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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第六章「少女と人狼」
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第五十八話「実技試験」

 足早く起きて、身体のストレッチをし、いつもやらないジョギングもした。

 どうもそわそわしてしまって、身体を動かしていないと落ち着かない。

 でも、そのおかげで、覚醒していない身体はしっかりと動かせるようになった。


 試験会場は、いくつかの演習場に分かれていて、生徒たちはそれぞれ指定された場所に、指定された時間に行く。

 私は、朝の一番最初の受験者だ。

 

 試験会場の演習場に行くと、生徒はほとんど居なかった。

 まあ当然か。


「シックちゃんおはよう!」


 試験会場についてすぐ、後ろから声をかけられた。

 振り返って見ると、声をかけてきたのはサノンさんだった。


「ちゃ、ちゃん?あ、おはよう」


 聞き慣れない呼び方に、思わず聞き返してしまった。


「うん。だって仲良くなりたいしね」


 サノンさんは屈託の無い笑顔を浮かべる。


「シックちゃんも、私のことをサノンちゃんって呼んでもいいからね」


「えっと、ちゃん呼びは恥ずかしいから、呼び捨てでいい?・・・・・・サノン」


 私が呼び捨てで呼ぶと、距離が縮まったように感じたのか、サノンは嬉しそうにした。


「うん!シックちゃん!」


 サノンは右手を差し出してきた。

 私もそれに応えて右手を出し、握手を交わした。


「シックちゃんは何番目?私は三番目だよ」


「私は最初。トップバッターだね」


「そうなんだ!頑張ってね!」


 サノンは顔の横で親指と人差し指を立てて、ウインクをした。

 

 そういえば、昨日にサノンは何を言いかけていたんだろうか。


「サ、サノン。昨日言いかけてたことって何?」


「あ、そうだそうだ!忘れていた!」


 サノンは両手を合わせて、今思い出したと言わんばかりにハッとした。


「シックちゃんの実技試験見てみたくて、いつどこでやるか聞こうと思ってたけど、忘れてたんだー」


「そうなんだ」


 ということは、今回の試験でたまたま同じ場所で、たまたま同じ時間だったのは、彼女にとってラッキーだということか。


「見学してもいいかな?」


 サノンは人差し指を彼女の口に当て、首を傾げた。

 彼女はジェスチャーが多いなと思った。

 感情が豊かなのだろうか。


「うん。そもそも、試験時間が近いんだから、勝手に見ることになろうだろうしね」


「うん!ありがとう!」


 サノンはニコッと笑った。

 おお、なんと眩しい笑顔なんだ。


「そろそろ実技試験を始める!最初の受験者シック、来なさい!」


「はい!」


 男の先生に呼ばれたので、私は先生の場所へ行こうとした。


「頑張ってねー!」


 サノンは、大きく手を振って、私を見送る。


「ありがとう」

 

 対して、私も軽く手を振った。


「基本的には制限時間が来るか、明白な決着が付いたと判断できた時まで戦い続ける。武器は殺傷能力の低いものを使うようにし、属性を用いた技等は、好きなだけ使うといい」


 先生から一通りの説明を受ける。

 試験内容はすでに知らされてるし、毎度このルールなので、あくまで確認程度だった。


 私は、ナイフをよく使っているので、木で出来たナイフを用意された。

 先生は、木剣を持っている。


「それでは始める。好きなタイミングでかかってこい」


 先生は木剣を構えた。

 さて、先生はどんな攻撃をしてくるか。

 しっかりと見て、対応していこう・・・・・・。


 しかし、いつまで経っても先生は攻撃をしてこない。


「どうした?試験は始まっている。早くしろ」


 先生は不思議そうに私を見る。

 

「あ、あれ?」


 私は自分からの攻撃は、まだまだ未熟だ。

 だから、今回の試験では絶対に受け身に回ろうと思っていたが、先生は私からの攻撃を促している。

 これは困ったことになってしまった。


「すみません、先生から攻撃をしてくれませんか?」


「俺がか?!」


 先生は、びっくりした表情で自分を指差した。


「こんなの初めてだな・・・・・・」


 先生は困り果て、小さく呟く。

 完全に私の都合で申し訳ない。

 でも、私も良い成績を取りたいんです。


「まあいい。再開するぞ」


 先生は両手で木剣を握り直した。

 私も、右手にナイフをしっかりと握る。


「ふっ!」


 先生は、ものすごく低い姿勢で接近してきて、居合斬りのような動作で、私の右腰あたりを狙おうとしてくる。

 先生は私よりも背が高いが、攻撃姿勢が低いせいで、私の懐に潜り込もうとする勢いだった。

 私自身も、ウェルフによくやっていたことなので、懐に潜り込むことが、いかに厄介かは、よく分かっている。 


 とにかく、潜り込まれないように動かないといけない。

 先生は、向かって右から左へと斬りかかるつもりだ。

 ならば、向かって左側は、比較的隙があるはずだ。


 思考に時間を使ったせいで、真横に避けたとして、勢いのままに、攻撃を当てられてしまうかもしれない。

 私は左斜め後ろへと、強く踏み込んで飛んだ。


 私の位置は、先生の攻撃がもろに入る位置からは離れたはずだが、先生はニヤりと歯を見せた。

 その様子から、おそらくこの勢いのまま攻撃する手段があるのだろう。


 先生は居合いの構えのまま、突進し続けてきた。

 木剣での攻撃はやめ、右肩をぶつけて、攻撃をしてくるつもりのようだ。

 私の予想通りに。

 

