第五十一話「旅とは」
「良かった!無事だったのね!」
「お母さん!」
街に帰ると、入ってすぐのところに母親が待っていた。
娘の安否を確認できた母親は、とても安堵した顔をしていて、すぐさま走ってきて、親子で抱き合っていた。
「ありがとうございます、本当にありがとうございます!」
母親は俺に対して、何度も何度も頭を下げて、お礼を述べていた。
「お役に立てて良かったです。頑張った甲斐がありました」
俺は全身ボロボロでみっともない姿だったが、これも頑張った証ということにしよう。
かっこはつかないけど、身の丈に合っているとも言えるだろう。
「娘を守ってくれて、本当に助かりました。この恩は一生忘れません」
「守って・・・・・・」
母親が言った言葉が、やけに胸に響いた。
俺は魔族に親を殺された過去から、みんなを守りたいという気持ちで、強くなろうとしていた。
でも、知らずのうちに、魔族から守るということばかり考えていたのかもしれない。
「そうか、俺はこの女の子を守ることができたんだな・・・・・・」
改めて女の子の方を向いて、無事を確認する。
「本当にありがとうございました!」
女の子も、母親と同様に、頭をペコリと下げてお礼を述べる。
魔族に母親を殺され、それから人を守れるぐらい強くなりたいという気持ちで、努力を続けていた。
でも、心のどこかで、相手を魔族だけだと思い込んでいた。
相手が魔族であろうと人族であろうと、ささいなことであろうと、困っている人を助けることには変わりはない。
今まで視野が狭くなっていたことに、ようやく気づかされた。
「あの!私はルピナスと言います!あなたの名前を教えてくれませんか?」
ルピナスと名乗る女の子が、胸に手を当てて、俺の名前を聞いてきた。
「俺はモンデっていうんだ。今は旅の途中だけど、ここを旅立っても、またいつかこの街に訪れるよ」
「はい!モンデさん!」
俺とルピナスは、小指を交わして、約束をした。
その後、ルピナスの家に歓迎され、食事をした。
旅人さんも一緒に誘われたが、俺はいい、と言って、どこかへ行ってしまった。
ルピナスの家に行ったのは、俺だけだった。
「私も旅に連れて行ってください!」
テーブルを囲んで、俺とルピナスとその母親の三人が話していると、ルピナスが前のめりになって、真剣な目で俺に話した。
「旅に出たいの?」
「はい!」
ルピナスは力強く頷いた。
俺に触発されてか、旅に憧れを持ったとのことらしい。
俺もまだ旅の経験はものすごく浅いけども。
「ルピナスって、体力あったりする?」
「いいえ、あまり身体を動かすのは得意じゃないです・・・・・・」
ルピナスはしょんぼりとした面持ちだった。
身体を動かすのが苦手なら、ついてくるのは難しいかもしれない。
旅人さんは容赦無いところがあるし。
「ごめん、それだったら厳しいかもしれない」
「そうですか・・・・・・」
「でも、ルピナスが頑張って、体力つけてちょっと戦えるようにもなったら、その時は一緒に旅に出ようか」
それを聞いて、ルピナスの表情は、パァッと明るくなった。
「分かりました!頑張ります!」
それからは、俺の学校での話をした。
同級生のシックや、勇者レイスに会ったこと。
学校での授業の内容や、演習の話もした。
ルピナスには、洞穴でみっともないところを見せたので、レイス先生に師事したことは、秘密にした。
ルピナスの手前、つい見栄を張ってしまった。
それから、傷の治療がある程度終わるまでの数日間、ルピナスの家にお世話になった。
旅人さんも、旅に出るのは俺の傷が治るまで待つつもりのようで、その間別のところで何かをしているようだった。
何をしているかは分からないが、旅人さんには謎が多いし、いちいち気にしないようにしている。
そして、数日経って、傷も治り、旅の出発の日を迎えた。
見送りに、ルピナスが来てくれた。
「モンデさん、お元気で。また会える日を楽しみにしています」
「俺も楽しみにしてる。一緒に旅をする日もね」
「はい!」
そして、俺と旅人さんは、街を出た。
ルピナスは別れを悲しんでいる様子はなく、笑顔で手を振ってくれた。
俺も、それに笑顔で手を振って返した。
しばらく歩いて、振り返ると、街もずいぶん小さくなった。
滞在期間は長くはなかったが、愛着の湧いた街だった。
旅は出会いと別れの連続だと想像をしていたが、別れの度に毎度寂しい思いをしていては、この先保たないだろう。
別れと言っても、また出会うまでの時間だ。
そう思うようにしよう。
「あの街に来て、良かったか?」
旅人さんは穏やかな顔で、俺の様子を伺った。
「良かったですよ。自分がいかに視野が狭いかも気付けましたし」
「そうだな、あの街は魔族との関わりは全く無い場所だし、モンデにとっては目新しい場所だったかもな」
「知ってたんですか?!」
俺は思わず、旅人さんの方に強く振り向いた。
「ああ、モンデは魔族のことしか考えていなかったしな。良い刺激になると思って、ここまで連れてきたんだ」
「今回の事件、俺に解決させたのも、そういう意図があって?」
「まあ、そうだな」
旅人さんはサラッと言った。
結局、旅人さんの掌の上だったってわけだ。
「星が綺麗なのも、魔族に困ってない人がいることも、狩りも、人族が敵になることも、全部未知のことだったろ。そういうのを知るのが旅なんだよ」
「そう、ですね」
自分の視野の狭さは、見るものそのものが少なかったから。
未知を知るという旅は、俺の凝り固まった考え方を広げるのに、もってこいのものだった。
旅に出て良かったとも思えたし、これからも旅をしたいと思う。
「旅人さん、次はどの街に行くんですか?」
「面白いところに行きたいな。行き先何も考えずに進んでいくのも良いぞ」
「じゃあ、そうしましょう。未知のものを発見できるかもしれないですしね」
この先の旅、いったい何に遭遇することができるのだろうか。
自分の知らないものをもっと知りたい、そう俺はそう強く願うようになっていた。
ワクワクを胸に、俺と旅人さんは歩き続ける。
「そういえば、洞穴で俺が意識失った後、助けに入ったみたいですね。もしかして、覗き見してました?」
「無茶しろとは言ったけど、死なれたら困るからな。見させてもらってた」
「はぁ、本当に死にそうだったんですからね。それに、男には膝枕しとけばいいって、何てこと教えてるんですか」
「はっはっはっ、まあ気にするな。良い思いできただろ」
旅人さんを軽く睨んだ。
予想してた通り、旅人さんは一切悪気はなさそうにしていた。
「それにしても、何のためにあんな袋持って行ったんだよ。何の役にも立ってなかったな」
旅人さんはニヤニヤとしながらこっちを見る。
「そのことはもう忘れてください!」
顔が熱くなりそうだ。
あの洞穴でボコボコにされたことは、あまりにも自分が未熟すぎて、本当に恥ずかしい。
自分が成長するために大事な出来事だったから、忘れてはいけないのだけれど。
いくら俺が成長しても、結局こうやって旅人さんに振り回されるのは、きっと変わらないのだろう。
まあでも、こんな風に振り回されても、悪い気はしないかな。
幕間を残して、5章終わりです!そして、6章が始まります。
6章も5章と同様、主人公以外のキャラがメインの話になります。主人公のレイスの出番は、もう少し先だ・・・・・・。




