後、人族の街の近くへと連れて行かれた。
どうしてこんなところに連れてきたのだろう」
「着替えとかタオルとか買ってこい。ここで待ってやるから」
「え?いきなりどういうこと?セクハラ?」
「ちげぇよ、どういう思考回路だ」
ウェルフは、お前は何を言っているんだと、呆れた目で私を見た。
もちろん、私だって冗談だ。
「うん。明日も明後日も休みだよ」
「自然の中での遊びを教えてやる。だから、野宿することになる。自然の中で遊ぶの、人族にとっては良いリフレッシュになるだろ?」
ウェルフは私を背中から下ろした。
「ほら、行ってこい」
私の返事も聞かずに、ウェルフは私を街に買い物は行かせようとする。
でも、私も断る気もない。
「行ってくるね」
私は街の外にウェルフを置いて、買い物へと行った。
着替えとかタオルを用意しろということは、水浴びができる場所だろうか。
私が火属性を使えるなら、服を乾かしたりできたけど、あいにく私は闇属性しか使えない。
レイス先生は色々な属性を、最低限以上使えるそうだが、私にはそんな気配が全くない。
練習とか試みた方が良いのだろうか?
とりあえず、私は着替えとタオルは買ってきた。
お金は偶然にも多く持ってきたので、まだ買い物ができる。
野宿できるんだし、寝袋とかも買っておこうかな。
寝袋が売ってそうな店を探していると、学校で見かけた、数少ない知人が居た。
サノンだ。
サノンの方も、私に気づいたのか、私を見つけると、手を振りながら走ってきた。
「シックちゃん!偶然だね!」
「うん、サノンとこんなところで会うとは思わなかった」
「私、この街に住んでるんだ。長期休暇に入ったから、実家に帰ったってわけ」
サノンは大きく手を広げ、自身の街を見てもらいそうにしている。
この街のことが好きなのかな。
「シックちゃんはどうしてこの街に?」
サノンは少し屈んで、可愛らしい顔で私を下から覗き込む。
モンデとかだったら、こんなことされたらすぐ惚れてしまいそうだ。
サノンは無自覚だろうから、なおさら破壊力高そう。
「ここらへんに住んでいる人と一緒に野宿とかして遊ぶ予定なんだ。そのために寝袋とか買いに来たところ。悪いけど、お店とか教えてくれる?」
正確には人じゃなくワーウルフだが、細かいことを説明するわけにはいかない。
まあ、大嘘ついてるわけではないし、いいだろう。
「うん、いいよ!どんな人なんだろう。気になるなぁ」
サノンはものすごく気になっているようだが、私はそれは無視することにした。
サノンも空気読める人なのか、深く追求をすることはなかった。
「それじゃ、案内するね」
そして、サノンの案内のまま、寝袋を買うことができた。
「じゃあ、またねー!」
「うん、バイバイ」
寝袋を買い終えたあと、店のすぐ外で、私とサノンは別れることにした。
サノンにも用事があるらしく、私に付き纏うみたいなことはなかった。
正直助かる。
着替えとタオルと寝袋を持って、私はウェルフの待つ街の外に出た。
「お、準備できたか?」
「うん。野宿なんて初めてだから、ちゃんと必要なもの揃えられたから分からないけど」
「別になんでもいい、オレ様なんて何も持ってないからな」
確かにウェルフを見ると、完全に手ぶらだった。
こんなんで、毎日ちゃんと生きることができるのだろうか。
まあ、外で生活することに慣れているから、平気なんだろうけど。
何はともあれ、これでいつでも外に出かけることができる。
いったいどんなことをするんだろう。
未知に出会えるかもしれないことに、私のワクワクは止まらない。