 この攻撃を避けることは、正直厳しい。

 だが、剣で斬られるわけではないので、受けてもいいだろうと思った。

 私は両腕に衝撃を吸収するために闇を作って、両腕を交差して前に出し、突進を受ける。


「くぅっ!」


 突進攻撃をもらい、私は少し吹っ飛ばされ、膝をついた。

 先生はそれを確認して、木剣を両手で大きく上に振りかざして、私を上から攻撃しようとする。


 つまり、私が懐に潜れる位置になったということだ。


 私は地面を強く蹴り、今度は私が先生へとタックルする。

 剣を振り下ろすために、両腕を真上に上げてしまっているので、ボディ全体は完全な無防備状態だ。

 避けられるはずがない。


「くっ!」


 先生は私よりもずっと体格が良いので、大きく吹き飛ばすことなどできない。

 だが、よろめかせることぐらいならできる。

 むしろ、そっちの方が好都合だ。


 先生に生まれた先を逃さず、私は右手に持っていたナイフを、先生の首の右側に寸止めする。


「これで決まり、ですよね?」


 実践なら、首にナイフを斬り込んで、もう終わっている。

 私は得意げな顔で、先生の顔を見る。

 

 先生はやれやれと肩をすくめた。

 戦いの意思は無くなり、これで試験終了なのだろう。

 目の端で、先生の左脚がわずかに動こうとしているのを確認しなければ、そう思っていた。


 先生は、左膝で私の横っ腹に蹴りを決めようとする。

 私は先生の膝を、左手の掌で受け止め、それと同時にナイフを先生の首にピトりと触れさせた。


「これで間違いなく、終わりですね」


 私は、もうそれ以上何をやってもノーカウントだという意味も込めて、ニコりと笑う。

 

「ちっ。最後の一撃も止められてしまったな」


 先生は悔しそうな顔をしていた。

 思えば、最後の膝蹴りは、躊躇が無い一撃だった。

 気づけたから防げたものの、不意打ちのつもりでの攻撃だったろうし、もろに食らってしまえば、相当ダメージをもらってしまっていた。

 あの一撃は、間違いなく私を傷つけようとするものだった。


 先生の中に、闇属性を特に嫌っている人は居るとは知っていたが、この人もそうだったのだろうか。

 急に現実を突きつけられたような気持ちになって、少し落ち込んだ。


「試験は終わりだ。さっさと帰っていいぞ」


 先生はつまらなそうな顔をしていた。

 試験前はそんなことは無かったのだが。

 実技試験という体で、私を痛めつけようとしていたのだろうか。

 それがうまくいかなかったから、そんな顔をしているのか。

 被害妄想かもしれないが、そう解釈できてしまうだけで、私にとっては辛かった。


 私は先生に何の言葉も告げず、そのまま寮へと帰ろうとした。


「シックちゃんお疲れ!凄かったね!」


 サノンは私の方へ、小走りで来た。


「どうしたの?」


 彼女は、私の様子が変わっているのに気づいたのか、心配そうな顔で私を見る。

 今起きたことをありのまま伝える気は起きなかったが、何となくサノンの気持ちも気になった。


 私に急に話しかけてきた人。

 おそらく、私が闇属性を使うことを知って、話しかけてきたのだろう。

 だって、私がそれ以外に人に話しかけられる理由なんて、思いつかない。

 だったら、そんなサノンは闇属性のことをどう思っているのだろう?


「私って闇属性を使う人族なんだけどさ、どう思う?」


「どうって、別に闇属性がどうかってよりも、その人自身がどうかが大事だと、私は思うけど・・・・・」


 サノンは悩む様子もなく、即答した。

 きっと、これは彼女の本心なのだろう。

 あの実技試験の先生や、幼い頃に私をいじめていた人たちとは違って。


「ありがとう」


 私はサノンに一言だけ言って、そのまま寮の方へと歩き出した。


「あ、私の試験は見ないの?もう帰る?」


 サノンは私の背中に向かって話しかけてきたが、私はそれを無視して、そのまま歩き続けた。

 サノンには申し訳ないが、この場には少しでも長く居たくない。

 

「みんながサノンみたいな人だったら良いのにな」


 私の小さな呟きは、誰の耳に届くこともなく、消えていった。

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