第五十五話「試験前」
学校では、長期休暇に入る前に、試験がある。
普段は、座学は小テストで、実技は演習で成績がつけられていたので、試験らしい試験は特に無い。
しかし、長期休暇に入る前にだけ、それまでの復習として、試験が行われる。
筆記は特に問題は無いはず。
私は頭が良い方だと思っているし、闇属性の研究において、最低限の知識は必要だと思って、勉強は怠っていない。
ただ、実技に関しては心配だ。
実技試験は、教員と一対一で模擬戦闘をして、その内容を評価される。
戦闘の内容を評価って、一体何が基準なのかよく分からないし、私は闇属性を使ってるし、それを評価できる人は、多分学校には居ない。
居たとしても、レイス先生ぐらいだと思うけど、あの人は全然学校に来てくれない。
一年最後の試験の時も、実技の成績は振るわなかった。
あの時は、まだレイス先生に教えてもらってなかったから、今回はまだマシだと思うけども。
授業を終え、とりあえず筆記対策に、復習をすることにした。
寮の自室に帰り、風呂や着替えをすませ、机に向かう。
筆記試験は、計算の問題だったり、歴史の問題だったりと、生物系だったり、自然法則についての問題だったりと、ありとあらゆる問題が出題されるので、満遍なく勉強しなければならない。
身体構造についての勉強は、つい最近やったし、歴史の復習でもすることにした。
教科書とノートを開き、ペンを持って、試験範囲の内容をまとめるとしよう。
試験の範囲は、勇者が生まれた頃の話だった。
どうして勇者が生まれたのか、そのことが書かれている箇所だった。
簡単にまとめると、魔族が人族を襲い始め、人族は恐怖するばかりだった。
そんな人族の心の安寧のため、強力な力の持ち主を、人族の代表としたことが始まりであるという内容だ。
しかし、教科書では、この勇者誕生の話の以前では、魔族の話は一切出ていないのが、私にはどうも気になっていた。
いかに人族が発展してきたか、今の国はどうやってできたかと、そういった人族の話ばかり書かれている。
魔族はどこから生まれたのか、何故人族を襲うのか、そんな話はまるで書かれていない。
それは謎のままであって、まだ解明されていないだけかもしれないけれど・・・・・・。
それに、教科書では事実が書かれているだけだが、先生の授業では、やたらと魔族を悪とし、勇者を讃えるような話し方をしていた。
どうも、人族をやたらと尊重したがっているとしか思えない。
もっと言うと、魔族は人族を襲っているし、確かに魔族は悪と言えるかもしれない。
でも、魔族全員がそうとは限らないはずだ。
魔族という大きい括りでひとまとめにされていることが、どうも気に食わない。
私も、闇属性というだけで虐められていたし、そういった偏見は本当にくだらないと思っている。
レイス先生は勇者なのに、闇属性というだけで、白い目で見られることもあるとか。
そんなに、人族にとって、魔族や闇属性は忌み嫌うべきものなのだろうか?
レイス先生だって、モンデだって、ウェルフだって、ただ普通に生きているだけだろうに。
「なんか、萎えちゃったな」
私はクルっとペンを回し、そのままペンを置いた。
色々考えていたら、一気に歴史の勉強をする気が失せてしまった。
モチベーションが無いなら、効率も悪く、無駄に時間を過ごしてしまうだけだ。
諦めて、別の勉強をすることにした。
それから数日間は、座学の方の試験勉強を主に続けた。
もちろん、実技の試験対策を欠かすことはないが、座学の方で先に自信を付けておきたかった。
座学はもう心配ないと思うし、そろそろ実技試験の対策にも力を入れていこう。
でも、これといってやることは無い。
モンデが今居ないなら、学校に他に友達は居ないし、仲の良い教師がいるわけでもない。
本番は、実際に戦わないといけないのに、結局当日まで、いつも通りの自主練習になってしまいそうだ。
「え、どうしよう・・・・・・」
このままでは、不安のまま実技試験を迎えてしまうことになる。
試験の日まで残された日数は、休日を一日挟んで、後五日しかない。
こんなことなら、ちゃんと友達作りをしておくべきだった。
昔は強くなることに思い詰めてたし、人見知りなのも相まって、モンデが居ないなら、基本的に私はぼっちだ。
そんな私に、実技試験に向けて、戦闘の練習を付き合ってくれそうなのは・・・・・・。
「ということで、戦闘訓練に付き合って」
「はぁ?」
ウェルフしか居なかった。
休日は一日しか無いが、その一日でも充実させられるなら、それで十分だ。
実技試験があること、それの対策に付き合ってほしいとウェルフに説明すると、納得はしていないようだが、それでも付き合うとは言ってくれた。
とにかく時間が惜しいので、早速始めることにした。
山の頂上で、私とウェルフは向かい合って立った。
「オレ様はお前の実力を知らないから、とりあえず適当に攻撃してみろ」
ウェルフは無防備で、棒立ちをしている。
どこからでもかかってこいということだろうか。
「武器使っていいの?」
私は腰に下げていたナイフを取り出し、ウェルフに見せる。
「当たり前だろ」
ウェルフは見下したような目で、笑いながら私を見る。
完全にバカにしているな、これは。
「それじゃ、行くよ・・・・・・はぁっ!」
私は右手にナイフを持ち、ウェルフの腹を狙って、真っ直ぐ突っ込んだ。
戦闘が得意ではないとはいえ、観察することは慣れている。
無防備のウェルフに突撃すれば、何かしらの予備動作が起きるはず。
そこからの行動を予測すれば、次に自分が行うべき行動も自ずと分かるはずだ。
しかし、自分の考えとは反して、全くの予備動作を確認することもできず、急に目の前からウェルフが居なくなった。
「え、嘘?!ど、どこ?」
軽く周囲を見渡しても、ウェルフは見つからない。
「ここだ」
「うわぁ!」
突然後ろから声が聞こえ、私の身体は持ち上げられた。
両脇に両手を入れられ、赤子を抱っこするかのように、簡単に持ち上げられてしまった。
私も背は高い方だが、ワーウルフの身長にはまるで敵わず、足が地面に全然届かない。
「ちょ、ちょっと!」
身体をよじらせたり、足をバタバタさせているけど、全く意味がなく、ウェルフは動じない。
「はっはっはっ。これは愉快じゃねぇか」
ウェルフは大声で笑った。
顔を見ることはできないが、きっと腹立つ顔をしているんだろう。
「は、離してよ!」
「仕方がねぇな。ほらよ」
「いたっ!」
ウェルフは急に手を離したので、私は地面に尻餅をついてしまった。
「はぁ、ひどい」
「お前はやたらとオレ様に張り合ってきてたからな。痛い目見せるのにちょうど良い機会だ」
尻餅をついて、地面に座っている私に、ウェルフは指差して、ニヤニヤと笑っている。
「もう・・・・・・。試験対策のためだって言ったのに」
「分かってる分かってる。力を測ったってだけだ」
私が不満そうにしても、ウェルフは笑ったままだった。
それでも、ウェルフはちゃんと付き合ってくれるようだ。
そして、ウェルフとの戦闘訓練が、本格的に始まった。




