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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第六章「少女と人狼」
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第五十三話「未知」

「お前、人族か」


「うん」


 ワーウルフは警戒しているようだ。

 鋭い目で、強く睨まれる。

 何もする気がないんだから、そんな目で見なくてもいいのに。


「オレ様は魔族だぞ。そんな易々と近づいて、怖くねぇのか?」


「だって、このあたりでワーウルフの被害を受けたって話は全然聞いてないし。大丈夫かなって」


「頭お花畑だな。知らねぇ奴に話しかけるもんじゃねぇぞ普通」


 ワーウルフは呆れた目で私を見るようになった。


「でも、私人見知りだよ?」


「はぁ?」


 ワーウルフは顔をしかめた。

 でも、私が人見知りなのは事実だ。

 マナさんと初めて会った時とか、目を合わせることもできなかった。

 今回は、ワーウルフに対する興味が上回ってるだけだ。


「お前が人見知りなわけねぇだろ。寝ている知らねぇ奴を無理やり起こすなんて、聞いたことねぇぞ」


「でも、可愛い子犬とか見かけたら、つい近づきたくなるじゃん」


「オレ様は子犬じゃねぇよ!・・・ってて、あまり叫ばせるんじゃねぇ」


 ワーウルフは胸のあたりを押さえて、苦しそうにしていた。

 怪我が痛むようだ。


「どうしたの?」


「なんか遠くから撃ち込まれたんだよ。痛むっちゃ痛むけど、お前には関係ねぇ。気にすんな」


 そうは言うものの、痛そうにしてることには変わらない。

 

「あっ、そうだ」


「何だぁ?」


 私は、ちょうど研究中の技があったのを思い出した。

 今こそ、それを試す時かもしれない。


「ねぇ、痛いの大丈夫?」


「お前には関係ねぇって言ってるだろ。オレ様のことは気にするな」


「そうじゃなくて、今から痛くなることするけど、大丈夫?」


「は、はぁ?何言ってんだ?」


 私はカバンにしまってある針を取り出した。


「刺すけど、平気?」


「おいおいおいおい!意味わかんねぇだろ!どういうことだ?!」


 ワーウルフは突然慌てだして、少し後ずさりする。

 平気かどうかは全く答えてくれない。


「行くよ?」


 もどかしいので、返事を待たずに刺すことにした。


「あぁ、もう知らねぇ!勝手にしろ!」


 ワーウルフは観念して、目をぎゅっと閉じた。

 こんなに身体が頑丈そうなのに、針一本に対してこの反応、ちょっと可愛く見えた。


 胸のあたりをチクりと刺した。

 体内に針は届いてるが、致命傷は与えないように、当然気をつけている。


「つっ・・・・・・」


 少し痛そうだけど、我慢してもらうしかない。

 構わず、続けることにした。


 針を通して、ワーウルフの体内に闇を漂わせる。

 闇が触れること自体は、ダメージを与えることはないから大丈夫だと思うが、一応臓器とか傷つけないように気をつける。

 

 人族の身体構造は勉強していたが、それがワーウルフにも通用するかの不安はあった。

 しかし、ほとんど構造は似ていたので、杞憂だったようだ。


「胸のあたりが痛いんだよね?」


「ああ」


 外傷が特に見られないなら、身体の中に何か異変があるはず。

 心臓のあたりを、慎重に探ることにした。


「・・・・・・何かある」


 心臓の近くに、小さな球体のものがある。

 本来そこには無いものなだけに、違和感だった。


 その球体を、闇で丁寧に覆う。

 絶対に体内に影響が出ないように、慎重に。


「すぅー・・・はぁー・・・・・・」


 深く深呼吸をした。

 ワーウルフも神妙な面持ちになっていた。

 私が感覚を集中させているからか、彼がゴクリと唾を飲む音もハッキリ聞こえる。


 丁寧に、球体だけを包んだ闇に力を込めて、そしてその球体を消滅させる。

 何とか、成功したようだ。


「お疲れ様、これで多分大丈夫」


 私はワーウルフから針を抜いた。


「あ、ありがとう。何か身体がちょっと楽になった気がするな・・・・・・」


 今までの態度とは打って変わって、やけに素直に感謝を述べられた。

 ワーウルフは呆けていて、イマイチ状況も理解できていないように見えた。

 説明が必要かな。


「体内に、多分だけど、異物が入り込んでいた。例えば鉛とかだったら、溶け出して身体に悪影響を及ぼすし、下手したら死んでたかもしれない」


「そ、そうか・・・・・・」


 ワーウルフは少し冷や汗をかいていた。

 痛む程度で何ともないと思っていたのか、死ぬことは考えていなかったっぽい。


「お前は人族で、オレ様は魔族だってのに、なんか悪いな。命助けられるとは思わなかった」


 ワーウルフは情けないと言わんばかりに、頭をかいて、少し俯いた。


「いや、気にしないで。人族と魔族とか、そういう括りで分ける理由ないと思うし。悪いことするなら、それは許さないけどね」


「まだガキのくせに、ずいぶん変な考え方してんな・・・・・・」


「痛い目見たことあるからね」


 私は、昔に闇属性を使えるからという理由だけで、虐められていたことを思い出した。

 少し表情が暗くなった私を見て、ワーウルフも言葉を発することはなく、ただ私を見つめていた。


「それに、私も成功するか不安だった技だったから、ちょうど良い実験だったんだよね。死ななくてよかった」


「お前が原因で死ぬこともあったのかよ!って、本当に平気だ・・・・・・」


 ワーウルフは大声で叫んだ後、自分の胸のあたりを確認した。

 もう痛むことは無いようで良かった。


「人族なのに魔王やってる奴もいるし、世の中ほんとは何でもありなんだろうな・・・・・・」


 ワーウルフは頭を抱えながら呟いた。

 ワーウルフの呟きはすごく小さく、私はよく聞き取れなかった。


「何か言った?」


「何でもねぇよ」


 ワーウルフはそっぽを向いてしまった。

 これは聞き直しても無駄そうだ。


「名前、教えろ」


「え?」


「お前の名前だ」


 ワーウルフはそっぽを向いたまま、私の名前を聞いてきた。


「私の名前はシック」


「俺の名前はウェルフ。お前は命の恩人だ。名前、覚えておく」


 ウェルフは、私の方を向き直して、名乗った。

 彼は右の拳を突き出してくる。

 私も、それに合わせて、右拳をぶつける。


「命の恩人だし、お願い一つ聞いてくれない?」


「仕方がねぇな、聞いてやるよ」


 ウェルフは腕を組んで、私の話を聞く。


「山の麓まで私をおぶって」


 私は両手を広げて、ウェルフに身を差し出す。


「はっ。その程度なら、お安い御用だ」


 そう言って、ウェルフはニヤりと笑い、私をおんぶした。


「全力で行くからな!しっかり掴まってろよ!」


 そして、ウェルフは全速力で走り出した。


「うわぁ・・・・・・!」


 ウェルフの走るスピードは凄まじかった。

 私を背負う背中はゴツゴツとしているし、肌に触れる風も強烈なものだ。

 それでも、山の上で感じた時よりも、私にとっては心躍るもので、心地良かった。

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