第四十六話「命、いただきます」
せっかく街に来たというのに、結局俺と旅人さんは、街の近くにある森へと入り、狩りをすることにした。
旅人さんは、街で弓を購入していて、それを俺に渡してきた。
弓は一つしかなく、旅人さんは、特に狩猟道具は持っていないように見える。
「あの、旅人さんは何を使って狩りするんですか?」
俺の質問を聞いて、旅人さんは一瞬不思議そうな顔で俺を見たが、すぐさま納得したような顔になった。
「ああ、いや俺はしないよ?狩りなんて飽きるほどやったし、わざわざやろうとは思わないな」
「ええ・・・・・・」
だったら、なんで狩りに誘ったんだと言いたくなったが、この人にいちいちツッコんでも、面倒だと気づいてきたから、口をつぐんだ。
代わりに、肩を露骨に落として、アピールする。
それを見て、旅人さんはニヤニヤとしていた。
「ところで、狩りはしたことあるか?」
旅人さんは、途端に話題を変えた。
「いや、したことないです。やろうと思ったことすらないですね。きっかけもなかったですし」
「じゃあ良いことだ。楽しもうじゃないか」
「はぁ」
何が良いことかは分からないが、せっかくの狩り初挑戦なので、頑張ろうとは思った。
「まあ初めてだから心配はないと思うが、必要以上に生き物を殺さないように。最低限にするんだ。今日はそうだな、昼飯分確保できたらいいな」
「分かりました」
あたりを軽く見回してみると、少し距離の離れた位置に、兎が一頭居た。
目ではっきりと確認できる距離で、向こうはまだこちらに気付いていない様子だ。
旅人さんは、腕を組んで、俺の方を見る。
弓の扱いに関しては、全く教えるつもりはないらしい。
一応、学校で自分に合う武器を探すため、弓に触れたことはあるので、使い方は分かる。
弓を構え、右手で矢を水平に引き、獲物へと狙いを定める。
しっかりと両目で対象を捉え、一呼吸を入れた後、右手を離した。
矢は間違いなく、兎へと向かってまっすぐ進んだ。
弓の扱いは慣れてはいないが、なかなか上手くいったのではないだろうか。
と思っていたが、すんでのところで兎が動き、矢は命中しなかった。
「え、難しい!」
「あっはっはっはっはっはっ!」
旅人さんは俺の後ろで大爆笑した。
「そんなに笑うならやってみてくださいよ!」
俺は、旅人さんへと弓を渡した。
旅人さんは、慣れた動きで、弓を構え、さっきの兎へと狙いを定める。
すぐさま矢は放たれ、俺よりも早くまっすぐと矢は進み、そして兎には命中しなかった。
兎は動いていないにも関わらず、単純にコントロールの問題で外れたのだ。
他人のことを馬鹿にしておきながら、この人は俺よりもダメだったのか。
俺はついジト目で、旅人さんを睨んでしまった。
「つまり、弓の扱いは難しい、ということだ、な!」
旅人さんの目は泳いでいて、しばらく俺とは目を合わさなかった。
結局、獲物一体を狩るのに、二時間ほどもかかってしまった。
本日の、少し遅めの昼飯は、この兎一頭だ。
旅人さんは薪を集め、そこに火属性の魔法で火をつけて、これで焼くことにした。
「そういえばなんですけど、魔法とか使えたんですね」
今まで、属性を何かに使っていることを見ていなかったので、魔法を使ってるのは珍しく感じた。
もっとも、無属性者の方が少ないので、使えないとは思っていなかったが。
「まあ俺は器用だし、結構努力したしな。火は得意じゃないけど、それでも人並みには使える」
旅人さんは、自慢するわけでもなく、淡々と話す。
火が得意じゃないなら、何が得意なんだろう?
「得意属性で、何か面白いことってできないですか?」
興味本位で聞いてみた。
すると、旅人さんはニヤりと笑みを浮かべる。
「面白いことならもうやってるんだよな。見とけよ・・・」
そう言って、旅人さんは自分の左腕を指差す。
俺はそれに注目した。
「はい!」
旅人さんの合図で、義手の左腕はパラパラと崩れ落ちた。
そこにあった腕は無くなっている。
義手は砂になって消えていったのだ。
「え、え?どういうことですか?」
見たこともない現象に、脳が追いつかなかった。
腕があった場所と、崩れ落ちた砂を、思わず何度も見返してしまう。
その様子を、愉快そうに旅人さんは見ていた。
「面白いだろ、まあ俺はこんなこともできるんだよ」
そう言って、周囲の砂は、左腕のあった場所へと集まり、また義手となった。
今まで見ていた義手は、砂の塊だったのか?
それに、今まで接していて、違和感を感じないレベルで、それを動かしていた。
もしかして、かなり器用な人なのだろうか?
俺が呆然としているのを見て、旅人さんは満足そうだった。
「俺のこと、尊敬できるだろ?」
「うーん・・・・・・」
とは言っても、他がアレなので、その言葉には素直に賛同はできなかった。
昼飯も終え、狩りもこれ以上はするつもりは無く、街へと帰ることにした。
街へ帰ると、何やら騒々しかった。
今日の朝、軽く街を回った時は、呆れるほどに平和そうだったのに、街の人は不安そうにしている。
「どうかしたんですか?」
すぐ近くにいた青年に、旅人さんは声をかけた。
その青年はすごく不安そうな顔をしていた。
「人攫いが出たんだよ。街に悪党が来てさ、子供が誘拐されてしまったんだ」
「誘拐・・・ですか・・・・・・」
街が騒がしい理由は、悪党による子供の誘拐が原因だった。
「攫われた子供の保護者が誰か知りませんか?」
「それなら、今警察署に居ると思うよ。この先真っ直ぐ進めば見つかるよ」
「ありがとうございます」
旅人さんは青年に一礼し、俺もそれに従って頭を下げる。
旅人さんは警察署へと向かって歩き出し、俺もそれに付いていった。
その足は、すこし早足だった。
「モンデ、やってもらいたいことがある」
旅人さんは、後ろについてくる俺を振り向かず、前を向きながら、俺に話しかけてきた。
「やってもらいたいことですか?」
一体なんだろう。
大体予測はつくが、やはり事件解決の手伝いだろうか。
「今回の事件、モンデが主体となって解決してみろ」
「お、俺が主体になって、ですか?!」
しかし、どうやら頼み事とは、事件のことではあるが、俺がメインで解決しろとのことだった。




