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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第一章「勇者と魔王」
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第三話「人のために人として」

 話は魔王討伐を終えた後に戻る。


 勇者として魔王の討伐を完了し、普通ならば、人族を救った英雄として扱われてもおかしくはないだろう。

 だが、俺がこのまま何もせずに帰ってしまえば、きっと何かしらの手を使って、国自体が俺を殺してくるだろう。

 逃げることなんて考えていない。俺が愛される世界を望んだのだから、自分には魔王を討伐できるほどの力がある。だから後は、勇気が必要なだけだ。


 仲間を殺す勇気が。


 俺がまず初めにすることは、仲間を全員殺すこと。 

 俺のためには、必要なことなのだと、自分に言い聞かせる。

 仲間たちが俺のことを認めてくれていることは知っている。

 だが、俺はそんな数少ない仲間に認められるよりも、人族に認められたいという気持ちのほうが強かった。

 人として、人の住む世界で、人の生活をしたかった。

 だから、俺のためには仕方がないんだ、と思い込んだ。


 作戦の決行は夜。野宿をするときは、四人のうち一人が見張りをして、他三人がその間に休むということになっている。


 最初に狙うのは、回復魔法を使うメリーだ。

 メリーが見張りの時に、俺はメリーに声をかける。


「メリー、ちょっと話がある。少し離れたところで話さないか?」


「突然ですね、いいですよ」


 何の疑いもなく、メリーは返事をする。

 やはり、共に過ごした時間のおかげか、警戒心を持たれるようなことはない。


「一応、何かあったら危ないし、剣だけは持っておくか」


「ありがとうございます」


 そんな言い訳をして、他の二人が寝ているところから離れる。


 少し歩いた後、お互い足を止めた。


「ここらへんでいいよ。ちょっと準備をするから少しだけ反対を向いてくれないか?」


 平静は装えているはず。


「わかりました。な、なんだか、少しドキドキしますね」


 音をたてないように剣を抜く。


「まだですか?一体何をしてくれるんですか?」


 そして、俺は心臓の位置を目掛けて、剣を刺した。


「・・・・・・ッ!」


 突然の衝撃のせいか、漏れるように声を出した。

 暗くて状況は分かりにくいが、おそらく血が落ちたような音が聞こえる。

 今俺は、数少ない自分を認めてくれた仲間を、自分のためだけに殺そうとしている。

 

「なん・・・で・・・・・・」


「俺のためなんだ、お前には悪いと思っている」

 

 俺は、自分がやろうとしていることを必死に肯定する。

 少しでもためらいを持ってはいけないと、本能で感じていた。


「結局、あなたは魔族だったってことなの・・・・・・?」


 一番聞きたくない言葉を、聞かされた。


「黙れ!!!!!!!!」


 躊躇する理由は本格的になくなった。

 自分がためらうであろう、数少ない理由。

 仲間さえも、俺を冷めた目で見てきた。

 自分勝手な行動が原因の、自業自得なことであることは分かっていた。

 だが、そうであっても・・・・・・。


 俺はメリーから剣を抜き、闇属性を付与し、もう一度心臓を刺す。


「もう終わりにさせてくれ、頼む。後悔するなら、後戻りが完全にできないところまで行ってしまってからしたいんだ」

 

 闇属性は、すべてを飲み込もうとする能力がある。

 肉体の損傷部分に、十分な質の闇属性が与えられれば、そこに回復魔法を送り込もうとしても、闇属性が飲み込む。

 最も、回復魔法の使い手が、闇属性を打ち消せるほど強力な魔力の持ち主ならば、対抗はできただろうが、人族最強の俺にとっては関係のない話だった。


「回復魔法を試そうとしても無駄なことは分かっているはずだ。俺のほうが優れている。お前はもう死ぬしかないんだ。受け入れてくれ」


「がっ・・・、あああああああああ!!!」


 だが、俺の言葉とは反対に、メリーは力を振り絞って大声で叫ぶ。


「た、確かに、私はもう死ぬでしょう・・・・・・。回復魔法も使えず、心臓も貫かれては、さすがに、どうしようも・・・ありません・・・・・・。でも、人殺しに好き勝手させるつもりも、ありません・・・・・・」


「黙れ・・・。黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!」


「言われなくても、黙りますよ・・・・・・。私が大声を聞いて、他の二人も来るはず・・・。後の二人に任せます・・・・・・。くっ・・・・・・。」


 そう言って、メリーはドサリと音を立てて倒れた。

 ピクリとも身体は動いておらず、さっきまであったわずかな生気も感じなくなっていた。

 メリーは死んだ。間違いなく、この手で殺した。

 

 鼻に入ってくる、血の鉄くさい匂いが、現実を分からせてくる。

 殺す前に比べて、殺した後のほうが罪悪感はなかった。

 後戻りのできないことからの自棄か、自分を否定されたことによって強化された自己肯定感のせいか、あるいは両方か。

 気味の悪いことに、頭の中を切り替えることは容易だった。


「あとの二人も、もう来るか・・・・・・。」

 

 予定ならば、見張りであり、回復魔法を使えて厄介になる可能性があるメリーを殺して後に、寝込みを襲って全員を殺す予定だった。

 しかし、不意打ちもできず、二人が同時に来るのであれば、非常に面倒なことになる。

 正面から戦って完封されるようなことはないとは思うが・・・・・・・。


 けれど、本当に問題なことは、そこじゃなかった。


 

 結局、あなたは魔族だったってことなの・・・・・・?

 

 

 また、自分を強く否定されてしまうのではないかという不安がある。

 逆に考えれば、実は初めから信用されていなかったかもしれないと思い込めば良いのではないかとも考えた。


「悪いことは考えようとしなかったり、良い方向へと思い込もうとしたり、都合の良いようにしたがってばかりだな・・・・・・」


 考えても仕方がないことを考える。

 もうすでに一人殺してしまっている。

 そもそも、自分の都合のために始めたことだ。

 まずは俺が俺を認める。

 ひどく自分勝手な考えこそが、自分勝手な夢に必須であるから。


「いつでも、いける」


 俺は、服で剣の血を軽く拭い、深呼吸をした。

 新鮮な空気を頭に入れ、完全に冷静になれた俺は、二人を迎える準備はできていた。

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