第二十九話「魔王城運動会」
城中の魔族たちが、闘技場へと集まった。
魔族たち皆観客席で、会場の真ん中に立つマモンの方を向いている。
これから開会式が始まるところだ。
俺は、入場口の手前で、魔王としての挨拶をするために待機している。
「それでは、魔王ディザ様の挨拶に入ります」
主催のマモンの話が終わった後、俺の出番になる。
「えー、ディザだ。俺はまだみんなのことをあまり知らない。今日の運動会では、みんなの能力をしっかり見たいと思う。最優秀選手には、俺が叶えられる願いを一つなんでも叶えよう。みんな頑張ってくれ」
「「「「うおおーーーーー!!!!」」」
俺の挨拶が終わると、観客の魔族たちは大声で叫んだ。
「ただいまより、魔王城運動会を開催します!」
そうして、運動会が始まった。
全体に適応されるルールがいくつかある。
最低一つの種目には参加すること。
属性の使用は可能であること。
他者の妨害をしてはいけないこと。
これだけだ。
早速最初の競技が始まる。
俺は、特別席として、闘技場の観客席の中でも、最も見晴らしが良い位置で、競技を観戦することになっている。
初めは短距離走で、一応色々な魔族が出たが、ケルベロスが圧倒的なスピードで圧勝した。
というか、人族とは違って、身体的特徴があまりにも違いすぎるため、種目によってはまるで勝負にならないのではないだろうか。
最優秀選手は、俺一人の判断で決めないといけないことになっているので、早くも困ってしまった。
玉入れなんかは、ハーピーや鳥人が玉をもって飛んで、直接かごに入れている。
優劣を決めるというよりも、自己アピールといった感じに見える。
まあ、元々の理由はそうなんだが。
午前の部が終わり、昼休憩に入った。
全員が昼休憩のために、食堂に押し寄せてしまっては、休憩中に何も食べられない者も出かねないので、開会式前に予め、ケットシーたちが食事を配布していた。
俺も、すでにもらっていた塩むすびとウィンナーを食べ、お茶で喉を潤す。
一人で食事をしていると、アイリスが特別席までやってきた。
「ディザ様~~、あ、食事中すみません、大丈夫でしたかっ?」
アイリスは悲しそうな顔をしていて、俺が食事中なのを確認すると申し訳なさそうな顔になった。
「いや、気にしなくていいぞ」
「それじゃっ、失礼しますっ」
アイリスは俺の横へ座った。
「調子はどうだ?」
「・・・・・・ずっと見てたんですから、分かってるくせにっ」
アイリスは唇を尖らせて拗ねる。
アイリスの言う通り、俺は全競技を観戦していたため、誰がどれぐらい活躍してるかは分かっている。
アイリスは驚くほどに普通だった。
彼女は、どうやら妨害で上位に上がる気満々だったらしく、妨害が禁止のルールが発表された途端、あまりにも平凡な身体能力で、良くも悪くもない、並みの成績をたたき出した。
開催前は気合十分だったのに、開会式のルール説明で、妨害禁止のルールを聞いたときの、アイリスの絶望した顔を見てしまったら、イジりたくなるのも仕方がないだろう。
「まあ、今回は個々の長所を見るための会なんだ。運が悪いと思え」
「・・・・・・はぁい」
アイリスは最優秀選手の望みが無くなったのか、ものすごく落ち込んだ。
だが、俺もアイリスの得意分野の本気を、結局見ることができなかったので、それはそれで残念だった。
食事を終えると、俺はアイリスと別れ、選手控室へと向かった。
ちょっと会ってみたい者たちが居た。
選手控室に行くと、休憩をしていたスライムたちが居た。
「あ、ディザ様!お疲れ様デス!」
「ああ、お疲れ様」
俺を見かけて、声をかけてくれたのは、スライムの一番年下の、スロームだった。
スライムは粘液状の生物で、小さい目と鼻が付いてるだけで、運動会で他の魔族と競い合うことは難しい。
だから、選手控室で、次の競技の選手の案内をしたりと、裏方に徹している。
「スライムたちのおかげで、この運動会も円滑に進んでいるのだろう。ありがとう」
俺はしゃがんで、極力スロームに目線を近づけて話す。
「そんな!僕たちは裏方も大好きデス!みんなが楽しんでるのを見るだけで、僕たちまで楽しいデス」
スロームは身体を伸ばしたり縮めたりして、喜びを表現している。
その姿は愛くるしかった。
スライムたちは、普段も城内の掃除をしているため、こういった裏で支えるような、目立たない仕事は嫌いじゃないのかもしれない。
「選手として出ていないから、最優秀選手の褒美を与えられなくてすまない。後日、こっそりプレゼントでもするから、みんなで欲しい物を考えておいてくれ。内緒だぞ」
俺は右人差し指を自分の唇に当て、しーっとした。
特別に褒美を貰えることなのか、仕事を認められたことなのか、スロームは感動で身体を震わせた。
「ありがとうデス!考えておきマス!」
昼休憩の時間も終わりそうなので、俺は再び特別席へと戻った。
午後の部も、基本的には午前の部と同じで、人族でもよく見たような種目だった。
ただ、最後の種目の、混合障害物リレーはかなりの見ごたえがあった。
それぞれの系統の魔族から、一名ずつ選出され、それが四チーム作られる。
