第三十八話「見失い、そして知る」
「何故だ!何故なんだ!」
「何故、じゃねぇよ・・・。そのまんまの結果だろ・・・・・・」
「嘘をつくな!」
二人の戦いは、はっきりと目に分かる形で終結していた。
ウェルフは地面へと倒れ、マモンはそれに馬乗りになっている状態だ。
そして、ウェルフの肩には、マモンのナイフが深く刺さっている。
ウェルフもすっかり戦う気が失せたのか、抑えつけられた身体から、抵抗の様子は見られなかった。
決着がついた要因は、ウェルフが急に動きを止めたからだった。
俺の肉眼でもなんとか追えるほどに、二人のスピードは落ちていたが、それでも状況を完全に把握することは難しかった。
しかし、動きが突然止まったなら、さすがに俺でも気づく。
動きを止めたウェルフに、彼がまるでマモンの動きを読んでいたかのように、まっすぐナイフが肩へと刺さり、そのままの勢いで、共に倒れていった。
真剣勝負だったはずなのに、明らかにおかしな挙動を取られたことに、納得がいかなかったのか、マモンは歯ぎしりをしていた。
対して、ウェルフの方は、やりきった顔をしていた。
まるで、この展開を望んでいたかのような表情だった。
「こんなの・・・納得いくわけがないだろう!何故最後に手を抜いたんだ!」
「他人のことなんか、分かるわけねぇだろ・・・・・・。オレ様は本気でやって、お前がそれを超えただけだ・・・・・・」
「そんな道理、通用するわけがないだろう!」
このままでは、ずっと話が平行線になってしまうかもしれない。
マモンも、こんな勝ち方をしてしまっては、いざウェルフが抱えている秘密を聞こうにも、彼はそれを許せないだろう。
展開がこうなってしまった以上、戦いを仕切り直しするというわけにはいかないし、俺は助け船を出すことにした。
「ウェルフ、お前の負けということでいいんだな?」
「ああ、見ての通り。そういうこった」
「ディザ様!しかし・・・!」
「ウェルフにはもう戦う意思がない。なら、もうそれを受け入れるしかない。それに、こうやってウェルフが負けたことも、隠し事に関係するんじゃないか?」
「・・・・・・っ!」
マモンは唇を強く噛みながら、馬乗りの状態から立ち上がり、納得のいかない顔のまま、ウェルフを強く睨みつける。
だが、観念したのか、マモンはそっぽを向いた。
「お前が隠していること、すべて話せ。俺が納得いくようにな。そうでなければ、無理やりにでもお前を立たせて、また戦わせる」
「分かった、分かったって・・・・・・」
マモンから解放されたウェルフも立ち上がり、肩にナイフが刺さったまま、俺とマモンの方を眺める。
「いったん治療しないか?魔王城に場所を用意するから、一度移動をしよう」
「魔王さん、甘いんじゃねぇか?オレ様はお前らを殺そうとした敵だぜ?それに、ワーウルフは身体が頑丈にできてるから気にするな。それに、オレ様が魔王城に少しでも滞在するなんてごめんだ」
俺の提案を、嘲笑うように、ウェルフは断った。
そう言うならば、俺は素直に受け入れることにし、無言で頷いた。
「で、何だっけ?隠し事か?」
ウェルフは、視線を俺からマモンへと移した。
「ああ、そうだ。お前が何故魔王城を攻撃したのか。その理由を聞かせてもらう」
マモンは、先ほどの納得のいかない戦いは、一旦忘れ、真剣な表情になっていた。
「そうだな・・・、簡単に言うと、オレ様は利用されてんだ」
「利用?」
「そうだ」
情けないと言わんばかりに、ウェルフは頭をかいた。
「なんていうか、オレ様はマモンが居なくなっても、別に怒ってもいないし、許せないとも思っていなかったんだ。ただ、寂しいんだなって思ってた。オレ様にとってずっと続くと思っていた時間が、急激に離れて行って。マモンにとって大切なのは、オレ様と好き放題暴れることじゃなくなったんだなって」
「だったら、なぜ・・・」
「待てって。ちゃんと話すから落ち着け」
前のめりになっているマモンを、ウェルフは右手で制止した。
「オレ様は、知性を持ち始めた頃から、ずっと暴れまくっていた。もちろん、楽しい時間だったし、飽きることはなかった。だからこそ、楽しい以外の気持ちについては分からなかったんだろうな」
ウェルフは遠い目で語る。
マモンも俺も、横槍を入れることなく、彼の話を無言で聞き続けた。
「とにかく、オレ様はマモンが居なくなって、寂しかったんだ。でも、そのことに気づけなかった。ぽっかり空いてしまった、胸の何かの正体が分からず、それでも今まで通りの、だけども欠けていた毎日を繰り返していた。今までの楽しい感情に、物足りなさは感じていたけどな」
そこまで話すと、ウェルフは少しの間黙っていた。
悔しそうな表情をしていて、今まで見せていなかった、怒りの様子も見られた。
「ウェルフ、大丈夫か?」
