第五十四話「特技自慢」
次の休みの日も、私は山の頂上へと行った。
「あ、ウェルフだ」
「おう」
ウェルフは木にもたれかかって、寝ていた。
私が声をかけると、目を開けて、私に挨拶をしてくれた。
「ウェルフって、何でここに居るの?」
「何でって、怪我してあんまり遠くに行けなかったから、ここらへんにずっと居ただけだ」
「もう怪我は治ったのに?」
「それは・・・・・・気分だ」
ウェルフは頭をかいて、目をそらした。
何か裏がありそう。
「何か隠してるでしょ」
私はウェルフに顔を寄せて、問い詰める。
「お前には絶対に言わねぇ」
ウェルフは、右手で私の顔を掴んで、私を遠ざけた。
「ふぅん。それならそれでいいや」
それ以上追求するのは無駄だと思って、私はウェルフから離れた。
こうやって、ウェルフと話すことは嫌いじゃないが、そもそも私が山の頂上まで来た理由は他にある。
「今から、ちょっと闇属性使う練習するから、邪魔しないでね」
「勝手にしろ」
私は山の頂上を離れ、頂上から少しだけ下った場所にある、森へと入った。
障害物が多い方が、目で見えない部分が多いため、探知の鍛錬に関しては、こっちの方が面白くて飽きにくい。
周囲を軽く目で見て、特に危ないものは無さそうだと確認する。
よし、早速やっていこう。
今回はどこまで範囲を広げられるか、全力を出してみようと思う。
学校の演習場ぐらいの大きさでは、物足りなさを感じてきたので、目標は山全部かな。
出せる力を全て使って、一気に闇を展開する。
覆えた部分は・・・・・・七割ほどだった。
「・・・・・・っ、はぁっ」
すぐに疲労が溜まり、私はドサッと地面に倒れた。
全くキープができないなら、まるで実用的でないなと思った。
それに、肝心の探知は何もできていない。
ただ、闇を広範囲に広げただけだった。
「何倒れてんだ?」
私が地面に仰向けになっているところに、ウェルフがやってきた。
「え、着いたきてたの?」
起き上がる気力が無いので、地面に倒れたまま会話することにした。
「何かしてんなと思って来た。それだけだ」
「私のこと、気になったの?」
「めんどくせぇやつだな・・・・・・」
ウェルフは呆れた目で、私の方を見た。
ウェルフは、完全に私のことをバカにしているような気がする。
「だったら何してたか、見せてあげる」
「ほう。じゃあ頼んだ」
ウェルフは少しだけ興味深そうな顔になって、こっちを見る。
「十分だけ寝させて」
ウェルフは何も言わず、ただ片手で頭を抱えた。
それから結局十五分ほどして、ようやくちゃんと動けるようになった。
言っていた時間よりも、長く経ってしまったが、ウェルフは何も言わずに、私の隣に座って、無言で待ってくれていた。
「それじゃ、やるよ」
「おう」
私が立ち上がると、ウェルフも一緒に立ち上がった。
さすがに大規模でやるのは無理だから、範囲はすごく小さくした。
近くの茂みに何があるか、それが分かるだけでも、私のことを見直すだろう。
早速、目の前の茂みに、兎が居ることを認識できた。
目で確認することはできない場所だ。
私はその茂みに、指差した。
「あの茂みの中、何かの動物が居る。ウェルフには分かる?ちなみに、私は分かるよ」
私はふふんと鼻を鳴らし、自慢げにウェルフの方を見た。
しかし、ウェルフは私の顔はちっとも見ずに、茂みの方を見ている。
「ああ、兎が居るな」
「・・・・・・」
ウェルフはしれっと言った。
しかも、兎が居るのは当たっているし、私の面目丸潰れだ。
私は不満そうにウェルフを睨みつけているが、ウェルフは全く気にする様子もない。
「ここら一体に、闇が漂ってる気配を感じる。お前の仕業だと思ってるが、探知もできんだな。それは知らなかった」
「え?」
ウェルフは淡々と話した。
びっくりした。
探知をするとき、他の人には気づかれないようにしているが、ウェルフはそれを看破しているようだった。
「凄い、分かるんだ」
「まあ、以前似たようなことされたからな」
闇を漂わせて、探知をするのは、私オリジナルだと思ったが、先駆者が居たようだ。
レイス先生だろうか?
学校では教えてくれなかったのに。
「じゃあ、兎って分かったのは?」
「オレ様は嗅覚が優れてるからな。匂いで分かるんだよ」
ウェルフは、自身の鼻をツンツンと指で叩いた。
「匂いで分かるってことは、匂いがないものはわからないってこと?!」
私はつい前のめりになって、ウェルフに近づいた。
「ああ、そうだよ。分かったから、そんなに近づいてくんな」
「私はそういうの関係なしに、全部分かるよ」
私はもう一度鼻を鳴らし、自慢げな顔をした。
「何をそんなに張り合おうとしてるんだよ。意味わかんねぇ奴だな・・・・・・」
ウェルフは、理解できないと言わんばかりに、困り顔を見せた。
でも、私自身もよく分からない。
ウェルフがワーウルフで、自分にとって珍しいから?
刺激が欲しかったから、こうやってウェルフと仲良くなりたいのかもしれない。
それから、もう少しの時間鍛錬をした。
ウェルフは何か口を出してきたりするわけではなく、ただ私の鍛錬を無言で見続けていた。
ウェルフはガタイが良いのもあって、ちょっと圧を感じた。
ガタイの良いウェルフから、無言で見られながらの鍛錬は、ちょっと緊張してしまった。
その日の鍛錬も終え、私は山の麓まで、以前同様に、ウェルフに背負われて下った。
「今日もありがとう」
「ああ、また来るのか?」
「うん、多分」
「そうか」
私は適当な返事をしたが、ウェルフは別に嫌そうな顔はせず、むしろちょっと嬉しそうに見えた。
そういえば、そろそろ長期休暇に入る。
今はたまにある休日にしか、ここに来れないが、長期休暇に入ったら、ここに入り浸ることもできるかもしれない。
「私、そろそろ暇な期間に入るから、その時はここにずっと遊びに来ていい?」
「好きにしろ」
「分かった」
山から外は、人族の居住区で、魔族のウェルフはここから街の方へは出ることができない。
私とウェルフは、ここで別れることにした。
「それじゃ、またね」
私は笑顔で手を振った。
「ああ」
ウェルフは、手を振りかえしてはくれなかったが、穏やかな顔つきで、頷くことで、返事をしてくれた。




