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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第四章「自分の仲間」
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第三十九話「それぞれの道」

「魔王城に、か?」


「はい。ウェルフの戦闘力は随一です。来るべき敵に備えて、魔王城の戦力を増強することは、悪いことではないはずです」


 そう言うマモンの言葉は、いつもより少し軽く感じた。

 もちろん、嘘はついていないのだろうが、本来の目的では無いのだろうと、察することができる。


「それが一番の理由なのか?」


 マモンは、不敵に笑った。

 

「やっぱり、隠し事は良くないですよね。少し、恥ずかしくなってしまいましたよ。自分の気持ちを見られることを」


 そうは言いつつも、マモンからは嫌な気持ちは一切感じられず、むしろ今までの固かったマモンに比べると、くだけたような話し方だった。

 


「おっしゃる通り、ただウェルフから居場所を奪った贖罪にでもなるかと思い、ウェルフにも新しく平穏に過ごせるような場所が必要だと思ったのが、主な理由です。もちろん、戦力増強が理由なのは嘘ではないですけどね」


 マモンは穏やかな目をしていた。

 過去のしがらみなど、すべて解決したような、清々しい顔をしている。

 仲違いしていた二人は、これからはまた昔みたいに仲良くやっていけるだろう。


「マモンはこう言ってるが、どうだ?ウェルフ。俺は一向に構わないが」


 俺は、ウェルフに右手を差し出した。

 俺としても、これほど強い仲間が増えることは、非常に心強い。


「マモン、頭おかしくなったんじゃねぇか?」


「何?」


 しかし、ウェルフは哀れな目でマモンの方を見た。

 マモンもそれに呆気を取られたのか、ぽかんとした顔になっていた。


「なんでオレ様が魔王城に居なきゃならねぇんだよ。お前の居場所なんだろ?オレ様まで巻き込むなよ」


「な、せっかくの厚意を!あんなに寂しいだのなんだの言っていたくせに!」


「その態度が気に入らねぇんだよ!お前はオレ様の保護者か?!違うだろ!相棒、あくまで対等な立場のはずじゃねぇか!」


「対等なら尚更だ!俺がお前に迷惑をかけたんだから、その分を返さないと、対等とは言えないだろう!」


 しばらくの間、二人の言い争いは続いた。

 だかそれは、お互い相手を貶し合っているような言い争うではなく、仲が良いからこそ、好き勝手言えるような、そんな言い争いだった。


「はぁ、はぁ・・・・・・。分かった、俺が折れよう。もう勝手にしろ。どうしようと俺は知らん」


「最初から受け入れとけよ」


「くっ、そのセリフは俺が言いたかった・・・・・・」


 言い争いは、マモンが譲ることで終わった。


「というわけだ、魔王さん。悪いが、オレ様はまた旅とかするよ。でも、迷惑はかけちまったからな。助けが必要な時は、いつでも力になってやる」


 ウェルフは、強く自分の胸を叩いた。


「ああ、助かるよ。どこかで会った時、俺が困っていたら、頼りにさせてもらうぞ」


 再び、俺はウェルフに右手を差し出した。

 今度はそれに応じてくれ、お互いに強く握手をした。

 

「最後に、マモンに伝えたいことがある」


「・・・・・・」


 ウェルフは真剣な表情へと変わり、マモンの方へと向いた。

 マモンもウェルフの表情から察し、まっすぐウェルフを見つめる。


「お前にとって、魔王城は大切な居場所だ。それを邪魔するつもりは、全く無い。でも、そこはマモンが居ようとオレ様の居場所では無いことは確かだ。だから、オレ様もお前みたいに、平穏に過ごせるような、大切な居場所を見つけるよ」


