第四十三話「心の余裕」
依頼達成の報告を終わらせた後、俺とシックは休憩場所の小屋へと戻っていた。
しかし、そこには一人、居ておかしい人が居た。
旅人さんだ。
「君は、シックっていうんだな。よろしく。俺のことは旅人さんとでも呼んでくれ」
「よろしくお願いします」
旅人さんとシックは、ごく自然に握手を交わした。
どうしてシックはここまで知らない人に、無神経に絡むことができるんだろうか。
シックとは、それなりの長さの付き合いではあると思うが、この場ではすごく居づらかった。
「どうしたんだ、モンデ。そんな部屋の隅に居て」
「いえ・・・・・・」
二人から少し離れて、部屋の隅に座っている俺に、旅人さんが話しかけてくる。
何の用があって、この部屋まで入ってきたんだろう。
俺からの用事はもちろん無いので、どうしたものか。
旅人さんからの視線が痛い。
全く目を離してくれる気配もなかったので、何か話題を出すことにした。
「旅人さんはどうしてここに居るんですか。前会ったところとは、距離がかなりありますけど」
「ああ、俺この村には世話になっててさ。この村が救援を必要としてたから、ついでにしたいこともできそうだったから、王国の中心の方まで行ってたんだ。で、用事終わったからここに戻ったってわけ」
「ついでにしたいこと?」
「モンデとシック、二人に会いたかったんだ」
「お、俺たちにですか?」
「ああ」
旅人さんは真っ直ぐな目で、俺の方を見つめる。
そうは言っても、こっちには身に覚えのない話だ。
「俺は、闇属性を使える学生に会いたかったんだよ。だから、実践演習としてなら、この村にわざわざ来てもらえるかなと思ったんだ。確実だろ?」
「闇属性・・・・・・」
闇属性に興味がある人族に、良い印象はほとんど無い。
この世界では、闇属性は人族に忌み嫌われているし、この旅人さんも何か裏があるのだろうか。
そもそも、何故簡単な救援依頼は、学生たちにあてられることを知っているのだろう。
「ああ、悪い!そんな警戒しないでくれ。俺は君たちの敵じゃない。詳しいことは言えないが・・・、まあ志は近いと思ってくれて構わない」
俺が警戒している目線を送っているのを察したのか、旅人さんは必死になった。
口ではそう言いつつも、この人から窺えることは、あまり無い。
距離の詰め方はとんでも無いが、だからこそ安易に信用しすぎてはならない。
「そうなんだ。じゃあ、一緒に頑張ろう」
「おお、シックは物分かりが良いな」
「ちょっ!」
しかし、そんな俺の気持ちなどお構いなしに、シックと旅人さんはどんどん意気投合していく。
頭が痛くなってきた。
一旦ここから離れよう。
「どこに行くんだ、モンデ?」
小屋を出ようとする俺に、旅人さんが声をかけてくる。
「外の空気でも吸ってきます」
俺は振り返りもせずに、そのまま小屋から出た。
「はぁー・・・・・・」
思わず、大きなため息が出た。
小屋の中での自分の態度を思い返してみると、気を張りすぎているかもしれないと思った。
悪魔に出会って、心を折られ、そしてレイス先生に励まされた。
それからの俺は、とにかく強くならなければならないという気持ちが、より一層高まっていたのかもしれない。
一概に悪いとは言えないと思うが、この調子なら、良いとも言えない。
対して、シックは俺とは正反対だった。
あの日以来、彼女はすごく生き生きとしていて、心に余裕があるように感じられる。
もちろん、シックが努力していることは知っているし、手を抜いているだなんて、これっぽっちも思っていない。
俺と同じく、強くなりたいという気持ちは変わってないはずだ。
ただ、俺とは違って、すごく落ち着いたように見える。
俺には無い余裕だ。
・・・羨ましい。
俺はどうしてこんなに焦っているんだろう。
「んああああ!」
どんどんネガティブな方へと考えてしまいそうだったので、頭を思いっきりかいて、無理やり考えていたことを飛ばした。
「どうした?」
突然、小屋の方から声がしてきた。
そっちの方を振り返ると、旅人さんがいつの間にか小屋から出てきていた。
「あ、あ・・・・・・」
顔が熱くなってきた。
一人で叫んで、頭かきむしって、そんなところを見られて恥ずかしくないわけがない。
「まあ、若い時なら、そういうこともあるよねぇ」
「う、うるさーーーい!!!!!」
ニヤニヤとこっちを笑いながら見る旅人さんに、思わず怒鳴り声をあげてしまった。
でも、ちょっとだけ気が楽になったかもしれない。
「まあ、そんなことよりもさ、提案があるんだ。俺と一緒に旅に出ないか?」
「え?」
旅人さんは、唐突に、それもさらっと言い出した。
あまりに突飛な提案で、一瞬理解できなかった。
「いや、でも俺学生ですし、というか俺だけ?シックは?」
思わず、俺はおどおどとした話し方になってしまっていた。
「俺、結構そういうの融通効かせられるからさ、心配しなくていいよ。あ、旅に出るのはモンデだけだ」
もう彼の頭の中には、俺が旅に出るのは確定しているかのように、淡々と話す。
正直もう無茶苦茶だ。
「融通が効くってどういう・・・。それに、俺、強くなりたいし、あまり他のことには興味が・・・」
「分かってる」
突然、旅人さんは真剣な表情へと変わった。
その気迫に、思わず息を呑んでしまう。
「君が強くなりたいことは分かってる。でも、俺から見ると、君はどうも苦しそうにしているように見える。変わるなら早いほうがいい、そして、俺は君を変えることができる。だから、俺についてきて欲しい」
そう言って、旅人さんは、右手を俺に出してきた。
まだ、2回しか会っていないし、素性も分からないし、信用なんて全くできない男だ。
でも、不思議と言葉に重みを感じる。
それに、なんだかレイス先生に励まされた時のことと、何故か重なって見えた。
「・・・分かりました」
俺は旅人さんの右手を取った。
事実、俺には変わる必要が無いとは言い切れないと思っている。
それに、こんなに自信満々に言ってくるんだったら、是非俺を成長させてみろと、生意気にも思ってしまっちゃう。
こうして、俺と旅人さんの旅は始まった。




