第五十七話「筆記試験」
試験当日、私は少し緊張していた。
試験日は二日に分かれていて、初日は筆記、二日目は実技となっている。
ウェルフと練習をした日以降、実技にはあまり力を入れられなかった。
その分、筆記はさらに盤石なものにはなっていたが、実技面の不安は拭い切れない。
まずは初日の筆記試験。
何はともあれ、ここで大コケしては意味が無い。
試験会場とされている教室に入り、自分の席へと座る。
試験が始まるまでは、まだ時間が残っているので、私はできる限りの復習をした。
友達も居ないし、周りがぺちゃくちゃ喋っていようが、全く構わない。
そうやって、試験開始の時間まで待っていると、試験監督の先生が教室へとやってきた。
「試験で使用不可なものは仕舞えー。そろそろ試験を始めるぞー」
周りの生徒は机に出している物を、片付け始める。
私も同じく、さっきまで復習に使っていた物を、鞄にしまった。
生徒たちは、試験に自信が無いのか、ざわざわと不安そうな声がどよめいている。
「静かにしろー。試験用紙配るぞ」
先生の声で、教室内は静かになり、それを確認した先生は、試験用紙を配り出す。
私の手元にも試験用紙が配られた。
いつも通りやれば、問題ないだろう。
「試験開始!」
先生の合図で、全員が一斉に紙をめくり、問題を解き始める。
最初の筆記試験は生物で、主に人体構造について問われた。
勉強を怠らずにした成果か、すらすらと問題を解くことができる。
難しい問題もいくつかあったか、特別詰まることなく、生物の試験を終わらせることができた。
平均点は大幅に上回っているだろう。
それから、数学や自然法則や語学の試験も、問題なく解き切ることができた。
やはり、私は筆記試験は得意な方かもしれない。
他の生徒たちは、試験の出来に一喜一憂しているが、私は心の中でそれを笑っていた。
ふふふ、私は君たちとは違うんだよ、なんてね。
「ねぇ、シックさん」
「ひゃ、ひゃい!」
席に一人座って、次の試験を待っていると、突然見知らぬ女生徒から声をかけられた。
その女生徒も、私と同じ黒髪の長髪で、目もくりくりとしていて、可愛らしい子だった。
私は、全く声をかけられると思っていなかったから、咄嗟に言葉が出ず、変に噛んでしまった。
「シックさんって、凄い髪綺麗だよね。やっぱりお手入れとかちゃんとしてるの?」
女生徒は、私の隣に、躊躇なく座ってきた。
机に肘をついて、手に顎を乗せて、私の方を見つめる。
「え、う、うん。見た目には、ちゃんと、こだわった方が良い、と思って」
「そうなんだ!本当に綺麗〜」
女生徒は私の髪に顔を近づける。
というか、試験前に何でそんなことをいきなり聞くんだろう?
顔近い、匂い良い、香水?
どうしよう、何か話した方が良いのかな。
良い匂いだね、とか言うべき?
いや、失礼か。
そもそも、容姿とかそういうの誉めたら、気持ち悪いとか思われちゃう?
でも、普段勉強と闇属性の訓練しかしてない私に、話題なんてあるわけがない。
「ふー・・・・・・」
意味もなく、手を組んで真上に背伸びしてストレッチした。
早くこの時間が過ぎて欲しい。
話しかけてきたのに、そっちの話題はもう終わりなの?
「ねぇ、シックさんってさ」
「最後の試験始まるぞー。座れー」
女生徒が何かを言いかけたところで、先生が教室に入ってきた。
「ごめん、また今度ね!私の名前はサノンって言うんだ。それじゃ!」
そう言って、サノンさんは手を合わせて申し訳なさそうにし、私から離れて、彼女の席へと戻っていった。
私にとっては、嵐のように感じた。
結局最後は何が言いたかったんだろう。
分からずじまいだが、最後の筆記試験の歴史が始まりそうなので、気持ちを切り替えることにした。
「それでは、開始!」
問題が全員に配られ、歴史の試験が始まった。
歴史は一番不安ではあったが、特に問題無く解き進めることができた。
これなら、今回の筆記試験は、総合得点で上位に行けるかもしれない。
しかし、とある問題で、私の手は止まってしまった。
『現在の人族と魔族の関係を答えよ』
模範解答が何なのか、だいたい想像はつく。
試験範囲は、勇者誕生の頃の話だ。
何故勇者が生まれたかを考えれば、それっぽい答えを書くことはできる。
でも、私はその通りに書きたくはなかった。
それは自分の考えに反するものであって、正解だとは思いたくなかったから。
結局、私はその問いの部分は空欄のままだった。
「そこまで!」
そうして、全ての筆記試験が終了した。
答案用紙が回収されている間、周りから様々な声が聞こえる。
疲れた、全然ダメだった、遊びに行こう。
みんな、明日も試験があるというのに、一旦忘れたいようだ。
歴史の答案用紙も回収が終わり、完全に解放された。
まっすぐ寮の自室へ帰っても良かったが、歴史の試験前に、サノンさんに声をかけられたのを思い出した。
周囲をキョロキョロと見てみるが、サノンさんがどこに居るか分からない。
それでも一応五分ほど待ってみたが、サノンさんが私に声をかけてくることはなかった。
いつまでも待ってるわけにはいかないので、私はもう自室へと戻ることにした。
「とうっ」
私は自室に帰ると、真っ先にベッドに飛び込んだ。
別にめちゃくちゃ疲れたわけではないが、試験一日目が終わったし、ご褒美のつもりで、ごろごろしてみた。
でも、ベッドの上で少しくつろいでいると、突然今日の歴史の問題を思い出した。
「はぁ・・・・・・」
なんとなく気分がイマイチになったので、軽くシャワーを浴びてさっさと寝ることにした。
明日は実技試験。
私にとっては、明日が実質本番だった。
せっかくウェルフに付き合ってもらったんだから、頑張らないと。




