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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第四章「自分の仲間」
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第三十五話「相棒と平穏」

 それは、今から三年前の話。

 マモンとウェルフが出会ったのは、共に知性が生まれ始めた頃だった。

 どちらも、そこらの魔族よりも力を持った存在だった。

 自分の力の強さに自覚し、その力を持って、弱者を支配しようという欲望が、彼らに知性をもたらした。

 その力を持って、あたりの魔族を支配下に置こうと、ありとあらゆる暴力を振るっていた時に、二人は出会った。


 お互いに、今まで負けを知らなかった二人。

 自分に絶対の自信を持つ二人が出会った時、争いが起きないわけがなかった。


 二人の実力は拮抗していて、決定的な勝負がつくことはなく、どちらも疲弊しきっていた。


「はぁ、はぁ・・・・・・。ここまでやるやつは初めてだ。お前、つえぇな」


「俺だって、ここまで苦戦するやつに出会ったのは初めてだ・・・・・・。素直に認めよう・・・」


 お互いがお互いの力を認めた時、二人は固く握手をした。

 同じ志を持つ者同士だったのもあり、仲良くなるのはすぐだった。


 それからは、二人で共に他の魔族や人を襲うようになった。


「弱すぎる弱すぎる!こいつらの救いは、オレ様に殺される瞬間まで、何も知らなかったことだなぁ。死の痛みも恐怖もねぇんだからよ」


 ウェルフは、とにかく大量に殺すことを好んだ。

 自分が圧倒的であることに、快感を覚え、優越感に浸ることが好きだった。


「ほら、早く跪いて地面を舐めろ。俺に従わないなら、貴様の女の喉をナイフで抉るぞ」


「や、やめて・・・・・・」


 マモンは、相手を精神的に支配することを好んだ。

 相手が自分に服従する姿を見ることに、快感を覚え、優越感に浸ることが好きだった。


 手段は違えど、それでも二人が協力し合っていることは間違いなかった。

 マモンが好き放題やりたい時は、ウェルフが周囲の監視をし、ウェルフが好き放題やりたい時は、後処理はマモンが受け持つ。

 そうやって、自分のやりたいことに集中できるように、お互いの自由を極力邪魔しない程度に、活動していた。


 マモンの様子が変わったのは、彼が魔王城へ乗り込んだ時からだった。


「ウェルフ、どうやら魔族を統べる王が居る城があるらしい。今度はそこを攻めてみないか?」


 魔王城を攻めようと提案したのは、マモンからだった。

 この時のウェルフはあまり乗り気ではなかった。

 共に行動をし続けた相棒の提案とはいえ、相手は魔族を統べる存在だ。

 確かに、魔王を打ちのめしてしまえば、もう二人に逆らうことができるような魔族は、ほぼ居なくなるだろう。

 二人の欲望の終着点の一つと言っても、過言ではない。


 だが、ウェルフはどうしても乗り気ではなかった。

 支配欲が無くなったわけではないが、相棒と共に過ごした思い出が、彼の中で強くなっていた。

 もしマモンの提案が成功に終わったら、その先はどうなってしまうのだろうと思っていた。


「いや、オレ様は・・・あんまりだな」


 マモンの提案を、ウェルフは歯切れの悪い返事で答える。

 その思惑をマモンは読み取ることはできなかった。


「そうか・・・、確かにずっとやりたい放題してたし、たまには休憩してもいいだろう。俺一人で行ってくる」


「ああ、いや・・・」


「どうした?」


 だが、ウェルフも、自分が一緒に行動しない理由をはっきりとは言えなかった。

 結局、そのままマモンは一人で魔王城へと行った。


 一人取り残されたウェルフは、何かをする気も起きず、ぼーっと時間を過ごしていた。

 マモンが戻ってきたのは、別れてから三日後のことだった。


「ウェルフ、すまない。俺はもうお前と行動はできない。魔王城で静かに過ごすと決めたんだ」


「な・・・・・・?」


 ウェルフはその言葉を信じられなかった。

 正確には、信じたくなかった。

 突然裏切られた気持ちになってしまったから。

 

