第三十四話「悪魔と人狼」
部屋へと呼ばれたマモンは、いつも以上に神妙な面持ちだった。
「襲撃相手と接触した。相手の正体も分かった」
「ありがとうございます。それで、その正体とは・・・・・・?」
「白銀のワーウルフ。お前のことも知っている様子だった」
「・・・・・・!」
マモンは大きく目を見開いて反応する。
やはり、マモンが言っていたワーウルフは、あの男なのだろう。
「今回の襲撃者と、お前が気にしている相手が同じだったことが判明した。明らかにお前が露骨に反応している理由を聞かせてもらうぞ」
「すみません、これは私が解決したい問題です。失礼いたします」
そう言って、マモンは部屋を出ようとした。
「待て!どこへ行くんだ!」
俺の制止する声を無視して、マモンは部屋を出ていった。
「どういうことだよ・・・・・・」
幸い、ワーウルフが指定した日付は明後日で、今日一日準備ができなかったとしても、まだ明日には時間がある。
俺は、マモンを追いかけることにした。
他に注意を払う暇がないのか、マモンの尾行はものすごく簡単だった。
こっそり行動しているわけでもなく、周囲を警戒している様子もない。
ただ、ひたすら前だけを見て、歩き続けていた。
その彼の姿からは、焦りが感じとれる。
マモンの尾行を続けていると、たどり着いた先は、昨日に俺がワーウルフと戦った場所だった。
場所が一致したのは偶然だろうが、この森に向かおうと思っていたことは間違いない。
マモンは、あのワーウルフに会いに来たのだろう。
少し様子を見てみると、突然ワーウルフが姿を現した。
「久しぶりじゃねぇか、マモン。約束の日は明後日だぜ?」
「お前の蛮行を野放しにするわけにはいかない、ウェルフ。第一、俺が目的なんじゃないか」
「それはどうかなぁ」
どうやらワーウルフの名前は、ウェルフというらしい。
飄々とした態度のウェルフと、真剣な表情のマモンが向かい合って話をしている。
俺は、木に身を隠して、話を聞き続けることにした。
「なあ、またオレ様と組まねぇか?同じ志を持った者同士、力もあるんだから、有効に使わねぇともったいないだろ?」
「黙れ。俺は平穏を選ぶと決めたんだ。お前みたいなやつと同じにするな。俺の平穏を荒そうとするやつは、例え旧知の友であっても、容赦はしない。平穏を望まず、争いや支配ばかり求めるお前に、付き合う道理はない」
「すっかり変わっちまったなぁ・・・。だがよ、オレ様もお前と同じなんだ。お前は平穏のために争わないかもしれないが、俺は平穏のために争いをしないといけないんだよ」
「・・・どういうことだ」
「もう仲間じゃねぇやつに話すことじゃねぇよ」
ウェルフは、最初のおちゃらけな態度から、少し曇りが見えたような気がした。
それにしても、さっきから会話で気になるワードが飛び交う。
おそらく、マモンとウェルフは昔は組んでいて、何かがきっかけに別れたのだろう。
マモンと初めて話した時、管理の欲望に従って、人を襲っていたころの話だろうか。
「なあ、マモン。後ろの奴に全部聞かせてるけどいいのか?オレ様の鼻にさっきから臭いが入ってきて、気になるんだよな」
ウェルフは、彼から見てマモンの奥側、俺が居る方向を指さした。
「?!」
マモンは驚いた表情で、ウェルフが指をさしている、俺の方へ振り返る。
マモンには気づかれていなかったようだが、ウェルフは俺の存在に気づいていたようだ。
さすがの嗅覚と言わざるを得ない。
バレてしまっては仕方が無いので、俺は二人の前に姿を現すことにした。
「すまない、盗み聞きしてしまって」
「ディザ様・・・・・・」
マモンは複雑そうにしていた。
あれほど話そうとしなかったウェルフの話を、盗み聞きという形で知られてしまったからだろう。
「あー、もしかしてこいつが魔王ってやつか?まあまあ手ごたえあると思ったけど、そういうことか。なるほどねぇ」
ウェルフは、またおちゃらけた態度に戻って、顎に手を当てながら、俺の方をじろじろと見る。
「盗み聞きなんて、趣味が悪いねぇ」
「何か言い返そうとしても、何も言えないことが歯がゆいな」
「オレ様は、気になることを知ろうとする貪欲さは好きだぜ?魔王様なんだし、それぐらい欲が強くなくってはなぁ」
「ウェルフ、場所を変えないか」
早く俺の居ないところへ行きたいのか、俺とウェルフの会話に、マモンが口を挟んだ。
「なんでだよ、主様に内緒ごとか?」
「もうすでに、この方には自分の都合で迷惑をかけている。これ以上俺の都合に巻き込むわけにはいかない」
「ふぅん・・・・・・」
ウェルフは俺の方を横目で見る。
俺は、マモンの険悪な雰囲気に飲まれ、その場に佇んでいた。
盗み聞きをしていたのもあって、それじゃ失礼します、とこの場を立ち去ることも難しい。
二人がこの後どう動くかを待っていると、先に口を開いたのはウェルフだった。
「じゃあ、オレ様の都合に巻き込んでやるよ。そこのあんたも、オレ様たちのこと気になるだろ?」
「ウェルフ!!!」
マモンはウェルフに大声で怒鳴る。
だが、気になってしまっているのは事実だ。
話を聞けるなら聞きたい。
俺はウェルフの方を向いて無言で頷いた。
それを見て、ウェルフはにやりと口角を上げる。
それを見たマモンは、観念した様子だった。
「ずいぶん素直だねぇ、魔王さん。そういう素直なやつには、なんでも与えたくなっちゃうのがオレ様だ」
「誉め言葉として受け取っておこうか」
「くっ・・・!」
三人の様々な感情が入り混じる。
この状況を楽しんでいるウェルフ。
理解のため、冷静になろうとする俺。
もう後戻りはできないと、観念をしているマモン。
感情は三人とも違えど、三人は同じ空間で同じ話を共有しようとしていた。
「ディザ様、私事にまた付き合わせてしまって、すみません」
マモンは深く頭を下げる。
「へっ。鳥肌が立つぜ」
「黙れ」
「おおっと・・・・・・」
マモンはウェルフを鋭くにらみつけた。
そのあまりにも鋭い眼光に、ウェルフも思わず怯んでしまう。
「まあ、勿体ぶってるつもりはなかったけど、そろそろ話し始めるか。オレ様とこいつの話をよ」
そう言って、ウェルフは彼とマモンの過去を語り始めた。




