第四十一話「モンデのいつもじゃない一日」
俺、モンデは街へと出かけていた。
学校ではいつもシックと居るが、休日に一緒に居ることはほとんど無い。
彼女が何をしているかも知らないし、知ろうともしない。
別に彼女も隠しているわけではないと思うが、わざわざ休みの時に何してるか聞くのは、相手は女の子だし、俺にとっては、やっぱりちょっと恥ずかしい。
そういうわけで、俺はいつものように一人で外出することにした。
「何しようかな・・・・・・」
いつも街に出ることはないから、たまには出てみようと来ただけなので、特別予定は決めていなかった。
とりあえず、街中を歩くとした。
すぐ目についたのは、武具店だった。
学校では支給された物を使っていたので、自分で武器を買ったことはなかった。
金持ちの生徒が、自分で色々揃えたりしているのを、見たことがあるが、俺には無理な話だ。
「いらっしゃい」
無愛想な中年男性が、カウンターで膝をついて座っていた。
客が来たにもかかわらず、歓迎する気は全く無さそうに見える。
お客様は神様だ、とまでは言いたいわけではないが、ちょっと気分が悪い。
とにかく、そんな店員のことは無視して、商品を見ることにしよう。
接客態度がどうであれ、商品が良ければとりあえず良し、だ。
「うわぁ・・・・・・」
銀色に煌めくロングソードや、まるで鏡のように透き通った鎧。
今まで自分が使ってきたものに比べて、見た目の綺麗さはまるで違っていた。
性能は使ってみないと分からないが、きっと素晴らしいものなんだろう。
「うっ・・・・・・」
値段を見てみると、信じられないぐらい高かった。
おそらく、この店の目玉商品みたいなものなのだろう。
自分がもし大人になったとしても、こんなに高い買い物をする勇気が出るか分からないぐらい、高価だった。
誰もが躊躇してしまうだろう。
レイス先生は、これぐらい優れた装備をしているのだろうかか。
でも、あの人なら、一番大事なのは自分の力だと考えていそうだけども。
とにかく、高い装備は俺の手が届くような代物じゃない。
雑多に、大量の剣が入ってる樽が、店内にはあった。
俺はその樽の剣を一本一本取り出して見る。
「うーん・・・・・・」
これはこれで、学校で支給されているものよりも質が落ちる。
しかも、決して安い値段ではないのだ。
このレベルのものなら、わざわざ買う必要などない。
そう思うと、学校から支給されたものは、結構良いものだったのかも。
学校のものより質が良い物でなくても、少し値段が張ってしまうものだったので、俺が買いたいと思えるような物は、ここには無いかもしれない。
もう用がなくなったので、店を出ることにした。
「チッ」
はっきりと聞こえるほどに、大きな音で店主が舌打ちをした。
完全に冷やかしに思われてしまったのだろう。
それとも、子供が来る場所じゃないと言いたかったのだろうか。
でも、俺も見るだけ見て、何も買わずに帰ろうとしてるし、何となく申し訳なさがある。
俺はそそくさと店を出て行った。
「ふぅー・・・・・・」
怖かった。
大人になって、お金いっぱい手に入るまでは、あの店にはもう行かないようにしよう。
またしても、次に行く場所を決めていないので、ぶらぶらとそこら辺を歩くことにした。
街はすごく栄えていた。
モンデ自身、ヒューゼ王国の出身で、それもあまり田舎の方ではないとこで育ったが、今モンデが居る場所は、国内でもかなりの繁華街。
その人の量には、圧倒されてしまう。
突然、自分の腹の音が鳴った。
気づいたら、ただ歩いているだけで相当時間が経っていた。
あまり街に出ないだけあって、街並みや人混みを見ているだけで、時間が経つのを忘れてしまうぐらいには、面白かった。
お腹が空いてきたので、食事をすることにした。
やっぱり、ここに来たのなら、食事をするならマナさんの食堂だ。
というか、行き慣れた場所が、レイス先生に紹介された、ここしか無い。
色んな場所に挑戦してもいいけど、マナさんの食堂の料理は美味しいから問題ない。
