第四十四話「旅の始まり」
「ぜぇ・・・はぁ・・・ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「なんだ、もう疲れたのか?」
「お、大人と、子供の体力差、考えたことないんですか・・・・・・?」
旅に出始めたのは、旅人さんと約束をした翌日の朝からだった。
約束をした日は、俺の意思は関係なしに当たり前のように、シックと休憩場所の小屋で一夜を過ごした。
そして、朝になるとすぐに、旅人さんが部屋に来て、シックに一通の手紙を託し、俺はいきなり連れ出された。
それから、移動を続けて、もう8時間以上経っている。
水分補給と軽食以外の休みも無しに、この長時間動かされるのはキツすぎる。
というか、大人だとしても、さすがに体力がありすぎるのでは?
「もうちょっとで街に着くから、それまで辛抱しろ」
「は、はーい・・・・・・」
俺と旅人さんは平原のど真ん中を歩いていた。
確かに、遥か遠くに街らしきものは見える。
目的地が見えるとはいえ、その距離は決して短くない。
でも、あまり弱音ばかり吐いても仕方がない。
俺は無理やり身体を動かして、何とか旅人さんに着いていった。
それから一時間弱ほど経って、ようやく街へとたどり着いた。
朝に出かけたというのに、もう時間は夕暮れになっていた。
「つ、着いた・・・・・・」
俺はもう汗だくになっていた。
一刻も早く休みたい。
「ははは、お疲れ。今日はもう宿取って、飯でも食って休もう。明日から何かするぞ」
旅人さんは、完全に疲弊しきった俺を見て、軽く笑みを浮かべていた。
旅人さんはずいぶん余裕そうだ。
「何かって、何をするんですか?」
わざわざ、こんな遠い場所まで来たのだから、何か理由があるのだろう。
そう思って、俺は旅人さんに質問をした。
「いや、何をしようか。分からない。まあ街の中でも見て、面白そうなのがあると良いな」
「ええ?」
旅人さんは本当に何も考えていなさそうな顔で言ってきた。
思わず、俺は呆気に取られてしまった。
唖然としている俺を見て、旅人さんはとぼけた表情になっていた。
「いや、旅なんてそんなもんだろ。知らないものを知るために、各地を回るんだ」
「そうなんですけど、俺を変えてくれるって、何かあてでもあるのかと思ったんですけど・・・・・・」
「まあまあ、とりあえず宿に行こうぜ」
俺の質問ははぐらかされて、旅人さんは宿を探すため、歩き出した。
今後もどんどん振り回されてばっかりになるのだろうか。
「あー疲れた!」
宿では、二部屋取ることができ、俺は自分の部屋のベッドへと飛び込んだ。
本当に今日は疲れた。
「大丈夫なのかな、俺」
勢いで旅に着いてきてしまったが、これで良かったのだろうかと、思ってしまった。
旅の間は、学校で授業を受けることもできない。
切磋琢磨の関係であるシックとも離れ離れになったし、もしレイス先生が戻ってきても、俺は会うことができない。
この旅が、もし成功に終わらなかったら・・・。
「だめだだめだ!まだ一日目!」
俺は頭を思いっきり振って、悪い考えを飛ばした。
やっぱり、自分にはネガティブなところがある。
それを改善するために、旅に出ているんだ。
旅をすることを疑っては、元も子もない。
それから少しの間、ベッドの上でぼーっとしてると、部屋のドアからノックが聞こえてきた。
「おーい、入っていいか?」
旅人さんの声だった。
「どうぞー」
返事をすると、ガチャりとドアが開く音がして、旅人さんが入ってきた。
「飯でも食いに行こうぜ」
旅人さんは、自分の右の親指を、彼の後ろの方へと指す。
「分かりました・・・あれ?」
ベッドから立ち上がり、部屋を出ようとしたが、ふと違和感を感じた。
さっきまであった、旅人さんの左腕が無くなっている。
「ああ、これか?俺、普段は義手使ってるんだ。今は休みの時間だし、必要無いしな」
そう言いながら、旅人さんは、自分の左肩を撫でた。
どうして左腕が無くなったのだろうか。
気になるのは気になるが、野暮な話だろうか。
そう思って、俺は何も聞かないことにした。
もっと仲良くなったら、教えてくれるだろうか、聞きやすくなるだろうか。
食事は、宿のすぐ近くの酒場で済ませた。
俺はお酒なんか飲めないし、旅人さんも普段はお酒を飲まないらしい。
酒場に来た理由は、ただ宿から近かったという理由だけだ。
俺も旅人さんも、牛のステーキを頼んだ。
「いやぁ、やっぱ肉料理だよな!飯食ってるって気持ちになる」
「分かります!いやぁ、これ美味しいなぁ!」
酒場で出てきたステーキは非常に美味しく、思わず興奮してしまった。
「普段もこういうの頼むのか?」
旅人さんは肉を頬張りながら、話しかけてきた。
俺は口の中の肉を、一度飲み込んでから、話すことにした。
「そうですね。食堂とか行く時は、毎度肉料理を頼みますし」
「だよな。やっぱ全身に力がみなぎる感じがするよなぁ!」
お酒を飲んでいるわけでもないのに、旅人さんはやけにテンションが高かった。
これは酔っ払ったら、とんでもないことになりそうだ。
普段お酒を飲まない人で良かった。
それとも、自重しているのだろうか?
それから、俺は旅人さんが、肉はうまい肉はうまいと何度も言ってくるのを聞きながら、食事を終えた。
旅人さんも食事を終え、酒場を出ると、空はすっかり暗くなっていた。
空を眺めていると、漆黒の空に、星が光輝いていた。
その綺麗な景色に、俺は目を奪われてしまった。
「いつも空を見るのか?」
旅人さんも、俺の隣に並んで、同じ空を見上げた。
「普段は見ません。ただ、何となく空を見たくなって。そしたら、綺麗な星空だなぁって見惚れちゃって・・・・・・」
「そうかそうか。それじゃ、良いものが見れたな。夜空が綺麗って、知れて良かったな」
そう語る旅人さんの顔は、暗くてよく分からなかったが、きっとうれしそうに笑っていたと思う。
そして、俺も何だかうれしい気持ちになれた。




