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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第六章「少女と人狼」
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第五十六話「戦い方」

「とりあえず、次はさっきみたいに、急に消えたりしねぇから、また攻撃してこい」


「分かった」


 ウェルフはさっきと同様に無防備のままだった。

 それでも、攻撃を当てられないんだろうな。


 ともかく、私はまた同じようにナイフを突き刺そうとする。

 だがウェルフは、ナイフの刃先を指で掴み、それを軽く捻った。


「わっ」


 私は、その回転に身体を持ってかれそうになったので、慌ててナイフを離した。

 それでも、体勢は崩れてしまった。


 ウェルフは、ナイフをそのまま奪い、刃と持ち手を入れ替え、私の目の前にナイフを向ける。


「お前・・・・・・、センスないな」


 ウェルフは呆れた目で私を見る。

 そんなこと言われても、私も精一杯やっているというのに。


「ちょっと!手加減してよ!」


「これでも手加減してんだよ!あまり手抜きすぎると練習にならねぇだろ!」


 こう口喧嘩はしているが、自分があまり攻撃することが得意じゃないことは、よく分かっている。

 単調な攻撃だからこそ、すぐ見切られてしまうんだ。

 とにかくこのままじゃ、結局以前のように、実技で良い成績を残すことができない。

 

「次はオレ様が攻撃するから、対応してみろ」


「できるかな」


「ちゃんと手加減してやるから」


 ウェルフは、拳を顔の前に構えた。

 手加減してくれるとのことで、今度はきちんと動きを見切ることができるかもしれない。


「行くぞ」


 私は無言で頷いた。

 そして、どんな小さな動きも見逃さないように、ウェルフの拳をしっかりと観察する。


 ウェルフが右の拳を少し後ろに引いたのが見えた。

 殴るための勢いをつけているのだろう。

 どこを殴るかを、予備動作から大体予測し、身体を少し右下に下げた。


 予想通り、ウェルフのパンチは、私が居た場所を殴り、空を切り、私はウェルフの懐に潜り込んだ状態になっている。


 恰好の的になっているウェルフの右腕を掴み、私の方へと引っ張る。

 そして、自分の右肘を、ウェルフのみぞおちへと打ち込もうとする。

 ウェルフがこっちに向かってくる勢いと、私が打ち込もうとする勢い。

 両方合わされば、結構痛いダメージになるはずだ。


「くっ!」


 そう思ったが、ウェルフのあまりにも早すぎる反応速度のせいで、私の右肘は、ウェルフの左手にしっかりと掴まれた。

 ウェルフに掴まれてしまっては、私にはもうどうすることもできない。


「わ、わりぃ。ちょっと本気が出た」


 ウェルフは少し申し訳なさそうにしている。


「今、本気出たって言った?言ったよね?」


 私は隙を逃さず問い詰める。

 

「いちいちめんどくせぇ女だな!」


 ウェルフは掴んでいた私の肘を突っ放した。

 私はよろよろと倒れそうになったが、なんとか踏みとどまることができた。


「で、どうだった?」


「いいんじゃねぇか?お前は基本守りを重視して、カウンターとか狙っていくのが向いていると思うぞ」


「分かった!」


 それからは、ウェルフが様々な攻撃をしてくるのを、対応し続ける練習をした。


 ウェルフは戦い慣れしているのか、私の発想にないような攻撃もしてくる。

 また、こっちの対応を読んできて、対応の対応みたいなこともしてきた。

 間違いなく、学校の教師に比べて、ウェルフは強く、充実した時間を過ごせた。


「ねえ、攻撃の方法も教えてよ」


「攻撃の方法だ?」


 ある程度時間も経って、休憩をしているときに、私はウェルフに攻撃の仕方を聞いた。

 センスが無いと言われてしまったし、ならウェルフの戦い方を知りたかった。


「そうだなぁ・・・・・・」


 ウェルフは腕を組み、考え始めた。


「お前の攻撃はセンスが無い」


「それは最初に」


「まあ聞け。ちゃんと説明してやるから」


 私が言葉を言い終わる前に、話を続けさせろと言わんばかりに、ウェルフは口を挟む。

 私は素直に、黙って話を最後まで聞くことにした。


「お前は、敵の攻撃を見ることはよくできてる。そこから相手の動きを読むこともだ。だが、攻撃をするとなると、長所を何一つ活かせてねぇんだ」


 ウェルフは私に対して、人差し指をちょいちょいとしてきた。


「ちょっとゆっくり攻撃してみろ」


「うん」


 そう言われて、私はゆっくりとウェルフに殴りかかった。

 ウェルフは、私の遅い拳を右手で防ぐ。


「この後どうすんだ?」


「え?」


 ウェルフの質問に、私は答えることができなかった。


「そういうことだ。お前は、相手の攻撃に対応することは得意だけど、自分が対応されることは何も考えてねぇ。だから、センスが無いんだ」


「あー」


 言われてみれば、確かにそうだった。

 相手に攻撃を当てようという気持ちだけあって、それ以外のことは考えていなかった。


「自分の行動に対して、相手はどういう行動を取るか。それに対してどう行動するか。お前は考える力と見る力があるんだから、やれるはずだ」


「あ、ありがとう」


 ちゃんと適切なアドバイスをくれたことと、私のことを素直に褒めてくれたことに、ちょっとだけ驚いた。

 少し嬉しいかも。


「分かった。次から意識してみる」


「おう。次の試験には間に合わないかもしれねぇから、オレ様の攻撃の仕方でも見て、頭に入れとくだけ入れとけ」


「うん」


 休憩もほどほどにして、再開することにした。

 ウェルフは、分かりやすく、私の対応に合わせて対応をしてきた。

 やればやるほど、対応合戦になっていき、どんどん行動の予測の量が増え、頭もパンクしそうになった。

 ウェルフは私に合わせて、戦いの展開を遅めにしてくれているが、それでも、戦いながら頭をフルに回転させて考えなければならないのは、非常に疲れるものだった。


「疲れたー!」


 日も暮れた頃、私はもうへとへとになって、地面に座り込んだ。

 汗もだくだくになってしまった。

 帰ったら、シャワー浴びたい。


「良くなってんじゃねぇか?まだ思考が追いついてなくて、たどたどしいところはあるが、及第点ではあるだろ」


 ウェルフは疲れた様子はなく、息も切らさず立っていた。

 結構長時間付き合ってもらったというのに。


「ほんと?良かった」


 私自身も、今まで以上に、戦っている時の充実感が違った。

 ただ目の前の相手を攻撃することしか考えていなかったときに比べ、戦っているという実感が段違いだ。


「これで、前よりは試験の結果も良くなるかな?」


「強くはなってんじゃねぇかな。まあ頑張れよ」


「ありがとう」


 しばらく、地面に座り込んでいると、ウェルフはしゃがんで、私に背を向けた。


「ほら、もう帰る時間だろ。乗れよ」


 ウェルフが、私をおぶってくれるのも、もはやいつものことになりつつある。

 私も、さすがに疲れがひどいので、素直にウェルフの背中に身を預けた。


「今日もありがとう、ウェルフ」


「おう」


 それから、お互いに言葉は交わさず、私は山の麓まで連れて行ってもらった。

 せっかく、ウェルフが戦い方を教えてくれたんだから、次の試験は絶対良い成績を残そう。

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