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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第五章「少年と旅人」
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第四十九話「積み上げてきたもの」

 森の中を進んでいると、崖に直面し、そこに大きな穴が空いていた。

 おそらく、ここが犯人が居るという洞穴だろう。

 俺は、早速中に入ることにした。


 中はひどくジメジメしていて、足場もグチャグチャとしていて、歩きづらい。

 そこを歩くだけで、体力的にも精神的にも摩耗してしまう。

 物語とかで見る悪党も、よくこういう気分が悪くなるような場所を好むが、そういう性なのだろうか。

 雰囲気が出るといえば、確かに出るんだけども。


 歩くたびにピチャピチャと音がする。

 ここ数日は雨は降っていないが、ところどころに水溜りはできていたようだ。

 隠れて行動するつもりはないけれど、かと言って、自分の居場所が丸裸になっているのは、それはそれで嫌だ。

 でも、仕方がない、逆に堂々として、敵に侮られないようにしよう。


 洞穴を進んでいくと、ところどころに松明に火が灯されていた。

 本格的にここを使用しているようだ。

 火が灯されているということは、今まさに、奥で犯人が待ち構えているのだろう。


 気を引き締めないと。

 俺は一度深呼吸をして、その先へと進んだ。


 突き当たりらしきところまで行くと、一人の男と、縄で縛られている女の子が居た。

 男はこちらに背を向けていて、椅子に座っていて、その向こう側に女の子が正座で地面に座らされていた。


 茶髪で身体がゴツい男は、ナイフを持ってニヤニヤと女の子の方を見つめていた。

 金髪の女の子は、腕を後ろに、全身を縛られていて、全く身動きが取れない状態だった。

 口も封じられていて、声も上げられない。


「ああ、早く金来ないかなぁ。にっひっひっ・・・・・・」


「んん〜!んん〜〜〜!」


 男はナイフをクルクルと回した後、女の子へとナイフを突き立てた。


「んんっ!」


 女の子は恐怖のあまり、目を閉じてしまった。

 その目の端からは涙が流れていて、気が気でないだろう。


 どう近づくのが良いだろう・・・・・・。

 男は油断しているとは思うが、助ける対象からは目を離していないので、女の子だけを救うのは難しいだろう。

 やはり、後ろから不意打ちを仕掛けるのが一番だろうか。


 俺は右手にナイフを構えた。

 もう片方の手は、身代金代わりの袋で塞がれているが、襲う瞬間に袋を捨て、両手で押さえ込めれば問題ないだろう。


 覚悟を決め、じわりじわりと男に近づいていくことにした。

 思わず、歯を強く噛み締めてしまう。

 気づかれないように、こっそりと。


 男は、まるでこちらに気づく様子はない。

 女の子も目を閉じていて、俺には気づいていない。

 逆に好都合で、なおさら俺に気づく要素が無くなる。


 あともう十五歩程で、飛びかかれる範囲だ。

 ギリギリまで気を抜いちゃいけない。

 確実なタイミングまで、一切の油断は禁物。


 十四、十三、十二。


 慎重に、慎重に。

 まだ相手に気づかれていない。

 不意打ちを決めて、一気に終わらせる。


 十一、十、九、八。


 後少し、後少しだ・・・・・・。

 緊張で汗をかいてしまっている。

 でも気にしてはいられない。

 音を立てずに、静かに、気配を消して、近づく。

 そのことに神経の全てを集中させて。


 七、六、五。


 後五歩。

 五歩進んだら、行く。

 必ず決める。


 四・・・、三・・・、ぴちゃん。


 全身に汗がぶわっと吹き出した。

 洞穴の入り口近くでも、水溜りはできていた。

 最奥のここに、水溜りができていないわけがない。


 残り三歩のところで、俺は水溜りを踏んでしまった。

 男ばかり注視していて、足元には一切の気を払っていなかったのだ。


「誰か居るな?!」


 男はナイフをしっかりと握りしめ、振り返ろうとする。


「くそったれ!」


 俺はやけになって、袋を投げ捨て、右手のナイフを男の左腕へ目掛ける。


「おおっと!」


 男は左手の甲を使って、俺の右手の内側を外へと弾く。

 俺のナイフは的外れの方へと進み、空振ったせいで姿勢は前のめりに崩れ、倒れそうになる。


「おらよっ!」


「ガハッ!」


 男はその隙に、ガラ空きの俺の腹に思いっきり膝蹴りを決めた。

 一瞬、息が止まった。

 

 さらに、膝蹴りで怯んでいたところに、顔面に思いっきり拳で殴られる。

 俺は一メートルほど吹っ飛び、地面に倒れこんだ。


「い、痛い・・・・・・」


 俺は既にもうボロボロだった。

 鼻から何かが垂れている感覚がある。

 おそらく鼻血だろう。

 歯も・・・欠けちゃってるかもな・・・・・・。


 それでも、男の追撃は止まる様子を見せない。


「いきなり不意打ちしようだなんて。そんな卑怯者には死んでもらうしかねぇよな?」


 男は小さな火球を作り、俺へと飛ばしてきた。


「ぐあっ、あつ、熱い・・・痛いぃ・・・っ!」


 火球をもろに受け、立ち上がるのも苦しい。

 火が服で燃え広がるのは、咄嗟に闇で飲み込んで消すことはできたが、受けたダメージが減るわけではない。


 そして、ようやく、もう遅すぎるが、今になって気づいた。

 咄嗟に始まった戦闘で、俺は闇属性を一切活用していないことを。

 

 闇を使えば、相手の目潰しをすることだってできたし、敵の攻撃のダメージを吸収することだってできた。

 魔族と戦うことばかり考えていたせいで、人族との戦いに、この闇属性の力を使うことが、頭から抜けていた。


 それに、持ってきた袋は何の役にも立たず、ただ邪魔なだけだった。

 相手は人ならば、騙すことが有効だと思って持ってきたのに。


 対魔族のためにと思って鍛えた闇属性と、人相手に通用すると思って用意した策。

 それら全てを何にも活かすことができず、中途半端な状態だった。


「何、やってんだ、俺・・・・・・」


 自分の情けなさに、思わず小さく呟きが漏れた。

 俺、ここで死ぬんだろうか。

 しょうもない終わり方だな・・・・・・。

 シックにもレイス先生にも旅人さんにも家族にも、もう会えないのかな・・・・・・。


「んん!んん〜〜〜!」


 もう諦めかけていた時、捕まっていた女の子が、必死に声を出そうとしていた。

 さっきまで怯えて目を閉じていたけど、今度は俺の方を見て、一心不乱に何かを伝えようとしている。


 彼女の目に流れていた涙は止まっていないが、表情から怯えた様子は感じられない。

 何を言っているかは分からないが、俺に必死に助けを求め、そして励ましているように感じる。


「うっ・・・くぅっ・・・・・・!」


 地面に片膝を立て、足や腕に力を入れて、なんとか立ち上がる。

 単純ではあるが、女の子に勇気づけられた。

 こんなところで死んでたまるものか。


 俺は人を守るために強くなりたいと思って、努力を重ねてきた。

 それは、魔族だけに限った話ではないんだ。


 目の前の女の子は、この人族の男に苦しめられている。

 相手が魔族だろうと人族だろうと関係ない、自分が努力したことは、相手が誰であれ、きっと活かすことができるんだ。


「まだ、まだ終わりじゃないぞ!」


 自分を奮い立たせるため、思いっきり大声を出した。


 この女の子は、必ず俺が、この子の居場所へと帰らせる。

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