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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第四章「自分の仲間」
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第三十七話「相棒と相棒」

 日は経ち、ウェルフとの約束の日になった。

 指定された場所に向かうのは、俺とマモンの二人のみ。

 マモンの過去を清算するのに、これ以上誰かがそこに居る必要はない。


「・・・・・・来たか」


 木々の中で、胡坐をかいて昼寝をしていたウェルフは、こちらの姿を視認するまでもなく、少し近づいただけで、俺たちに気づいた。

 ウェルフは立ち上がり、木の奥側に居る、俺たちの居る方向を見る。

 姿を隠すつもりなど、さらさらないので、木から出て、姿を現した。


「ちゃんと約束通り来てくれたなぁ。オレ様は約束を守る男は好きだぜ?」

 

 ウェルフは相変わらずの態度で、俺に話しかける。


「まあ、約束通り来たっていうよりも、俺の部下の用事に、俺がついてきたんだけどな」


「ほう?」


 俺に向けられてたウェルフの視線は、マモンへと移った。


「ああ、俺からお前に用があって来た」


「オレ様の用件は無視か?」


「お前に本当に用件があるならな」


「何だと?」


 ウェルフは、今までとは違って、不快感を露わにした。

 それにしても、マモンが言っていることはどういうことだろうか。

 昨日話し合った時に、そんな話は出なかったので、マモンには何か考えがあるのだろうか。


「俺と話してる時だ。俺が理由で魔王城を攻撃しているかと聞かれた時、お前ははぐらかした。それに、裏切られた復讐心だったり、そういう憎しみの感情を、お前の態度からは感じられない」


 マモンの説明を、ウェルフは無言で聞き続ける。

 

「何か隠しているんじゃないのか?話せないことがあって、それを悟られないように、飄々としているんじゃないのか?お前は深刻な演技をするよりも、ふざけた演技をする方が得意だもんな」


「そうかい・・・・・・」


 マモンの説明が終わると、ウェルフの雰囲気が変わった。

 突然明るくも暗くもない、真剣な表情へと変わった。


「だったら、どうするんだ?オレ様に隠し事があるとして、それでどうする?」


 ウェルフがマモンを見る目は、まっすぐだった。

 

「お前を倒す。そして、お前から隠し事を聞く。それだけだ」


 それを聞いて、ウェルフは小さく笑みをこぼした。


「どういう流れだよ、それ。オレ様がお前に負けたら、秘密をペラペラ喋るって、因果関係どうなってんだよ」


「お前ならそうだろう?」


「さすが、オレ様のことをよく分かってやがる」


 俺の目には、二人はなんだか楽しそうに見えた。

 今は仲違いしているとはいえ、かつてはつるんでいた仲。

 ウェルフの性格を理解しているマモンと、そのことに満足げなウェルフ。

 彼らのことを深くは知らなくても、一見して相棒ということが理解できる。


「初めて会った時ぶりじゃねぇか」


 ウェルフは足を少し開き、拳を握って、戦闘の構えを取る。


「ああ。だが、あの頃はお互いのことを知らず、相手を舐めていた。でも、今はお互いのことを理解し合っている。あの時と同じように、互角な戦いになるだろうかな?」


 マモンも同じように、戦闘の構えを取った。


「愚問だな。オレ様もお前も互角だよ。お互いのことを知っているからこそ、分かるんだ。オレ様の強さも、お前の強さも知っているからこそ」


「それも、そうだな・・・・・・」


 そして、二人の間に静寂が生まれた。

 二人はすでに臨戦態勢にある。

 だが、彼らの頭の中でシミュレーションがされているのか、互いに相手から視線をそらさず、呼吸を整えているばかりだった。


 数分の後、マモンが深く息を吸い、ほんのわずかに目を閉じ、息を吐き切った後に、カッと目を開いた。

 それを合図に、マモンとウェルフの身体がわずかに動いた。

 

「うおおお?!」


 突然起きた風に、俺は驚かずにはいられなかった。

 二人の動きがあまりにも早すぎて、周囲に風が発生していた。

 ウェルフのスピードは尋常じゃないことは知っていたが、マモンもそれと同等のようだ。

 尤も、俺の目では確認できないレベルだが。

 運動会で見た、ヘルハウンドの足の速さなど、比べ物にならない。


「本当に何が起きてるか分からない・・・・・・」


 動きの速さに相まって、強烈な風で目を開けることも一苦労だった。

 ウェルフは風属性を用いて、周囲の風を調整して、隠密性を高めた行動を得意としていたが、今回はそれを必要としない。

 戦闘にのみ集中できるからこそ、風属性に割いていた力を、他に回すことができる。

 すなわち、前に見たウェルフよりも強いウェルフというわけでもある。


 しばらく眺めていると、風がやみ、また最初の立ち位置に戻った。

 お互いに少し疲弊している様子だった。


「はぁ、はぁ・・・・・・。相変わらずバカげた身体能力だぜ。オレ様のスピードについてくるなんて、お前ぐらいのもんだぜ」


「これしか俺には取り柄が無いからな。だが、その取り柄こそが、お前に対抗できる手段だ」


「分かってるよ。全部分かってる。オレ様にとって最悪だから、オレ様にとって最高の仲間であってほしかったしな」


「そんな打算的だったのか?」


「最初はな。だが、最初だけだ」


 ひとしきり会話をした後、ウェルフは全身を震わせ、毛を逆立てた。


「グルァァァァ!」


 ウェルフは大声を上げ、気合を入れ直した。


「まだ、終わりじゃねぇよな?始まったばかりだ。もっともっとやれるよなぁ!」


「今のはただの小突き合いだ。それとも、お前にとっては結構本気だったりするか?」


「見るからに疲労してるやつが、よく言うぜ。でも、まだまだギアは上げられるようだな!」


 マモンとウェルフは、再び深呼吸をした。

 今までの二人は、拳や脚を使った肉弾戦がメインだったが、ウェルフは爪や牙を立て、マモンは腰からナイフを取り出し、逆手で持った。

 そして、再び先ほどの激戦のような戦いが始まる。


 武器を持たなかったさっきまでの戦いとは一転、今度は金属と金属がぶつかり合うような音が聞こえてきた。

 もちろん、片方はウェルフの鋭い爪からの音だろうが、いかに頑丈であるかが分かる。


「というか、マモンも俺の部下なはずなのに、強すぎる・・・・・・」


 俺が対応できないウェルフのスピードに、マモンは対応できる。

 マモンはスピードだけが取り柄だと言っていたが、その並外れたスピードだけでも十分なように思える。

 俺は人族最強で、前の魔王も倒した実績もあり、肩を並べられるような者は、そうそう居ないと思っていたが、完全に思い違いだった。

 アイリスの時も思ったが、魔王としてもう少し精進しなければならないかもしれない。


 目に見えないほどの戦闘だったが、長引けば長引くほど、動きが鈍くなったのか、だんだんと目で追えるようになっていった。

 表情は崩れていないが、大量に汗をかいていて、見るからに疲労を感じ取れる顔をしていた。

 無理やりにでも口角を上げようとしているウェルフは、無理やり取り繕っているように感じる。

 対するマモンは、真剣な表情を貫いていたが、戦闘前の言い合いから考えると、余裕のなさを表してると言える。

 

 強烈な風と、ぶつかり合う金属音が止んだのは、二人の動きがかなり鈍くなった後だった。

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