「ウェルフ・・・・・・」


「でもよ、もし寂しくなったら・・・・・・また会いに来る。そして、もしオレ様の大切な居場所が見つかったなら、お前に紹介してやるよ。約束だからな」


 そう言って、ウェルフはニッと歯を出して笑った。

 それを見て、マモンも小さく笑みを浮かべる。


「いつでも待っている。俺も、楽しみにしているからな」


 それを聞いて、ウェルフは満足そうにしていた。

 二人は道を違えたが、お互いに、自分の新しい居場所へと向かっていく。

 確かに、ウェルフはまだマモンのように穏やかに暮らすことはできないかもしれない。

 でも、マモンにできたのなら、きっとウェルフにもできるだろう。

 二人は互角で、相棒なのだから。


「じゃあな!またどこかで会おうぜ!」


 そう言い残し、ウェルフは突然目の前から姿を消した。


「まだまだ余力、あったじゃないか・・・・・・」


 ウェルフの一瞬で姿が見えなくなるほどのスピードを前に、マモンは小さく呟いた。

 

「ウェルフとまた会った時、失望されないように頑張らないとな、マモン」


「はい。魔王城、絶対に守ってみせましょう」


 俺とマモンは、どこか遠い方を見つめた。

 ウェルフとまた会える、その日を楽しみに。

 その時まで、魔王城を脅かす敵に、負けていられないと決意を胸に。


 ウェルフの一件を終えてから数日間、俺は幻覚を作る訓練を続けていた。

 アイリスのアドバイスも貰いながらの特訓で、ほんのわずかな範囲ではあるが、実践可能レベルにはできた。


「よし、それじゃ早速ご褒美をやろう」


「ワーーイ!」


 俺は闘技場にスロームを呼んでいた。

 運動会で、スライムたちにはこっそりご褒美をあげると決めていたが、スロームはどうやら、俺からもらうものなら、何でも良いとのことらしい。

 そういうわけで、俺の実践練習の相手になってもらうことにした。

 

「急に景色が変わるけど、ビックリするなよ」


「わ、わかったデス!」


 スロームは、少し緊張した面持ちだった。

 俺は集中力を高め、スロームの周りに闇を覆う。


「ワワッ!」


 この瞬間に関しては申し訳ないとしか言えない。

 まだアイリスみたいに、気づかれないようにいつの間にか幻覚を見せることはできない。

 それには相当の練度が必要らしい。


 スロームの周囲に闇を覆った後、自分のイメージを、その闇の中に込める。

 これがすごく抽象的で、本当に難しい。


 イメージを送り終えたら、その状態を維持する。

 集中力を切ることは許されず、常に力を込め続けなければならない。


 ある程度の時間が経ったので、闇を解除する。

 相当疲労したので、汗もかいていた。


「どうだ?」


 スロームに見せたのは、掃除をする必要が一切ないほどの、綺麗すぎる魔王城だった。

 掃除をいつもしているスロームは綺麗好きだと思い、彼にとって素晴らしいであろう景色を見せることにした。


 しかし、スロームは、俺の予想とは違った反応を見せていた。


「ヒ、ヒィィィ」


 スロームは物凄く身体を震わせていた。

 もしかして、失敗してしまったのだろうか。


「だ、大丈夫か?!」


「そ、存在意義が・・・・・・」


「存在意義?」


「き、綺麗すぎて、自分の存在意義を見失いかけたデス・・・・・・」


「あ、ご、ごめん!」


 ご褒美のつもりが、スロームにとっては全然そうではなかったらしい。

 悪いことをしてしまった。


 スロームにひたすら謝罪をし、次は見たい景色を見せると約束をして、その日の特訓は終わりにした。


 少しずつではあるが、成長の実感があることは、自分にとってうれしかった。

 やはり成長の実感は、モチベーションになる。


「超上会か・・・・・・」


 ウェルフの言っていた単語を、俺は思い出した。

 未知な相手、情報網の広さは把握しきれないほどだろうし、もし戦闘になったとしたら、きっと油断はできないだろう。


 ウェルフ相手に、何もできなかった不甲斐なさが、自分の身を引き締める。

 俺の居場所を脅かす存在、衝突は不可避だろう。

 なら、自分の研鑽を怠るわけにはいかない。

 自惚れていたわけではないが、今回の一件は、自分にとって良い経験となった。


「よし、明日からも頑張るか」


 俺は強く拳を握りしめた。

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