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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第四章「自分の仲間」
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第三十八話「見失い、そして知る」

「何故だ!何故なんだ!」


「何故、じゃねぇよ・・・。そのまんまの結果だろ・・・・・・」


「嘘をつくな!」


 二人の戦いは、はっきりと目に分かる形で終結していた。

 ウェルフは地面へと倒れ、マモンはそれに馬乗りになっている状態だ。

 そして、ウェルフの肩には、マモンのナイフが深く刺さっている。

 ウェルフもすっかり戦う気が失せたのか、抑えつけられた身体から、抵抗の様子は見られなかった。


 決着がついた要因は、ウェルフが急に動きを止めたからだった。

 俺の肉眼でもなんとか追えるほどに、二人のスピードは落ちていたが、それでも状況を完全に把握することは難しかった。

 しかし、動きが突然止まったなら、さすがに俺でも気づく。

 動きを止めたウェルフに、彼がまるでマモンの動きを読んでいたかのように、まっすぐナイフが肩へと刺さり、そのままの勢いで、共に倒れていった。


 真剣勝負だったはずなのに、明らかにおかしな挙動を取られたことに、納得がいかなかったのか、マモンは歯ぎしりをしていた。

 対して、ウェルフの方は、やりきった顔をしていた。

 まるで、この展開を望んでいたかのような表情だった。


「こんなの・・・納得いくわけがないだろう!何故最後に手を抜いたんだ!」


「他人のことなんか、分かるわけねぇだろ・・・・・・。オレ様は本気でやって、お前がそれを超えただけだ・・・・・・」


「そんな道理、通用するわけがないだろう!」


 このままでは、ずっと話が平行線になってしまうかもしれない。

 マモンも、こんな勝ち方をしてしまっては、いざウェルフが抱えている秘密を聞こうにも、彼はそれを許せないだろう。

 展開がこうなってしまった以上、戦いを仕切り直しするというわけにはいかないし、俺は助け船を出すことにした。


「ウェルフ、お前の負けということでいいんだな?」


「ああ、見ての通り。そういうこった」


「ディザ様!しかし・・・!」


「ウェルフにはもう戦う意思がない。なら、もうそれを受け入れるしかない。それに、こうやってウェルフが負けたことも、隠し事に関係するんじゃないか?」


「・・・・・・っ!」


 マモンは唇を強く噛みながら、馬乗りの状態から立ち上がり、納得のいかない顔のまま、ウェルフを強く睨みつける。

 だが、観念したのか、マモンはそっぽを向いた。


「お前が隠していること、すべて話せ。俺が納得いくようにな。そうでなければ、無理やりにでもお前を立たせて、また戦わせる」


「分かった、分かったって・・・・・・」


 マモンから解放されたウェルフも立ち上がり、肩にナイフが刺さったまま、俺とマモンの方を眺める。


「いったん治療しないか?魔王城に場所を用意するから、一度移動をしよう」


「魔王さん、甘いんじゃねぇか?オレ様はお前らを殺そうとした敵だぜ?それに、ワーウルフは身体が頑丈にできてるから気にするな。それに、オレ様が魔王城に少しでも滞在するなんてごめんだ」


 俺の提案を、嘲笑うように、ウェルフは断った。

 そう言うならば、俺は素直に受け入れることにし、無言で頷いた。


「で、何だっけ?隠し事か?」


 ウェルフは、視線を俺からマモンへと移した。


「ああ、そうだ。お前が何故魔王城を攻撃したのか。その理由を聞かせてもらう」


 マモンは、先ほどの納得のいかない戦いは、一旦忘れ、真剣な表情になっていた。


「そうだな・・・、簡単に言うと、オレ様は利用されてんだ」


「利用?」


「そうだ」


 情けないと言わんばかりに、ウェルフは頭をかいた。


「なんていうか、オレ様はマモンが居なくなっても、別に怒ってもいないし、許せないとも思っていなかったんだ。ただ、寂しいんだなって思ってた。オレ様にとってずっと続くと思っていた時間が、急激に離れて行って。マモンにとって大切なのは、オレ様と好き放題暴れることじゃなくなったんだなって」


「だったら、なぜ・・・」


「待てって。ちゃんと話すから落ち着け」


 前のめりになっているマモンを、ウェルフは右手で制止した。


「オレ様は、知性を持ち始めた頃から、ずっと暴れまくっていた。もちろん、楽しい時間だったし、飽きることはなかった。だからこそ、楽しい以外の気持ちについては分からなかったんだろうな」


 ウェルフは遠い目で語る。

 マモンも俺も、横槍を入れることなく、彼の話を無言で聞き続けた。


「とにかく、オレ様はマモンが居なくなって、寂しかったんだ。でも、そのことに気づけなかった。ぽっかり空いてしまった、胸の何かの正体が分からず、それでも今まで通りの、だけども欠けていた毎日を繰り返していた。今までの楽しい感情に、物足りなさは感じていたけどな」