 マモンが目的を達成してしまって、それで関係が終わってしまうなら、まだ受け入れることはできた。

 でも、そうじゃなかった。

 目的を捨てたから、マモンはウェルフと関係を断とうとした。

 そのことが、彼にとっては許せなかった。


「俺は平穏というものを知った。俺は今まで、他人の平穏を奪いつくしていたんだ。例えそれが俺にとっての平穏であっても、誰かの平穏の上に成り立つなら、その平穏は認められるものじゃないんだ」


「急にどうしちまったんだよ?!オレ様たち、ずっと好き放題やってたじゃねぇか!何をいまさら・・・、それに支配したいってのは、お前の欲望じゃないかったのかよ?!」


「俺は元々、他者を管理したいと思っていた。だから、平穏な場所を作るために、俺は魔族を管理する。そこに支配なんてものはない」


 どれだけウェルフが訴えようと、マモンの意思は変わらないようだった。

 完全に二人の道は分かれてしまった。

 マモンの定まった気持ちは、ウェルフにはどうしようもなかった。


「一体、いきなりどうしたんだよ?!魔王城で何かあったのか?!」


「魔王城の魔族に襲い掛かったが、取り押さえられた。その後に、そこでほんの数日暮らしたが、今まで自分とは真逆の、温かい日常だった。俺はここが、自分の居場所になり得るのではないかと感じた」


「一度取り押さえられたならさ、オレ様も一緒に行くから!二人なら何とかなるかもしれないだろ?!なあ、オレ様はお前にとっての居場所じゃなかったのかよ?!」


 ウェルフは、大切な相棒が消えてしまうかもしれないことに、焦燥感を覚えていた。

 どれだけ必死に語りかけようと、終始真顔のマモンは、ウェルフの顔をどんどん青ざめさせた。


「さようなら、ウェルフ。俺はもう以前の俺とは違うが、お前のことは忘れない」


 そう言って、マモンはウェルフの元から去っていった。

 

「そして、オレ様とマモンはずっと会うことがなかった。今の今までな。まだ魔王城に居るかもしれねぇと思っていたが、やっぱり暢気に過ごしてたんだな」


 ウェルフは、過去を話し終えると、俺の方を向いた。

 裏切られたという話をした割に、彼の様子は飄々としている。

 

「魔王さん、気は済んだかい?元々、約束は明後日なんだ。俺はもう帰らせてもらうぜ」


「・・・ああ」


「待て!ウェルフ!」


 マモンの声を無視して、ウェルフは姿を消した。

 その場には、俺とマモンの二人が取り残された。


「すみません、ディザ様。私の勝手な都合に巻き込んでしまって・・・・・・」


 マモンは俺に合わせる顔がないと言いたげに、斜め下を見ながら申し訳なさそうにする。

 

「お前が隠したがっていたことを、俺が勝手に知ろうとしただけだ。むしろ悪いのは俺だ」


「いえ!私が自分の主に隠し事をしていたことが・・・」


「なんでも自分のせいに考えようとするのは、お前の悪い癖だ。今は、俺の否を受け入れてくれ」


「・・・はい」


 完全にではないが、一応は受け入れてくれたようだ。


「私は確かに、あいつを裏切ったかもしれない。だからと言って、昔の相棒の邪魔をする奴じゃないと思っていたのに・・・・・・」


 マモンは唇を強く嚙んでいた。

 今のウェルフに、納得がいっていないようだ。


 確かに、ウェルフは強い者には敬意を示す。

 ウェルフにとって、相棒のマモンは敬意を示すような相手なのに、魔王城への襲撃は、彼が今まで行っていた、支配のための攻撃と似ている。

 

 ふと辺りを見ると、いつの間にかすっかり暗くなっていた。

 今日一日に起きたことが、非常に多かったのを感じる。

 マモンも含め、一度落ち着く必要がありそうだ。

 

「とにかく、一度魔王城へ戻ろう。今後のことについても、一度ゆっくりと話し合わなければならない。今日は休んで、明日また魔王室へ来てくれ」


「承知しました」


 俺とマモンは魔王城へと帰り、その日を終えた。

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