「・・・ああ、大丈夫だ、マモン。ちょっとばかし、バカな自分にイライラしてただけだ。続けるぜ」
マモンは少し心配そうにしていたが、構わずウェルフは話を再開した。
「こっからはオレ様がバカだったって話だ。つまんねぇ毎日を続けていて、その理由も分からねぇまま過ごしていたら、数週間前に、オレ様の前に現れた人物が居た。連中は超上会とか名乗っていたかな。詳しいことはオレ様も分からねぇけどよ」
「超上会・・・・・・」
思わず、俺は復唱した。
それは、聞き慣れない単語だった。
「奴は、何故かオレ様がマモンと仲違いしたことを知っていた。そして落ちぶれたオレ様に、こう話しかけたんだ。あなたは相棒に怒りを感じている。復讐をする時だ、とな。縋るものもなかったオレ様は、素直にその言葉に従っちまったんだ。オレ様はマモンのことを恨んでいたのかと、勝手に思い込むことにしたんだ。素性も分からねぇ奴の言いなりになってな」
ウェルフは強く拳を握りしめていた。
「それで、オレ様は魔王城を攻撃することにしたんだ。マモンに復讐するためにな。でも、正直乗り気じゃなかった。そりゃそうだよな、元々オレ様は、マモンのことを憎いだなんて思ってねぇんだから。それでも、オレ様は引き返せなかった。嘘の感情であっても、目的ができたからだ」
「物足りなさを埋めるために、か」
マモンの問いに、ウェルフは頷いた。
「そうだ。何かが足りない。だから無理やり意思を作った。でも、それは偽りだ。中途半端すぎるだろ。だから、ふざけた態度を取って、相手と自分を誤魔化そうとしたんだ。正直、自分でもよく分かんなかった。でも、そうやって意味わかんねぇことやって、そのおかげで寂しいってのが分かったんだ。マモンと、そこの魔王に会えたことでな」
「俺も、なのか?」
「ああ」
ウェルフは俺の方を指さした。
「マモンがオレ様に会いに来た時、こっそりついてきてただろ。マモンが大事にされてるってことはよく分かる。そして、何故か安堵したんだ。マモンは魔王城で何の問題もなく過ごせてると思ってな。その瞬間、オレ様は怒りの感情なんて全く無いことに気づいたんだ。同時に思った。オレ様はマモンの邪魔をする理由なんて、どこにも無いんだと」
「だから、俺との戦いの最後に手を抜いたのか?」
「知らねーよ。本当にお前の方が強かったんじゃねぇか?」
ウェルフはニヤりと笑った。
あくまで、手を抜いたことは認めないようだ。
それは、マモンが情けをかけられたと思わないようにするためなのだろう。
「まあ、そんなわけだ。散々迷惑をかけてすまなかったな。すべて、オレ様がバカだっただけだ」
「ウェルフ・・・・・・」
話を聞き終わったマモンは、しばしの間黙っていた。
気持ちの整理をしているのだろうか。
マモンにはまだ時間が必要だと思い、俺からウェルフに気になることを聞くことにした。
「一ついいか。超上会について、分かることだけでいいから、話してくれないか」
「ん?ああ、いいぜ」
ウェルフは、自分がその単語を出したことを忘れていたのか、俺の質問を聞いて、ハッとした。
だが、自分やその周りに何かしらの接触があったなら、少しでも情報を集める必要があると、俺は思った。
「超上会ってのは、どうやら世界を正しい方向へと修正する集まりのことらしい。オレ様も盗み聞きした程度しか分かんねぇけどな。世界に異分子が紛れ込んだとかなんとか言ってたな」
「それは、ウェルフをけしかけたことと関係するのか?」
「知らねぇ。でも、奴らにとって都合が良かったから、そうしたんじゃねぇか?」
「そうか・・・、情報をありがとう」
「まあ、これぐらいどうってことねぇよ」
ウェルフの話をまとめると、超上会は世界を修正する集まりで、異分子を解消するために行動していて、魔王城への攻撃もその一環である可能性がある。
「俺、なのか・・・?」
誰にも聞こえないような、小さな声で呟く。
まだ、断定はできない。
だが、自分の周囲のことを考えると、否定はできない。
学生時代に、魔王討伐後に殺される予定の話を聞いたこと。
コルソンが闇属性の人族を狙ってきたこと。
そして、ウェルフが魔王城を攻撃してきたこと。
超上会が確定で絡んでいることは、ウェルフの件だけだが、彼らの目的は異分子の処理。
人族として、強力な闇属性の使い手である俺は、類を見ない存在であり、異分子と言えるかもしれない。
もちろん、俺の考えすぎという線もあるが、超上会は数多くのことを知っていて、油断ならない相手であるという意識は、持っていて損はないだろう。
「ディザ様、少しいいですか」
俺が超上会について考えていると、マモンが俺に話しかけてきた。
気持ちの整理はついたのか、今日一番に落ち着いた顔をしていた。
「どうした?」
「提案があります。ウェルフを魔王城に住まわせてもよろしいでしょうか」




