第四十八話「一人で戦うということ」
情報を集め終えた俺は、早速出発することに決めた。
さすがに情報を集めたのに、無策で行くのは愚かだと思うので、一応の準備はしてきた。
自分なりに考えた作戦、単純で陳腐なものだけど、俺の頭ではこれで精一杯だ。
「それじゃ、行ってきます」
出発の前に、保護者の女性に声をかけた。
「よろしくお願いします」
女性は不安そうではあったが、もう震えてはいないし、涙目にもなっていない。
頼りにされているんだとしたら、頑張らないと。
少しだけ、俺は緊張していた。
身体がいつもよりかたく感じる。
大丈夫、きっと大丈夫。
それに、何としても救ってあげないと、何とか、どうやって、でも。
「よし、行くか・・・・・・」
「モンデ!」
「た、旅人さん?」
いざ出発しようと思った時、旅人さんに止められた。
その顔は、真剣そのものだった。
「一つだけ言っておくことがある」
「は、はい」
一体なんだろうか。
俺はちょっと身構えてしまった。
「無茶していいぞ」
「え?」
しかし、旅人さんはまた突拍子もないことを言い出し、面を食らった。
このパターンも何度目だろう。
「普通、無茶するなよって言って、送り出してくれるもんじゃないんですか?!」
「それぐらい頑張れってことだよ!」
旅人さんは満面の笑みで、親指を立てた。
「俺はもう行きますからね。頑張ります」
旅人さんに付き合うのはほどほどにして、俺はさっさと出ようとした。
「緊張、解けただろ?」
「あ・・・・・・」
気づけば、気が楽になっているのを感じる。
もしかして、俺が緊張してるのを分かって、それをほぐしてくれようとしたのだろうか?
「あ、ありがとうございます」
旅人さんは、満足そうな顔になっていた。
「はぁ・・・・・・、重たっ!」
俺は、小石の詰まった大きな袋を持って、洞窟へと行くために、森の中を進んでいた。
この袋の中身を、身代金と勘違いして、それによって生まれた隙を狙うという作戦を立てていた。
やはり、犯人の要求はお金だし、知性のない魔族と違って、目が眩まないわけがないと思った。
でも、さすがに中身はもっと考えるべきだった。
めちゃくちゃ重すぎる。
「俺は、アホ・・・・・・かっ!」
あまりの重さに耐えきれず、一度地面に置いた。
ドスンと大きな音が鳴る。
その音だけで、いかに重いかを察することができる程だ。
「はぁ、はぁ、アホだ。俺はアホだ・・・・・・」
これじゃ、辿り着いた頃には力尽きてしまっている。
仕方がないから、中身をちょっと減らすことにした。
袋の見た目はちょっと萎んで、しょぼくなってしまったが、口で何とか誤魔化すしかない。
中身は高価なものばかりだ、とか言っておこう。
荷物が軽くなって、少し歩くのが楽になった途端、急に寒気がした。
「・・・・・・」
ただの勘だが、突然嫌な予感がしてきた。
こんな時、シックだったら、周りを探知することができたのだろう。
勘違いであってほしいが、一応警戒しといて損はないだろう。
「?!」
突如、足元に衝撃が起きた。
衝撃が起きた地面には、小さな穴ができていて、そこからは焦げた匂いがする。
察するに、遠距離から何かが射出され、それが俺の足元目掛けて飛んできたのだろうか。
「・・・マジか」
俺は冷や汗をかいていた。
洞穴を拠点にしていると聞いたが、それまでに会敵することを考えていなかった。
普通に考えれば、おかしくはないはずだ。
どうしよう・・・・・・。
得意分野ではないが、俺もシックのように探知をしてみるべきか。
理論は分かってる、実践できるかどうかだけだ。
呼吸を整える。
繊細なことは苦手だ。
でも、必要ならば、やるしかないだろう。
今は俺一人なんだ。
全て、俺ができるかどうか次第だ。
あたりをふんわりと闇を漂わせる。
俺は闇を集中させることはできるが、こうやって薄く広くすることは苦手だ。
これはレイス先生には教えられていないことで、シックが独自に考えた使い方だった。
そういった、発想力の点では、俺はシックには勝てない。
何となく、後ろの方から、何かを感じる気がする・・・・・・。
俺はそっちの方向を見てみる。
すると、視線の先の茂みが、突然動き始めた。
俺は腰に隠したナイフを手にし、その茂みから目を離さないよう、しっかりと見続ける。
カサカサと動き続けている。
手汗でナイフが滑り落ちてしまいそうだ。
今までに無いほどの緊張感。
唾を飲み込む。
ゴクリと、音が耳に入る。
そして、茂みの奥から物影が現れた。
「・・・・・・!・・・え?」
中から出てきたのは、狐だった。
狐はタッタと走り、俺の横を通り抜けて、どこかへ行ってしまった。
まさか、そんなわけがないはずだ。
あの茂みにいるのが狐なら、俺の足元に当たった攻撃は何だったんだ?
俺の闇属性の練度では、これ以上気配を感じることはできない。
だが、警戒しているとはいえ、立ち尽くしている俺に対して、何の攻撃も続かない。
とりあえず、脅威は去ったということでいい、のだろうか・・・・・・?
「すぅー・・・ふぅー・・・・・・」
心を落ち着かせるために、今一度深呼吸をした。
情報を集めたと言っても、敵の目的と居場所を聞いただけ。
それ以外のことは何も知らないのだということを、改めて認識させられた。
不安な気持ちが少し湧いてきた。
でも、ここで逃げて、やっぱり無理でした、だなんて、あの女性に伝えられるわけがない。
手にしたナイフを片づけ、両手でバシンと頬を叩く。
「よし!」
無理やりだが、気合を入れ直した。
任せられてるんだ、やってやる。
それに、無茶していいって言われてるんだ。
止まるもんか。
俺は、犯人が居るという洞穴へと、再び歩き始めた。




