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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第五章「少年と旅人」
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第五十話「無茶をする戦い」

 立ち上がることはできたものの、手痛いダメージを負っていることには変わりはない。

 無理やり身体を起き上がらせているだけで、限界が近いことは間違いない。

 素早く相手を仕留めなければならない。


 俺は相手を強く睨みつける。

 とにかく、自分を昂らせないと、身体が保たない。

 気持ちで相手に負けてしまってはダメだ。


「しぶとい奴だ!さっさと楽になっちまえばいいのにな!」


 もう一度、男は火球を飛ばしてきた。

 さっきは直撃してしまったが、よく見てみたら、威力も大きさもどうってことはない。

 右の手のひらを前に出し、その先に闇を作って、クッション代わりにして、火球を飲み込む。

 疲労した状態ではあったが、この程度なら難なくこなすことができた。


「なんだ?見たことねぇことしてくれるじゃねぇか」


 男は、物珍しそうにこっちをジロジロ見てきた。

 闇属性がきちんと扱われている場面に遭遇する機会なんて、普通はほとんど無い。

 男は、さっきの出来事に、興味が強まっている様子だった。

 

 それは、むしろこっちにとって好都合だ。

 俺のことよりも、闇属性そのものに注意が向いている。

 満身創痍の子供なんて取るに足らないのだろう。

 油断しているのが、一目でわかる。


 俺は、中に空洞ができるぐらいに、軽く右手で握り拳を作り、その中に闇を作る。

 

「お?今度は何を見せてくれるんだ?」

 

 何かをするということはバレてもいい。

 何をしようとしてるかがバレなければ、意表を突くことができる。

 向こうも、何かをすることを期待しているのだから、それを利用すればいい。


 俺は右の拳を、男の顔面目掛けて、殴りかかる。

 

「はいはい」


 男は呆れたように、俺の馬鹿正直な攻撃を、顔を軽くそらして、避けようとする。

 だが、俺の狙いは殴って攻撃することじゃない。

 

 右手をパッと開き、そこに隠していた闇を、相手の目を覆うように放つ。

 至ってシンプルな目潰し、だけどレイス先生に教えてもらった技だ。


「ぐわっ!てめぇ!」


 視界を奪われた男は、ぶんぶんと腕を振り回す。

 冷静にならば、その当てずっぽうな攻撃を避けるのは余裕だった。


 完全に無防備の男の首に、俺は右腕を回す。

 左腕も使って、男の首をガッチリと捕まえる。

 そして、そのまま絞めあげようとした。


「〜〜〜!〜〜〜〜!!!」


 ただでさえ腹にダメージを食らっていて、力を入れにくい。

 男は必死に抵抗し、何度も俺の腹に肘を打ち込む。

 

「うっ!ぐっ、ーーーっ!」

 

 歯を強く食いしばって、男の首を絞め続ける。

 首を絞める姿勢は、完璧に決まっている。

 俺が辛抱できるかどうかだ。

 策や小細工なんて、もう関係ない。

 根性の戦いだ。


「・・・・・・!」


 男からどんどん力が抜けていくのを感じる。

 このままだ。

 もう少し。

 男の殴ってくる力も弱まってきている。


「うおおおーーーー!」


 大声で叫び、最後の力を振り絞った。

 あとどれだけ身体が保つか分からない。

 頼む、もう終わってくれ!


 そう願った時、カクンと男が落ちたのを感じた。

 見ると、男は失神していた。


「やっ・・・た・・・・・・」


 俺は両腕を離し、思わず両膝は地面についていた。

 再び立ち上がろうとしても、身体が言うことを聞かない。


「〜〜〜!」


 女の子の叫び声が聞こえる。

 そうだ、まだやらないといけないことがある。


 ナイフ、持ってきたナイフで縄を切って、助けてあげて。

 男が起きる前に、捕らえておかないと。

 逃げられないようにしないと。

 女の子を街へ、保護者のところへ帰さないと。

 立ち上がらないと。

 動かないと。

 男が起きる前に。

 まだやらないといけないことが・・・。


 そこまで考えたところで、プツリと糸が切れたような感覚に陥った。

 意識が無くなったのも、それからすぐだった。




「あ、起きましたか?」


 意識が戻ると、何やら頭の下に柔らかいものを感じる。

 イマイチ頭が回らない。

 俺は何で意識を失っていたんだっけ・・・・・・。


「やばい!」


 俺は飛び起きた。

 結局、やらないといけないことを何もしていない。

 とにかく、女の子を助けないと。

 

「ど、どうしました?」


 女の子が心配そうに声色で話しかけてきた。

 やっぱり不安なのだろうか。

 今すぐ助けてあげないと。


「って、あれ?」


 女の子は縄から解放されてるし、口ももう塞がれていない。

 それに、あたりを見回しても、男の姿はどこにも見当たらなかった。


「ど、どういうこと?」


 状況がまるで掴めないので、女の子に質問をした。

 女の子もきょとんとした顔で、俺と目があった。


「ふふふっ」


 少しの間見つめあった後、女の子が微笑んだ。

 よく分からないけど、とりあえず危機は過ぎたらしい。


「赤毛の大人の人が、私の縄をほどいてくれて、私を攫った人も連れて行ってくれたんです。私は、あなたが心配で、ここに残ってました」


「もしかして、膝枕してくれてた?」


「はい。男にはそうしてやれ、ってさっきの人が・・・・・・」


「えぇ・・・・・・」


 絶対、旅人さんだ。

 

「君、何歳?」


「十二です」


 十二の純真無垢な少女に、なんてことを教えているんだ、あの人は。

 いやらしいとか、そういう気が、この女の子からは全く見えない。


「?」


 女の子は、可愛らしく小首を傾げる。

 髪がふわっと揺れ、つぶらな瞳で見つめられた。

 その姿に、ドキッとしてしまった。


 いやいやいや、落ち着け、一旦落ち着こう。

 頭を思いっきり振って、雑念を払った。


「そういえば、ずいぶんしっかりとしているね。なんかこう、丁寧な感じ?みたいな、感じ・・・?」


 俺は何とか話題を変えようとした。

 自分の話の切り出し方の下手さに、心の中で泣いてしまいそうになった。


「お母さんから、礼儀正しい人でありなさいって、よく言われてるんです。礼儀が悪い人は、みんなに嫌われちゃうよって」


「そうなんだ。お母さん、良い人だね」


「はい!」


 女の子は、満面の笑みを見せた。

 その眩しい笑顔を見るのがなんだか恥ずかしくて、思わず目を逸らしてしまう。


「そ、それじゃ帰ろうか。お母さんも心配してるだろうし」


「はい」


 俺は洞穴の出口へと向かって、歩き始めようとする。


「あ、あの!」


 だが、女の子の声に引き止められた。


「どうしたの?」


「や、やっぱりまだちょっと怖いので、手を繋いでもらえませんか?」


「え、う、うん」


 そうして、俺たちは手を繋いで、洞穴の外へと歩き始めた。

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