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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第五章「少年と旅人」
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第四十三話「心の余裕」

 依頼達成の報告を終わらせた後、俺とシックは休憩場所の小屋へと戻っていた。

 しかし、そこには一人、居ておかしい人が居た。

 旅人さんだ。


「君は、シックっていうんだな。よろしく。俺のことは旅人さんとでも呼んでくれ」


「よろしくお願いします」


 旅人さんとシックは、ごく自然に握手を交わした。

 どうしてシックはここまで知らない人に、無神経に絡むことができるんだろうか。

 シックとは、それなりの長さの付き合いではあると思うが、この場ではすごく居づらかった。


「どうしたんだ、モンデ。そんな部屋の隅に居て」


「いえ・・・・・・」


 二人から少し離れて、部屋の隅に座っている俺に、旅人さんが話しかけてくる。

 何の用があって、この部屋まで入ってきたんだろう。

 俺からの用事はもちろん無いので、どうしたものか。


 旅人さんからの視線が痛い。

 全く目を離してくれる気配もなかったので、何か話題を出すことにした。


「旅人さんはどうしてここに居るんですか。前会ったところとは、距離がかなりありますけど」


「ああ、俺この村には世話になっててさ。この村が救援を必要としてたから、ついでにしたいこともできそうだったから、王国の中心の方まで行ってたんだ。で、用事終わったからここに戻ったってわけ」


「ついでにしたいこと?」


「モンデとシック、二人に会いたかったんだ」


「お、俺たちにですか?」


「ああ」


 旅人さんは真っ直ぐな目で、俺の方を見つめる。

 そうは言っても、こっちには身に覚えのない話だ。


「俺は、闇属性を使える学生に会いたかったんだよ。だから、実践演習としてなら、この村にわざわざ来てもらえるかなと思ったんだ。確実だろ?」


「闇属性・・・・・・」


 闇属性に興味がある人族に、良い印象はほとんど無い。

 この世界では、闇属性は人族に忌み嫌われているし、この旅人さんも何か裏があるのだろうか。

 そもそも、何故簡単な救援依頼は、学生たちにあてられることを知っているのだろう。


「ああ、悪い!そんな警戒しないでくれ。俺は君たちの敵じゃない。詳しいことは言えないが・・・、まあ志は近いと思ってくれて構わない」


 俺が警戒している目線を送っているのを察したのか、旅人さんは必死になった。

 口ではそう言いつつも、この人から窺えることは、あまり無い。

 距離の詰め方はとんでも無いが、だからこそ安易に信用しすぎてはならない。


「そうなんだ。じゃあ、一緒に頑張ろう」


「おお、シックは物分かりが良いな」


「ちょっ!」


 しかし、そんな俺の気持ちなどお構いなしに、シックと旅人さんはどんどん意気投合していく。

 頭が痛くなってきた。

 一旦ここから離れよう。


「どこに行くんだ、モンデ?」


 小屋を出ようとする俺に、旅人さんが声をかけてくる。


「外の空気でも吸ってきます」


 俺は振り返りもせずに、そのまま小屋から出た。


「はぁー・・・・・・」


 思わず、大きなため息が出た。

 小屋の中での自分の態度を思い返してみると、気を張りすぎているかもしれないと思った。


 悪魔に出会って、心を折られ、そしてレイス先生に励まされた。

 それからの俺は、とにかく強くならなければならないという気持ちが、より一層高まっていたのかもしれない。

 一概に悪いとは言えないと思うが、この調子なら、良いとも言えない。


 対して、シックは俺とは正反対だった。

 あの日以来、彼女はすごく生き生きとしていて、心に余裕があるように感じられる。

 もちろん、シックが努力していることは知っているし、手を抜いているだなんて、これっぽっちも思っていない。

 俺と同じく、強くなりたいという気持ちは変わってないはずだ。


 ただ、俺とは違って、すごく落ち着いたように見える。

 俺には無い余裕だ。

 ・・・羨ましい。

 俺はどうしてこんなに焦っているんだろう。

 

「んああああ!」


 どんどんネガティブな方へと考えてしまいそうだったので、頭を思いっきりかいて、無理やり考えていたことを飛ばした。


「どうした?」


 突然、小屋の方から声がしてきた。

 そっちの方を振り返ると、旅人さんがいつの間にか小屋から出てきていた。


「あ、あ・・・・・・」


 顔が熱くなってきた。

 一人で叫んで、頭かきむしって、そんなところを見られて恥ずかしくないわけがない。


「まあ、若い時なら、そういうこともあるよねぇ」


「う、うるさーーーい!!!!!」


 ニヤニヤとこっちを笑いながら見る旅人さんに、思わず怒鳴り声をあげてしまった。

 でも、ちょっとだけ気が楽になったかもしれない。


「まあ、そんなことよりもさ、提案があるんだ。俺と一緒に旅に出ないか?」


「え?」


 旅人さんは、唐突に、それもさらっと言い出した。

 あまりに突飛な提案で、一瞬理解できなかった。


「いや、でも俺学生ですし、というか俺だけ?シックは?」


 思わず、俺はおどおどとした話し方になってしまっていた。


「俺、結構そういうの融通効かせられるからさ、心配しなくていいよ。あ、旅に出るのはモンデだけだ」


 もう彼の頭の中には、俺が旅に出るのは確定しているかのように、淡々と話す。

 正直もう無茶苦茶だ。


「融通が効くってどういう・・・。それに、俺、強くなりたいし、あまり他のことには興味が・・・」


「分かってる」


 突然、旅人さんは真剣な表情へと変わった。

 その気迫に、思わず息を呑んでしまう。


「君が強くなりたいことは分かってる。でも、俺から見ると、君はどうも苦しそうにしているように見える。変わるなら早いほうがいい、そして、俺は君を変えることができる。だから、俺についてきて欲しい」


 そう言って、旅人さんは、右手を俺に出してきた。

 

 まだ、2回しか会っていないし、素性も分からないし、信用なんて全くできない男だ。

 でも、不思議と言葉に重みを感じる。

 それに、なんだかレイス先生に励まされた時のことと、何故か重なって見えた。


「・・・分かりました」


 俺は旅人さんの右手を取った。

 

 事実、俺には変わる必要が無いとは言い切れないと思っている。

 それに、こんなに自信満々に言ってくるんだったら、是非俺を成長させてみろと、生意気にも思ってしまっちゃう。


 こうして、俺と旅人さんの旅は始まった。

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