つまり、系統による差は、均等に振られることで無くなり、そして様々な魔族が、個々の力を活かしていくリレーだ。
チームの内訳は、ハーピー、オーク、ゴブリン、ケルベロスだった。
「位置について、スタート!」
審判をしているマモンの部下であるアザゼルが、指を高く上に向け、その指先で小さく爆発を起こし、それをスタートの合図とした。
まず初めは、ハーピーたちだった。
第一走者は、スタートと同時に上空へと飛ぶ。
空高い位置に待機している、グリフォンたちからバトンを受け取り、次の走者に渡すまでが、ハーピーの区域だ。
「たっけー」
「俺なんも見えないんだけど」
目があまり優れていない魔族たちは、上空の様子をはっきりとは分からない。
そういう俺も、状況をはっきりとは分からないが、ものすごく高い位置まで飛んでいる姿は、見ていて面白かった。
ほぼ同じぐらいのタイミングで、ハーピー四匹が地上へと戻る。
次は、ゴブリンの番だった。
小柄なゴブリンたちは、網くぐりの勝負だった。
人族の大人では、スムーズに進むことは難しいぐらいの窮屈な網の中を、ゴブリンたちはバトンを持ちながら、スイスイと進んでいく。
まるで苦労するような様子はなく、どのゴブリンも楽々と突破した。
第三走者は、オークたち。
力自慢のオークたちは、バトンを持ちながら、反対の手で、巨大な岩石を持ち上げ、その状態で走らなければならない。
「フン・・・ンーーーー!!!!」
岩石の大きさはかなりのもので、おそらくオーク以外の魔族では持ち上げることすらできないだろう。
オークたちも、だいぶ苦戦をしていて、差が生まれつつあった。
一位のチームは、オークの長である、オルクのチームだった。
ちなみに岩石は、マモンに頼まれたので、俺が土属性で作った。
最後のケルベロスの区画は、障害物はなく、純粋なスピード勝負だった。
バトンを渡されたケルベロスたちは、バトンを口にくわえ、全力疾走する。
最初の短距離走でも見たそのスピードは、今まで見たどの生き物よりも、圧倒的な速さに見える。
「イケー!」
「頑張れ!頑張れ!」
チームのメンバーはそれぞれ、自分のチームを応援する。
しかし、ヘルハウンドたちのスピードは互角で、オークの区画で生まれた差は縮まることなく、そのままの順位でゴールした。
「やった~!」
「みんな、すごいだす!」
「ヨクヤッタナ」
「「「ワフー!」」」
一位のチームはその勝利を、お互いに喜び褒め合った。
負けたチームも、やりきったからなのか、みんなが良い笑顔だった。
すべての種目が終わり、閉会式が始まった。
開会式同様、マモンが会場の真ん中に立ち、他の魔族は観客席に座る。
「それでは、最優秀選手の発表です。ディザ様、お願いします」
マモンに呼ばれ、俺も会場の真ん中へと行く。
「みんな、今日はお疲れ様。みんなの個性を見ることができたし、白熱した勝負もあり、見ていて楽しかった。みんなも楽しかったと思う」
観客席の魔族たちは、誰もが良い顔をしていた。
今日一日を満喫した証に違いない。
「それでは、最優秀選手の発表をしよう。最優秀選手は・・・・・・」
会場内に沈黙が訪れる。
全員が、息を飲んだ。
「最優秀選手は、オルクだ!最後のレース、素晴らしかった!おめでとう!」
俺が選手の名前を挙げると、会場内で拍手が響き渡り、歓声も上がった。
オルクは、混合障害物リレーで、間違いなく活躍をしていた。
熱い戦いを見せてもらったし、俺は彼を最優秀選手にすることにした。
会場内の魔族も納得していて、オルクを称える声も聞こえる。
「では、これで魔王城運動会を閉会します!」
最後は、マモンの挨拶で、運動会は終了した。
俺は、この運動会の主催者であるマモンに、労いの言葉を贈るため、運動会が終わった後、魔王室へと呼んだ。
「お疲れさま、マモン。今日はすごく楽しかったよ。ありがとう」
「ディザ様がお喜びになったようで、私は光栄に思います。開催して本当に良かった」
マモンは深々と礼をする。
礼を言いたいのはこっちだったのに、俺が礼を言われてしまう。
それが、マモンだが。
「素晴らしい部下を持てて、俺もうれしく思う。今後もよろしくな」
「身に余る言葉ありがとうございます。私も、今後もディザ様にお仕えいたします」
マモンへの礼は言い終えたので、もう退室してもいいと伝えようと思った矢先、マモンが申し訳なさそうな顔をしてこちらを見た。
何か言いたげな顔をしているが、なかなか言い出さない。
「どうしたマモン?何か話があるなら、遠慮くなく話していいぞ」
「すみません、こんなタイミングで、しかもわざわざディザ様を騙すようなことまでして、申し訳ない気持ちしかありません。どうしても話さなければならないことがあります」
許可を出してもなお、マモンは言い淀んでいた。
よほど、言いづらいことらしい。
マモンは一呼吸を入れて、話始めた。
「実は、ディザ様を城へお呼びした理由は、運動会が主たる理由ではありません。魔王城が危機に陥っているかもしれないため、それに備えて、城にお帰りいただきたかったのです」
マモンの表情は、深刻だった。