それに、他に客が居ないから、落ち着いて食事ができるしね。
「いらっしゃいませー!あ、モンデ君!」
店に入ると、いつもと同じように、マナさんが笑顔で接客をしてくれた。
さっきの武具店に比べて、マナさんの笑顔は気分が良くなる。
「今日は一人です」
俺は右の人差し指を立てた。
レイス先生が居ない時は、シックとここに来ることもないし、正確には、今日も一人、だが。
でも何となく、今日は一人、って言いたい。
「了解!好きな席にどうぞー!」
マナさんに言われるがままに、食堂の入り口から遠く離れた、奥の方の席に座った。
相変わらず、この食堂は客が全く居なくて、どこでも自由に座ることができる。
「ローストチキンでお願いします」
「了解!」
俺はいつも頼んでいる、ローストチキンを注文した。
ここで頼む料理も、いつも別のものに挑戦したりせず、いつも同じ物を頼んでしまう。
ちなみに、シックは俺と逆で、いつも違う物を注文している。
マナさん曰く、二人のイメージと真逆、とのことらしい。
注文を終え、ふと店内を見渡してみたら、ここだからこそ、見慣れないものが目に入った。
俺以外に客が居る。
普通なら別におかしなことではないが、珍しいことなので、つい気になってしまった。
その男は、赤い髪色をしていて、全身ローブ姿なので分かりづらいが、身長は高そうだった。
「?」
「あ、すみません・・・・・・」
視線を送っているのがバレて、目が合ってしまった。
急いで目を逸らし、特に意味もなく、他の場所を見る。
しかし、今度は向こうから視線が送られているのを、すごく感じる。
気になるのは気になるが、また目が合うのも恥ずかしいので、とにかく無視することにした。
「おまたせ!ローストチキンだよ」
「ありがとうございます」
しばらく視線から耐えていると、料理が運ばれてきた。
これで食事に集中できるので、ちょうど良い。
俺は、周りのことは忘れて、目の前の肉に集中することにした。
「もう、あまり他のお客さんに迷惑かけないでくださいね?」
食べることに夢中になろうと思っていたけど、マナさんが、さっきの客に話しかけているのが、耳に入ってしまった。
「悪い、この店に客が居るなんて珍しくてな」
「ひどい、そんなこと言わなくてもいいじゃないですか」
「ごめんごめん。でも咄嗟に別の言い方、思いつかなかったんだよ」
その男の人とマナさんは、仲が良さそうだった。
この店にいつも人が居ないことを知っているあたり、常連の人っぽい。
「少年!名前なんて言うんだ?」
「?!むぐっ!」
突然話しかけられて、思わずむせてしまった。
見てみたら、マナさんはもう厨房に行ってて、この場には俺と赤髪の男の人しか居なかった。
「ははは、すまない。落ち着いてからでいいぞ」
なんだか、主導権を握られている気分だった。
いや、実際そうか。
まあ、マナさんと仲が良い人っぽいし、悪い人ではない気がするので、素直に名乗ることにした。
「モンデと言います。育成学校の生徒です」
「ふぅん」
男は、顎に手を当て、俺をジロジロ見る。
早く解放されたい。
「今日は迷惑かけちゃったな。代金は俺が払っておくよ」
「いえ、元は俺があなたを見ちゃってたから・・・・・・」
「気持ちは分かる。この店、全く客居ないもんな」
男は、明るい顔で話していた。
まるで世の中に辛いことなどこれっぽいもないと言わんばかりだ。
「それじゃ、俺はもう行くよ。金はここに出しとく。ローストチキン一人前だよな?」
そう言って男は、ローストチキン一人前の代金を、俺が座ったら先のテーブルに置き、食堂から出ようとした。
「あ、ちょっと、待ってください!あなたの名前も教えてください!」
まだ俺は彼の名前を聞けていない。
自分だけ名前を教えて、相手の名前を教えてもらえないなんて不公平だ。
俺の声を聞いて、その男は立ち止まり、振り返った。
「俺の名前?旅人さんとかでいいよ。じゃあな!」
結局、名前を聞くこともできず、旅人さんとやらは、食堂から出て行った。