 そこまで話すと、ウェルフは少しの間黙っていた。

 悔しそうな表情をしていて、今まで見せていなかった、怒りの様子も見られた。


「ウェルフ、大丈夫か?」


「・・・ああ、大丈夫だ、マモン。ちょっとばかし、バカな自分にイライラしてただけだ。続けるぜ」


 マモンは少し心配そうにしていたが、構わずウェルフは話を再開した。


「こっからはオレ様がバカだったって話だ。つまんねぇ毎日を続けていて、その理由も分からねぇまま過ごしていたら、数週間前に、オレ様の前に現れた人物が居た。連中は超上会とか名乗っていたかな。詳しいことはオレ様も分からねぇけどよ」


「超上会・・・・・・」


 思わず、俺は復唱した。

 それは、聞き慣れない単語だった。


「奴は、何故かオレ様がマモンと仲違いしたことを知っていた。そして落ちぶれたオレ様に、こう話しかけたんだ。あなたは相棒に怒りを感じている。復讐をする時だ、とな。縋るものもなかったオレ様は、素直にその言葉に従っちまったんだ。オレ様はマモンのことを恨んでいたのかと、勝手に思い込むことにしたんだ。素性も分からねぇ奴の言いなりになってな」


 ウェルフは強く拳を握りしめていた。

 

「それで、オレ様は魔王城を攻撃することにしたんだ。マモンに復讐するためにな。でも、正直乗り気じゃなかった。そりゃそうだよな、元々オレ様は、マモンのことを憎いだなんて思ってねぇんだから。それでも、オレ様は引き返せなかった。嘘の感情であっても、目的ができたからだ」


「物足りなさを埋めるために、か」


 マモンの問いに、ウェルフは頷いた。


「そうだ。何かが足りない。だから無理やり意思を作った。でも、それは偽りだ。中途半端すぎるだろ。だから、ふざけた態度を取って、相手と自分を誤魔化そうとしたんだ。正直、自分でもよく分かんなかった。でも、そうやって意味わかんねぇことやって、そのおかげで寂しいってのが分かったんだ。マモンと、そこの魔王に会えたことでな」


「俺も、なのか?」


「ああ」


 ウェルフは俺の方を指さした。


「マモンがオレ様に会いに来た時、こっそりついてきてただろ。マモンが大事にされてるってことはよく分かる。そして、何故か安堵したんだ。マモンは魔王城で何の問題もなく過ごせてると思ってな。その瞬間、オレ様は怒りの感情なんて全く無いことに気づいたんだ。同時に思った。オレ様はマモンの邪魔をする理由なんて、どこにも無いんだと」


「だから、俺との戦いの最後に手を抜いたのか?」


「知らねーよ。本当にお前の方が強かったんじゃねぇか?」


 ウェルフはニヤりと笑った。

 あくまで、手を抜いたことは認めないようだ。

 それは、マモンが情けをかけられたと思わないようにするためなのだろう。


「まあ、そんなわけだ。散々迷惑をかけてすまなかったな。すべて、オレ様がバカだっただけだ」


「ウェルフ・・・・・・」


 話を聞き終わったマモンは、しばしの間黙っていた。

 気持ちの整理をしているのだろうか。

 

 マモンにはまだ時間が必要だと思い、俺からウェルフに気になることを聞くことにした。


「一ついいか。超上会について、分かることだけでいいから、話してくれないか」


「ん?ああ、いいぜ」


 ウェルフは、自分がその単語を出したことを忘れていたのか、俺の質問を聞いて、ハッとした。

 だが、自分やその周りに何かしらの接触があったなら、少しでも情報を集める必要があると、俺は思った。


「超上会ってのは、どうやら世界を正しい方向へと修正する集まりのことらしい。オレ様も盗み聞きした程度しか分かんねぇけどな。世界に異分子が紛れ込んだとかなんとか言ってたな」


「それは、ウェルフをけしかけたことと関係するのか?」


「知らねぇ。でも、奴らにとって都合が良かったから、そうしたんじゃねぇか?」


「そうか・・・、情報をありがとう」


「まあ、これぐらいどうってことねぇよ」


 ウェルフの話をまとめると、超上会は世界を修正する集まりで、異分子を解消するために行動していて、魔王城への攻撃もその一環である可能性がある。


「俺、なのか・・・?」


 誰にも聞こえないような、小さな声で呟く。

 まだ、断定はできない。

 だが、自分の周囲のことを考えると、否定はできない。


 学生時代に、魔王討伐後に殺される予定の話を聞いたこと。

 コルソンが闇属性の人族を狙ってきたこと。

 そして、ウェルフが魔王城を攻撃してきたこと。

 

 超上会が確定で絡んでいることは、ウェルフの件だけだが、彼らの目的は異分子の処理。

 人族として、強力な闇属性の使い手である俺は、類を見ない存在であり、異分子と言えるかもしれない。

 もちろん、俺の考えすぎという線もあるが、超上会は数多くのことを知っていて、油断ならない相手であるという意識は、持っていて損はないだろう。

 

「ディザ様、少しいいですか」


 俺が超上会について考えていると、マモンが俺に話しかけてきた。

 気持ちの整理はついたのか、今日一番に落ち着いた顔をしていた。


「どうした?」


「提案があります。ウェルフを魔王城に住まわせてもよろしいでしょうか」

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